藤津亮太の恋するアニメ 第10回 キスの記憶(後編) 「とらドラ!」 2ページ目 | アニメ!アニメ!

藤津亮太の恋するアニメ 第10回 キスの記憶(後編) 「とらドラ!」

大好評、藤津亮太さんが届ける”アニメ”の中の恋の数々。今回は、あの名作 「とらドラ!」の登場。「とらドラ!」におけるキスとは?

連載 藤津亮太の恋するアニメ
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「……江戸時代の花魁の話は知ってる?」 
Nの話はいつも唐突に話題が飛ぶ。たぶん『くるみ』を知らないので、その話題を避けたのかなと僕は思った。

「吉原ではキスのことを呂の字といったらしいけれど、位の高い花魁ほど、その呂の字を許さなかったそうよ。吉原のような場所でさえ、キスは特別だったってことでしょ。これはキスが、より心に近いものだと思われていたからじゃないかしら。それと同じ構図は、今のキスの中にもあって、それが物語の中で描かれる時には一層強調されるのだわ」
そんなに抵抗されるって、心とかなんとかじゃなくて、江戸時代にはキスは、変態行為だったんじゃないの――とテキト-なことをいって混ぜっ返そうかとおもったが、それはかえって話をややこしくすると思って、僕は話の方向を変えることにした。

「Nの言いたいことはわかった。つまり、たぶん、この問題は、心か/体か、ということではないんだよ」
Nは「?」という顔をしている。
「世の中には、いいキスシーンか、どうでもいいキスシーンかの2種類しかないんだよ。で、いいキスシーンというのは、必然的に、純粋な心の現れであり、描かれざるベッドシーンの代りも果たしてる、そういうことじゃない?」
「……なんだか、丸め込もうとしているような気がするけど……確かに、いいキスシーンでなければ、こういう議論にはならないのは確かかもね」

ふう。僕は一息ついて、たたみかけた。
「『とらドラ!』のキスシーンがいいのは何度もキスをするところだね。全部で4回ぐらい? そこに生っぽさがあるんだよね」
「そう、キスを繰り返しは、確かにいいわよね。その時に、そんなに顔が離れないももいいのよ。こう、鼻先で体温を感じられるぐらいの、普段だったら絶対入り込まない距離に入り込んだ感じがして。あと、あんまりベトベトしたキスじゃないのもきれいよね」
「画面見ると、唇、最初は普通なんだけど、キスした後はちゃんとハイライトが描かれてて、濡れた感じになってるんだよねー」
「へー、細かいわねー。そう、細かいといえば、セリフのデティールもいいのよ。竜司の唇が乾燥していてささくれていることを大河があれこれ言うじゃない。あれもいい」
「ああいうのって、男よりやっぱり女性のほうが気にする感じあるんだよね。確かにそういう生っぽさはあった」
「何、昔、やっぱり唇がささくれていたわけ?」
Nがいたずらっぽく言った。

「……いや、逆。こっちは気にしてなかったんだけど、学生のころに、『タバコくさくない?』って言われたことは何度かある。みんな気にしながら吸ってるんだなーって、ちょっとおもしろかったんでよく覚えてる」
Nは大笑いすると
「その時、なんて答えたの?」
と聞いてきた。
「なんだろう。一度は『いまさらキスがレモンの味だなんて思ってないから、大丈夫』って答えたかな。あとは、忘れた」
Nはさらに笑いつづけながら言った。
「知ってる? キスがレモンの味って思うのは、30代以上のおじさんなんだって(笑)。今の若い子はレモンと並んでイチゴ味だと思ってるらしいわよ。そういうところに、微妙な年齢の差って出るのねー。今日のこの話では、レモンがいちばん面白かったわ」
なにやら清々した顔で言いたいことだけ言い残すと、Nはすたすたと去って行った。

※参考 /http://beauty.oricon.co.jp/news/beauty/66330/full/

「アニメの門チャンネル」 第10回
「魔法少女、これまでこれから」
/http://ch.nicovideo.jp/channel/animenomon

2013年6月14日21時半~放映
藤津亮太[アニメ評論家]
単著に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ ゼロ年代アニメ時評』(NTT出版)。「渋谷アニメランド」(NHKラジオ第一 土曜22:15~)パーソナリティ。
藤津亮太の「只今徐行運転中」
/http://blog.livedoor.jp/personap21/
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《animeanime》

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