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「ブラックジャック」世界初の”MANGA"のオペラ化、重厚で濃密なステージで深い感動

高浩美の アニメ×ステージ&ミュージカル談義 連載第141回 ■ 「読んでると全部、音が聴こえてくる、手塚治虫が”このスピードで読んで欲しい”っていうのが、ありありとわかるんです」

連載 高浩美のアニメ×ステージ/ミュージカル談義
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第2章は『お前の中の俺』。幕開きはドラマチックな楽曲、1人の少年が救急車で病院に運ばれるシーンから。3話『ミユキとベン』がベース。少年は札付きの”ワル”。ある少女に一目惚れするが、彼女が癌で長くないと知る。不良少年たちが”不良行為”をするシーンは、ちょっとミュージカル的な表現。
この物語が書かれたのが1970年代の前半なので、不良のファッション、スカート丈の長いセーラー服や学ラン、派手なスタジャン、とノスタルジックだ。友達がいないと歌う少女と寂しさと苛立ちに満ちた不良少年、2人が惹かれ合う、という間柄ではなく、少年の一方的な片思いだ。彼は性根は心優しい。しかし、彼を取り巻く環境は厳しい。貧しさ故に不良行為に走る。しかし、少女を愛する気持ちは大きい。情感あふれる楽曲で少年の気持ちを表現。BJを訪ねるもかなりの金が必要と言われる。それはとても用意出来る額ではない。貧しい少年は銀行を襲う、だが、それは失敗に終わる……。たたみかけるような展開と楽曲、少年と少女、2人が”ひとつ”になった瞬間は圧巻で、泣ける。彼の姿はなくなるが、彼の内蔵は少女に移植され、彼は彼女の中で生きる。同じ”時”を刻むことによって少年の純愛は昇華する。ちなみに、病院の医師が、誰がどう見ても”お茶の水博士”であった。

第3章は『母と子のカノン』。のっけから嫁と姑の会話だが、嫌味の応酬だ。憎まれ口をたたく姑、それに応戦する嫁、動きはもはや”コミック”で姑の手の動きはウルトラマンさながらの”スペシウム光線”を嫁に。家にはあのヒョウタンツギが……。そんなこんなのところに夫が帰宅、いつもの嫁vs姑にうんざりの様子。ここはテンポのよいコミカルな曲調で進んでいく。問題は”お金”。こずかいをせびる姑に嫁は嫌気がさしていたのだ。そんな”おばあちゃん”は外出する。どこへ行くのか、後をつける息子。ある家にたどり着く……。
後半は今までのコミカルな雰囲気がガラッと変わる展開。出だしが、あまりにもマンガチック過ぎて笑ってしまうのだが、前半とのギャップが激しい分、”おばあちゃん”の本当の真意がクリアーになる展開。ラスト近く、息子は究極の選択を迫られる。現代にも通じるシビアな物語だ。89話『おばあちゃん』がベース。いったん幕となり、ラストのナンバー『コップ一杯の水』では全ての登場人物とコーラス隊全員が舞台に上がっての大合唱。命と自然、”コップ一杯の空と曇”と歌う。壮大なテーマを歌う楽曲で、観客の興奮と感動はここで最高潮に達する。第1~3楽章、休憩含めて3時間超、短く感じるくらいの密度の濃い舞台、そして深い感動を呼ぶ作品であった。

今回の作品は原作をそのまま脚本にせず、かなり翻案されている。オペラという形式、全てが音楽で進行するので、翻案によって物語のテーマがより印象的にもなる。また、演出面では”省略と誇張”的な手法を用いている。前衛的かつ印象的な演出場面もあり、自由な発想でのステージングである。
また、原作の”コマ割り”を彷彿とさせる歯切れの良さも感じる。歌うブラックジャックは新鮮で、かっこいい。演じるは大山大輔、ミュージカル『オペラ座の怪人』のタイトルロール等、オペラ以外の作品にも出演歴がある実力派だ。また、振付の長谷川寧はその斬新なフォーメーションで作品世界にダイナミックさをプラスさせる。気になるのが、ピノコ、全ての作品に顔を出す。物語には絡まないが、思いがけないところでひょっこり出てくるのが、なんとも言えず、可愛い。一回だけの公演だったが、再演して欲しい演目、出来れば最低でも日本の主要都市だけでも、と思う。さらに欲を言えば、世界進出も果たして欲しい。
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《animeanime》

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