安彦
他のアニメ監督だと、もっと世界を広げたりテクニカルに走ったりすることが多いですが、そういう風には行かなかったんですね。
原
僕の場合はこういう世界観が作りたいとかこういう映画が作りたいから作るみたいな事とは、ちょっと動機が違う気がしているんです。やっぱり実写も含めたちゃんとストーリーのある映画、そういうものが作りたいと思っているんですよね。
安彦
『河童のクゥと夏休み』もそうですし『百日紅~Miss HOKUSAI~』もそうですよね。
原
絵だけが突出したような作品にはあまり興味はないんですね。思わせぶりな見せ方にもそれほど興味はありませんし。杉浦さんの作品を見ていると、そのへんが実に潔いんですよね。ここの背景は全く描かないとか、映像の演出や監督をやっている方ならもうひと押しふた押ししたいところで寸止めするような断ち切り方をマンガの中でするのが、実に鮮やかなんです。
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安彦
そういう部分が関係あるのかもしれませんが、映像を観ていると「もうちょっといけばいいのに」という印象もあったりするんですよね。例えば親子の葛藤を描く部分なんかはもっとやってもいいと思ったんですが。
原
そこをあまり押さないところが、杉浦作品の良さだったりするんですよね。江戸の言葉で言うと粋と野暮があるじゃないですか。そういう意味では、野暮なものにはしたくなかったんです。多分押し過ぎると野暮になってしまうだろうと思ったんです。
――原さんが『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』を観られた感想はいかがでしたか?
原
懐かしかったです。久しぶりにガンダムの世界っていうものに触れて。観ていたのは、二十歳くらいの頃ですかね。それを思い出しました。
安彦
仕上がりとしては「普通」の感じでしょ?
原
劇中では、政治とか血筋とか、そういうことをきちんと描いているじゃないですか。観ていて安彦さんにうかがいたかったのは、モデルにしてる実際の歴史などがあったのかという部分なんです。
安彦
特定のものはないですね。ただ歴史に対する考え方として、歴史はこういうものであるというのはあります。
原
雰囲気的には、19世紀的というか、第一次世界大戦の前後みたいな匂いがしました。
安彦
一番わかり易いのはそこでしょうね。
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原
まだ名家の血筋とかが貴重であった時代、そういう匂いは感じました。
安彦
革命と戦争の時代ですよ。それが第二次世界大戦くらいになると、もっといろいろな要素が入って複雑になるんですよね。冷戦時代もそうですし。
原
やっぱり戦争の仕方も変わってくるじゃないですか。
安彦
私が思うに、富野由悠季が最初の『機動戦士ガンダム』で核戦争はダメだと枷をかけたのも、一時代前の戦争という形でフリーズさせたかったからなんでしょうね。
原
なるほど。