安彦
いろいろ『百日紅~Miss HOKUSAI~』を観ながら疑問があったんですよ。わりと淡々とやっていて、北斎親子がいわくありげでドロドロしたところに入っていくのかと思ったらそれも寸止めで。だから何をやりたかったのかなっていうのがあったんですが、お話をきいて非常によくわかりました。
もうひとつ気になったのが背景なんです。『鉄コン筋クリート』の背景が素晴らしいし、それを動かしたのも素晴らしい、ここまでやるか恐ろしいと思ったんですが、やはり時代はCGですよね。簡単に言うとCGの江戸の映像にちょっとした違和感を覚えたんですよ。
原
背景に関しては、CGに見える部分もありますが、基本手描きなんです。
安彦
やたら綺麗だからCGかと思いました。
原
基本手描きの世界観です。カメラワークで橋を寄りから江戸全景まで引いたりするのはCGですが。
安彦
背動(背景動画=動く背景)も手描きですか?
原
あの背動は手描きです。モブは3Dも入れていますが、お栄がお猶のところに走って行くカット、家の中から外まで走ってカメラが回りこむっていうのは、完全に背動です。
安彦
最初のほうの街の描写は?
原
手描きの背景を主観で動かしているというのはありましたね。今回の背景を担当した大野さんがかなりキャリアのある方なので、アナログ時代のちょっと騙し感みたいなものまでもうまく作品に入れ込んでくださったと思います。
―― 最後に作品の見どころをお願いします。
原
長年の夢でもあった杉浦日向子さんの傑作『百日紅』を僕なりに誠実に1本の映画にできたと思っていますので、ぜひたくさんの人に観ていただきたいと思います。安彦さんも『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の第2話も製作中とのことで、そちらも皆さん期待して待っていただければと思います。ありがとうございました。
安彦
話の中でも言いましたが、『THE ORIGIN』は普通に作っているんですよ。その結果ご好評をいただいておりまして幸いです。やってきたことが「これでいいんだ」と判ったので、これからも普通に作り続けます。
その中にはもちろん、アニメ的なスペシャルなテクニックが入ったり最先端の表現が入ったりするとは思いますが、そうした部分はスタッフのパワーなので。僕の基本は「普通」で、原監督が念頭に置いているハートフルっていうものと全く同じです。ハートな世界なのだと。ともすれば非常に無機的に描かれていたガンダムをハートフルな次元に引き戻すのがこの作品ですから。
原さんにもぜひ観ていただいて、感想などきかせていただけたら幸いです。
原
はい。安彦さんの普通を確かめたいと思います。やはり、“普通”って大事ですよね。
安彦
アニメを観て、「わからない」とか「理解できない」っていう作品がすごく多いんですよね。今回現場の仕事を見て“普通”じゃない部分があって、「普通にやってよ」とすごく思ったんです。絵コンテの解釈にしても。“普通”に見ればわかるはずなんだけどなっていうこともありまして。だから開口一番、原さんの作品に対して“普通”と言ってしまって気分を害されたかもしれませんが、“普通”というのは、そういう意味も含めてのことです。
原
僕も“普通”というのは、とても大切な言葉だと思います。作品は、自分ひとりがよければいいわけじゃないですよね。
安彦
最近は、「難しい」とか「すごい」っていうことを期待して作っている作品が多いのではないかと思います。そういうのも時々はいいんですが。それをやらないと技術的には進まないのも事実ですから。でも、最近はちょっとそっちに行きすぎているんじゃないかって。
原
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』も『百日紅~Miss HOKUSAI~』もどちらも“普通”にやっているので、皆さんに観ていただきたいですね。
安彦
そうですね。
※動画配信のお知らせ
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』総監督:安彦良和 スペシャル対談
~ゲスト『百日紅~Miss HOKUSAI~』監督:原 恵一~
をベースに対談記事は構成しています。
動画は、6月上旬バンダイチャンネル他にて公開予定。
左)原 恵一氏、右)安彦良和氏
『百日紅~Miss HOKUSAI~』 http://sarusuberi-movie.com/
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』 http://www.gundam-the-origin.net/