――それにしても、『機動警察パトレイバー2 the Movie』の続編を、『首都決戦』という実写版で観ることになるとは、夢にも思いませんでした。監督ご自身の手応えはいかがですか。
押井
『パト2』をやったときに、頭の中では実写として演出してたんですよ。同じようにロケハンもしたし、そこは案外違和感がなかったよね。
だけど問題は、実写でやるときに獲得しなきゃいけないものがいっぱいあったということ。必要な背景がないとか、素材をつくらなきゃいけないという実写特有の問題がね。脚本はともかく、シリーズをやって、ある程度どうすべきかは結論が出てたから。
――それはどういう結論ですか。
押井
今回は、演じる人間、役者さんを根拠に撮るしかないんだと思った。お話とか背景とか合成諸々も含めて、それらはもちろん必要だけど、一番大事なのは登場人物たち。ある種の葛藤や存在感みたいなものを丁寧にフォローしておかないと、いくらアクションやってもダメ。それにアニメっぽい映画にもしたくなかったから。
――押井監督は映画を撮るとき、二時間という枠の中では「ドラマ」か「世界観」の選択があるという考え方で、いつも「世界観」に軸足を置いて演出してきました。それが今回逆ですよね。
押井
うん、逆だよね。
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(C)2015 HEADGEAR/「THE NEXT GENERATION -PATLABOR-」製作委員会
――キャラクターに寄り添っている点がとても新鮮でした。
押井
それは長年のテーマでもあったんだけど、まず何よりも、実写であるにもかかわらず現実に根拠を持てないというね、これが予想外だった。つまり、(東京で)撮れる場所がないんだよ!
――見慣れた東京という街を舞台にして、ちゃんと「首都決戦」しているわけですけど、現場はそれほど単純ではないと。
押井
撮れるのは空撮ぐらいなんだよ、極論すれば。あとは水の上だけ。これでどうやって映画を撮れっていうんだ、という話で出発したから。あとはいろんなパーツを寄せ集めて、あたかも「全部東京で撮ってます」というようなことにするしかないわけ。
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――そう言いながらも日本版『ダイ・ハード』じゃないですけれど、ハリウッド映画のレベルというか、押井監督が目指す念願の特撮映画がついにカタチになったように思えます。ここまでのモノは日本映画ではそうそうないですよね。
筧
ないですね。こういうタイプの映画はハリウッドにでも行かない限り出られないと思っていたので、日本で実現するのは本当にうれしいですよね(笑)。
押井
意外にあるようで、ないんだよ。
――従来の日本映画と一線を画すポイントはなんだと思われますか。
押井
一つ言えるのは、ハンガー(格納施設/二課棟)をつくっちゃった。これが一番大きかったと思う。そこで役者さんが絶えず芝居してるわけだけど、観てる人間は、あのハンガーからウソが始まってることに気がつかない。ハンガーだけど、実際のハンガーの機能はない。要するに、あそこからウソが始まってるというね。
――僕もシリーズの現場を見学する機会があって、二課棟のセットを歩きましたが、上海亭のお品書きが中までちゃんと書かれているのにビックリしました。
真野
そうなんです!
押井
テーブルの上に置いてある上海亭のメニューまで克明につくってよと。それが大事なんだよ、やっぱり。そこで役者さんの日常が再現できてないとね。
真野
ホント、感謝ですね。デスクのまわりがゲームの雑誌だったりとか、ロボットのフィギュアがいっぱい並んでたりするので、パッと見ただけで「明のデスク」というのがすぐわかりました。
それこそ引き出しを開ける芝居なんかないんですけど、ふと待ち時間に引き出しを開けるとロボットのものが入ってたりとか、常にその世界観でいられるのが楽しかったです。ちょっとオフィスに行って自分の席座でぼーっとするのも、「あ、これも明なんだな」って(笑)。
――美術的にも明の役づくりを演出していたわけですね。
真野
オフィスを出ると、実際ギターが置いてあったり、マンガが置いてあったり、卓球台が置いてあったり。撮影の空き時間はそれで遊んでいたので、演じるというよりはこの世界で生きてるなって。……(撮影が終わって)恋しくなりますね。
押井
もう跡形もないけどね。(劇場版で)全部吹っ飛ばしちゃったから。
一同
(笑)。
押井
もう最後だから盛大に全部ぶっ壊せって。だからいまは廃墟と化してるよ。でも、そういうふうなところがないと最終的なウソにたどり着けないんだよ。役者さんの気持ちの部分も含めてさ。
(後編につづく)
映画『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』
全国公開中
http://patlabor-nextgeneration.com/movie/
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