藤津亮太の恋するアニメ 第22回 「ありのままで」の不思議 後編 「アナと雪の女王」
藤津亮太の恋するアニメ 第22回は、『アナと雪の女王』の後編だ。エルサの“ありのままで”を紐解く。
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「ありのままで」の不思議 後編
『アナと雪の女王』
作・藤津亮太
「アナはエルサの孤独が癒やせないってどういうこと?」
『アナと雪の女王』の話をしていた僕が、「アナがいくらいろんな体験をしても、エルサの孤独は癒やせないんじゃない」といったことについての質問だった。
「そもそもエルサが、自分を押し殺して生きなくてはならなくなったのは、両親があの氷や雪を操る能力を、社会に適応するために生きられるようにと徹底して封印するように育ててしまったからでしょう。エルサはそれによって、自尊感情を持てなかった。だからそんな社会に背を向けてでも自尊感情を取り戻す『Let It Go』が感動的なわけで」
Nは珍しく、素直に頷いている。
「だからエルサを救えるのは、両親の『おまえのあるがままの姿を受け入れてやれなくてすまない。あのとき手袋をおまえにつけるべきではなかった。その能力を押さえつけず、コントロールする道をともに探すべきだった』という謝罪だけだと思うんだよね」
「アナはそのポジションにはいない、というわけね」
「そうそう。アナは、エルサを抑圧したわけじゃないし、超能力で楽しく遊んだ記憶も消されているんで、いくらエルサを受け止めようとしても、エルサからすると『あなたは私の苦悩を知らない』ってなっちゃうんだよね。大概のパターンだとそういう時は……」
「彼氏でしょ?」
Nはうんざりした顔をした。
「エルサの能力を恐れず、素直に受け止めてくれる男性キャラを投入する。……ただ、それはありきたり、というか、『アナと雪の女王』のおもしろいところを相当損なう展開よね。現実には、そうやって出会った男性によって救われる女性もあるんだろうけど、物語にするとなんか結局、“王子様”が必要なのか、という感じは否めないわねー。」
Nは露骨につまらなそうな顔をした。
「まあ、その通りだね。あと、それだと完全にエルサが主人公になってしまって、アナの立場がない。というかいらないキャラになってしまう。……というわけで、アナはエルサを救えないはず、と思うわけ。このあたりが『Let It Go』の出来が素晴らしかったから、エルサのキャラクター性を変えて、ストーリーも変更したということの結果のようにも思うんだよね」
Nは、そこでちょっと眉をしかめた。
「うーん、じゃあアナはどうやったらエルサを救えるのかしらね」
僕はそこでちょっと困ってしまった。アナが救えない理由はいろいろ考えたけれど、救えるためになにが必要かは、まったく考えたことがなかったからだ。
「うーん、なんか難しいなぁ」
「いつも理屈ばかり言ってるんだから、こういう時にもちょっと頭を使ったらいいんじゃない」
相変わらずNはいうことがキツい。だいたいNが理屈を言って絡んでくることのほうが多いじゃないか。
「えーと……アナはエルサの魔法を心臓に受けて次第に体が凍ることになるよね」
《animeanime》
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