マンガはなぜ赦されたのか -フランスにおける日本のマンガ- 第5回「「郊外」から成功したマンガ出版社:Ki-oon」-前編- 2ページ目 | アニメ!アニメ!

マンガはなぜ赦されたのか -フランスにおける日本のマンガ- 第5回「「郊外」から成功したマンガ出版社:Ki-oon」-前編-

短期集中連載(毎日曜・水曜更新)、全9回予定。■ 豊永真美 [第5章「郊外」で起業するということ-前編―] 新興マンガシ出版社Ki-oonの誕生とビジネスにフォーカス。

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■ 「郊外」から成功したマンガ出版社

フランス政府はこうした状況を打開するひとつの方策として毎年、「シテの才能(Talents des cites)」という賞を出している。シテというのは、郊外によくあるHLMが集まる団地の総称だ。2002年から始まった制度で、2015年現在では都市・若者・スポーツ省と上院が主催している。QPで起業した企業を表彰する制度だ。しかし、表彰を受けたからといって、企業が存続することは難しい。2010年時点でそれまで375の企業が表彰を受けていたが、そのとき存続していたのは60%にすぎない(*18)。

そのような中で、成功事例とされているのがマンガ出版社ACメディアだ。ACメディアは2003年に設立された独立系マンガ出版社でレーベル名のKi-oonという名前で知られている。創業者のアメッド・アニュはシテの代表とされるトラップ(Trappes)の出身。トラップはパリ郊外のベルサイユの近くにあるが、世帯数の6割近くがHLMに住んでいる。HLMの世帯数の割合でいうと2011年時点で、フランス10位という典型的なシテである(*19)。
トラップはまた移民出身のフランスのコメディアンのジャメル・ドブーズの出身地としても知られ、2005年の郊外での暴動がニュースとなったときは、大きな暴動が起こった地域でもある。Ki-oonはそのような典型的シテのHLMの1室で誕生した。

創業者のアメッド・アニュは父親がセネガル出身、母親がモーリタニア出身の黒人である。家庭で話す言葉はセネガル・モーリタニア付近で話されているフラニ語(フランス語でPeul)だ。1976年生まれの6人兄弟の長男で、兄弟6人が同じ部屋で寝起きするという環境で育った。
子供のころはちょうど日本のアニメを数多く放送する「RecreA2」や「クラブ・ドロテ」の全盛期であり、「聖闘士星矢」がお気にいりだった。日本のアニメが好きなあまり、日本語教育で定評のあるパリ第七大学に進学し、JETプログラムで鳥取県の三朝温泉のある三朝町に2年間滞在する。

三朝町はJETプログラムを通じて93年からフランスより留学生を受け入れており、アニュは99年から2001年にかけて4代目のフランス人留学生(*20) として滞在した。アニュの回想によると、三朝町の人の99%は黒人を見るのが初めてで、滞在初日バスに乗ろうとバス停で待っていたら、バスの運転手が黒人を見てパニックになり、バス停で止まることなく通り過ぎていったという。
それでも、アニュは、三朝町の人々の反応は人種差別からよるものではないということは感じており、日本語が堪能となるにつれ、町の生活になじんでいった。「フランスのJETプログラム参加20周年」(*21)という冊子にアニュが寄せた文章によると、三朝町では子供に「アメッドさん、次に来るときもまた黒いままですか」と無邪気に聞かれたこともあるという。それは偏見に基づくもではなく、アメッドもこの話をフランスの家族にしたときは家族が5分間笑いころげたという。
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