―ニッカー絵具を訪ねて (3)
■ 数井浩子(アニメーター・演出)
ニッカー絵具はアニメ絵の具メーカーではない。売り上げの9割は教材である。内訳は、主に、美術・デザイン系大学や専門学校向けの教材としての絵の具が5割を占め、次いで、百貨店や文具専門店などの小売店に卸す画材が4割である。
残りの1割はさまざまであるが、そのなかに、アニメ用の絵の具も含まれる。他に、人形メーカーで使われる絵の具、神社仏閣の補修用、エクステリア用の絵の具などがある。
■ 人形も、神社も、ビルの外壁も、セルも塗る―特殊絵の具はいつもオーダーメイド
ニッカー絵の具には、どの顔料をどれくらい配合するか、どの接着剤をどれくらい入れるのか、絵の具ごとに「レシピ」といわれる配分表がある。
絵の具の原料は「顔料」と「エマルジョン」である。エマルジョンとは顔料と混ぜる薬剤のことで、「接着剤」「消泡剤」「防腐剤」「増粘剤」「バインダー」などがある。たとえば、ポスターカラーの白は、「チタン」「亜鉛化」「防腐剤」「バインダー」などを混ぜ合わせてつくられる。
また、この混合の配分比は用途によって変わってくる。画用紙に塗る絵の具と、セルに塗るための絵の具と、外壁を塗る絵の具では、それぞれ接着剤の種類と配合が異なる。
ニッカー絵の具の「壁画プロジェクト」に使われる特殊なエクステリア用の絵の具は、歩道や高架下だけでなく、商店街のシャッター、防波堤にも描画できる。
絵の具の種類を増やすことは、いい面もあれば悪い面もある。絵の具の可能性が広がる一方で、大量に注文がとれない絵の具でも一定量は製造しなくてはならないため、経営という観点からみれば決して効率がいいとはいえない。
しかし、メーカーからのさまざまな要望に応えるために、ニッカー絵の具は用途に応じて絵の具を開発してきた。たとえば、人形メーカー向けには、人形の素地になじみやすく、なめらかに塗れる絵の具を開発した。神社仏閣の天井などを飾る絵を補修するためには、退色しない耐久性の高い絵の具を作った。
「つい最近は、美術の先生から、水彩の絵の具だけど油絵の具と同じようなテクスチャーが表現できるようなものを作って欲しいって言われましたよ」
社長の妻倉一郎さんは嬉しそうに言う。もちろん、すべてのオーダーに応えているわけではないだろうが、ニッカー絵の具のような「一見無理なオーダー」にも柔軟に対応する態度は、絵描き側にとってはなによりも嬉しい。
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