劇場公開を間近に控え、デジタル系エンターテインメント映像誌「CGWORLD」編集長の沼倉有人氏と、アニメ情報サイト「アニメ!アニメ!」編集長の数土直志氏の特別対談を行った。“編集長”という共通項を持つふたりに、SF映画ファン目線で本作の見どころを語ってもらった。
[取材・構成=沖本茂義]
『ジュピター』
3月28日(土)新宿ピカデリー、丸の内ピカデリー他 全国公開
http://www.jupitermovie.jp
アニメ!アニメ!×ジュピター特集ページ公開中!
/http://animeanime.jp/special/388/recent/
■「SF映画」と構える必要はない。むしろ一級の「王道エンタメ」。
――まずは本作をご覧になられての率直な感想からうかがいたいと思います。
沼倉有人氏(以下、沼倉)
もともとウォシャウスキー姉弟は『マトリックス』(99)からずっと好きで、とくに映像作家としてのセンスに惹かれてしまうんです。『マッハGoGoGo』を実写映画化した『スピード・レーサー』(08)では、ああいった華やかなSF表現はありそうでなかったので衝撃を受けました。実は公開当時から、「『スピード・レーサー』は、21世紀の『ブレードランナー』だ!」と言い続けているんです。完全な独りよがりですけど(笑)。
数土直志氏(以下、数土)
そうですね。『スター・ウォーズ』みたいな大河ストーリーのSF映画はありますが、オリジナルでここまで超大作というのは意外にありそうでありません。壮大な世界観を創りあげるのはひとつの才能で、ウォシャウスキー姉弟はまさにそうした才能に望まれた存在ですよね。
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沼倉
前作『クラウド アトラス』(2012年)でも、約500年にわたる6つのエピソードを、それまでのウォシャウスキー作品の代名詞でもあったVFXを前面に押し出した演出ではなく、丁寧かつ巧みなカッティングによって3時間半の尺に上手くまとめている。
ウォシャウスキー姉弟は、かなりポイントを突いた表現をされるフィルムメーカーですが、僕は好きなんです。
――ではウォシャウスキー姉弟ファンとして本作をどうご覧になりましたか?
沼倉
これまでの変遷を踏まえたうえで、『ジュピター』で新境地に立ったという印象ですね。前作『クラウド アトラス』は、重厚な物語の中にマイノリティや弱者への愛を込めるという静的にまとめられた作品でした。それに対して、『ジュピター』は若い世代、ティーンエイジャーを意識しているなと感じました。
数土
たしかに僕も「大衆的なエンターテインメントをやろう」という気概を感じました。主人公に若手の人気女優のミラ・ニクス、そのパートナーでありヒーローとしてチャニング・テイタムと、明らかに10代がうれしくなるキャスティングですよね。
沼倉
会話のトーンも少し軽めで。物語や設定にしてもシンデレラ的な「冴えない女の子だと思っていたら実はお姫様(女王様)だった」という王道ですから。これがウォシャウスキー姉弟によるメリハリの効いた映像で表現されるのが面白い。
数土
SF映画として、主人公が女の子というのも新鮮でしたよね。「SF映画」は女性からすると足を運びづらいと思われがちですが、王道のシンデレラ・ストーリーなのでむしろ女性のほうが感情移入できて楽しめるのではないかと思いました。
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――「SF映画」だといってあまり構える必要はなく、王道のエンターテインメント作として楽しめる作品だと。
数土
ええ、たぶんカップルで観ると愛が深まると思います(笑)。
沼倉
たしかに(笑)。とくに婚礼シーンは、ヒロインが着用するドレスなど(米アカデミー賞受賞者)の石岡瑛子さん的な世界観で思わずウットリしてしまう。「ハーレークイン」的なものが好きな方にもオススメです(笑)。