マンガはなぜ赦されたのか-フランスにおける日本のマンガ-第8回「日本資本VIZの進出」
短期集中連載(毎日曜・水曜更新)、全9回予定。■ 豊永真美 [昭和女子大現代ビジネス研究所研究員] [第7章 VIZの参入― 赦されない日本企業]
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KAZEの創業者であるセドリック・リッタルディは2012年に退社した。このとき、KAZEの行為に対して怒りを表明したのがAKATAの代表のドミニック・ヴェレだ。
ヴェレはフランスの老舗マンガ出版社のTONKAMの創業者で、その後バンド・デシネ出版社のデルクールが興したAKATAの代表となった。デルクールがTONKAMも買収したので、ヴェレはAKATAとTONKAMの双方を見ることとなった。
なお、ヴェレのAKATAは、以下に紹介するインタビューの1年後に2013年には、デルクールから独立した。デルクールより利益を追求したのに対し、ヴェレはより心に響くマンガを出版したかったためである。
ヴェレはフランスのマンガ界には珍しく、メディアによく露出する人物で、日本のメディアにも登場している。まだ、クール・ジャパンなどという言葉がなかった時代にドミニック・ヴェレは清谷信一の「Le OTAKU―フランスおたく事情 」(1998年KKベストセラーズ)や夏目房之助の「マンガ世界戦略 - カモネギ化するマンガ産業」(2001年小学館)でインタビューされているし、2000年には自ら、中央公論に寄稿している(「普通の文化消費財へ(フランス)(滑落する日本製アニメ・マンガ -- 最大の輸出ソフト産業は今)」『中央公論』(115-10))。日本のウエブメディアにも登場している(*27)。
夏目房之助は自身の著書の中で、ヴェレとの会話の「かみ合わなさ」について以下のように書いている。
「ドミニクと話していて,はじめ違和感をおぼえたのは,彼がやたらと「マンガは文化であり芸術である」と強調したがる点だった。私にすれば「ゲージュツのお座敷なんぞかかんなくたってマンガはマンガでぃ。大衆娯楽でいいじゃねぇか」という思いがあるので、どうもひっかかるのだった。が,彼はマンガを認めない人々に「芸術」として認めさせることが、まずは第一歩と考えているようなのだ。BD 自身が「芸術化」することでようやく社会的に認知された経緯があるようで、マンガも BD 同様に認めろという主張らしい。
要するにフランスで文化として認められるには、映画,文学,純粋映画など既存の「芸術」分野であって、BD ですら一般にはさげすまれている。が、一部の BD の「芸術」性の高さは,それもかろうじて認められ、まずはマンガをそこまでひきあげたいということのようだった。」(*28)
上記のインタビューからもわかるとおり、ヴェレはかなり癖のある饒舌な人間だ。グレナやKANA、Ki-oonの担当者が、一般的に優等生的な応答しかしない中で、かなり人間臭いといえる。
ヴェレは、リッタルディがKAZEを去った直後の2012年のActuaBD(ウエブ・マガジン)のインタビュー(*29)で以下のとおり語っている。タイトルは「フランスのマンガ市場はパールハーバーに直面しているのか」というタイトルだけでも刺激的だ。以下、一部を抜粋して翻訳する。
「日本のNo1企業がフランスでまず、権利を販売する企業を創設し、その後フランス企業(KAZE)を買収し、その子会社がライセンスを独占するということがわかるとうこと、特に、グレナやKANAが売上の30%を(集英社の)ライセンスからあげていることを鑑みると、それはよくないことといわなくてはいけません」
「フランスの出版社は集英社がベストセラーに関してはKAZEにライセンスを売るということ、KAZEは年間25タイトルを出し、市場シェアを上げるということを知りました。フランス企業の間では、電話が飛び交いました」
「文化を単なる産業とみなすことは間違いです。過去10年のアメリカの文化産業を見ると、ハリウッドをプロパガンダのように扱い、米国国内の平和も脅かされるし、将来の国のイメージにもよくありません。日本人もおなじようなことをしようとしています。でもフランス人を傷つけないでほしい、フランスは心で動く国なのです。日本の文化を紹介するためにフランスは非常に努力しました。このような形で日本企業が進出してくることは乱暴です。これではまるで真珠湾攻撃のようです。日本人にとっては賢明な作戦ではありません」
抜粋だけでもヴェレの怒りがわかるであろう。ちなみにヴェレはフランスの中でもことさらマンガを芸術として扱うことに拘りを感じている人間だ。
KAZEがフランスに進出した際の嫌悪感は、ヴェレの個人の特性に負うところも大きく、フランスのマンガ出版社すべての意見ではない。しかし、ヴェレから見ると、集英社のやり方はまるで、「舶来屋」に登場するグッチのようなやり口に映ったようだ。
KAZEは既に、フランスの出版社が出版していた「One Piece」や「NARUTO」のライセンスを取り上げることはなかった。しかし、少年ジャンプに2009年から連載が開始された「黒子のバスケ」はKAZEが出版した。フランスはバスケの強豪国であり、うまくいけば「キャプテン翼」のような人気を博することも期待されたが、実際にはさほど人気を得ることはできなかった。フランスと日本の学校生活が違いすぎるため、フランスで日本の学園ものが人気になることは難しい(たとえば、KANAから出版された「君に届け」もさほど大きな成功を収めていない)。ゆえに、「黒子のバスケ」があまり人気を得ることができなかったといってもただちにKAZEのせいにすることはできない。しかし、KAZEはフランスに上陸後、思うように成果を上げていないのも事実である。
[/アニメ!アニメ!ビズ/animeanime.biz より転載記事]
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