究極の作画で描かれた『REDLINE』 小池健監督インタビュー その1 熱いレースに純情な主人公、作品のテーマは恋愛と友情
(インタビュー:2010年9月) 製作期間7年、作画枚数10万枚。CG全盛の時代に、背景までも手描きにこだわった究極のアニメーション映画が『REDLINE』だ。監督は『アニマトリックス ワールド・レコード』で、世界デビューを果たした小池健。原作の石井克人は
インタビュー
スタッフ
注目記事
-
2025年冬アニメ、一目惚れした男性キャラは? 3位「SAKAMOTO DAYS」坂本太郎、2位「薬屋のひとりごと」壬氏、1位は…
-
日岡なつみ、倉持若菜ら声優とプロデューサーが研修生の疑問に一問一答! 声優に求められる能力とは?座談会インタビュー【PR】

究極の作画で描かれた『REDLINE』 小池健監督インタビュー その1
熱いレースに純情な主人公、作品のテーマは恋愛と友情
■ 小池 健(こいけ たけし)
1968年生まれ。マッドハウス所属。
高校卒業後、マッドハウスに入社。『妖獣都市』(1987)や『獣兵衛忍風帖』(1993)など世界的に知られる川尻義昭監督作品に数多く参加する。
2000年代入り『Grasshoppa!』(2001~02)を手がけた後、2003年の『アニマトリックス(ワールド・レコード)』で世界的に注目を浴びることになる。大胆で独特な色彩やキャラクター造形、構図などが特徴となっている。
■ 『REDLINE』
製作期間7年、作画枚数10万枚。CG全盛の時代に、背景までも手描きにこだわった究極のアニメーション映画が『REDLINE』だ。監督は『アニマトリックス ワールド・レコード』で、世界デビューを果たした小池健。原作の石井克人は『鮫肌男と桃尻女』『茶の味』などで知られ、その才能に惚れ込んだタランティーノの『キル・ビルVol.1』では、アニメパートを担当する。
制作は『パプリカ』『時をかける少女』『サマーウォーズ』のマッドハウス。今まで経験したことのない<体感型>のアニメーションが誕生した! 主役JPに扮するのは、木村拓哉、JPの初恋の相手ソノシー役には蒼井優、JPの幼馴染の天才メカニック フリスビーを浅野忠信が演じる。
『REDLIN』 公式サイト
http://red-line.jp/
■ 熱いレースに純情な主人公、作品のテーマは恋愛と友情
アニメアニメ(以下AA)
作品は7年前から企画が進んでいたとのことですが、7年前にこの企画がどのようなかたちで誕生したかまず伺わせてください。
小池健監督(以下敬称略)
僕自身は企画がはじまる以前は、違うプロジェクトでPVをつくっていたんです。GASTONIAの木村(大助)プロデューサーと原作の石井克人さんのお二方が先輩後輩という間柄で、何かアニメーションをつくりたいという話をされていました。そこで僕のところに「一緒にアニメーションをつくらないか?」っていう話を持ってこられたんです。
持ち込まれたのは、レースがあって、個性的なキャラクターがいっぱい出てくる企画書です。面白そうだなと思いました。そこがはじまりだったんです。
AA その時に、宇宙のカーレースというコンセプトは決まっていたのですか?
小池
ざっくりとですけどね。はじめにあったのは、キャラクターが8組いて、あとはレースをします、です。それぐらいざっくりなストーリーです。これから設定を決められる自由もあり、そこがすごく魅力的でした。
AA
主人公のJPは非常にまっすぐで、感情移入しやすいのですが、JPを主人公にしようと思ったのはなぜでしょう?
小池
レースの部分は熱くなるとわかっていたので、それと対照的にしたかったんです。大人しいというか、オーソドックスな感じにすればギャップが出るじゃないですか。コントラストを出すために、純情なキャラクターがいいと思い設定を構築しました。
もともと石井さんの描いたキャラクターは真逆な感じで、パンクロックみたいな設定でした。見た目は本編でもそんな感じですが、自分が演出する際に、もう少しシンプルにいらない部分を削ぎ落として、かたちを変えて行きました。
AA 8組のキャラクターも早い段階からですか?
小池
企画段階から決まっていました。「個性的なキャラクターを8人ぐらい出したいね」というところからはじまったんです。はじめにキャラクターがいて、個性を決め込んでいくかたちです。決め込むのが楽しかったですね。話を組み立てていく段階で矛盾が出てくるキャラクターは修正しながら組み立てるという流れです。
AA
石井さんとのやりとりはどんな感じでしたか?「これは違うよ」って言うと、なんだか角が立つんじゃないかなと思うのですが。
小池
やり方がよかったなと思います。まず勝手に自分がやりたいものをどんどん描いていくんです。それをバトンタッチで見てもらって、消化出来ればそのまま使ってもらいます。消化出来なければ変えてくださいということです。僕が描いたものを石井さんがもう一回コンテを見るかたちでした。
僕のが出来たら「じゃあお願いしますね」というかたちです。石井さんがチェックしたら、「じゃあもう一回お願いしますね」と戻ってきます。
AA
作品をいくつかの要素を分けていくと、恋愛が一番にあって、レースがあって、ロボワールドとの対決があり、友情もあります。非常に盛りだくさんですが、このバランスはどう考えられたのですか?
小池
レースが舞台ですが、大きな要素は恋愛と友情です。そのふたつが軸になっています。JPとソノシー、JPと友情を持つフリスビー、この3人を丁寧に描けるといいなと思いました。
石井さんの中では平和という要素もあって、軍事国家や戦争でお金儲けていますといったものは、ちょっとムカつくことがあるじゃないですか。全然戦争とかに興味がないレーサーたちが、そこを走ってメチャクチャにしちゃうのは気持ちいいんじゃないかなと考えて軍隊を出しているんです。ただ、大きな軸は、恋愛と友情です。
■ 『REDLINE』の映像表現
AA キャラクターの絵ですが、このスタイルも最初から決まっていたのですか?
小池
僕はキャラクターも背景もアニメーターが描くというのスタイルを使っています。両方とも影をブラックで統一すると、自分が好きなアメリカン・コミックみたいな印象に近くなります。
はじめからこのビジュアルは決め込んでいました。ただ、作っている最中にどんどんスタッフのスキルも上がっていきましたし、より新しいものにしたい欲求があるので、より濃く、ディテールも細かくなっています。僕の作品を今まで観てくれた人からも、新しく見えると思いますね。
AA
映像を見ていて非常に驚いたのが、ほとんどセルタッチで、しかも背景が見えてないぐらいの感じです。あれはどういう意図だったのですか?
小池
いまの時代の映画を作る主流は、背景を背景屋さんに描いてもらって密度を上げて行くものです。それが王道、スタンダードなやり方としてあります。
僕は時代と逆行したやり方をしたかったんです。僕らができるやりかたとして背景もすべてセルタッチで描いて行くことに挑戦してみました。
AA
僕が作画をよくわかってないのかもしれませんが、どこまでが手描きでどこが背景かよくわからなかったのですが。
小池
この作品には基本的に背景というか、筆で描かれている部分は一切ないんです。
鉛筆画で描いたものに、セルと同じようなタッチで着色して、ものによってはテクスチャを貼り込んだりもしています。空間に空気感を出したいのもあったので、テクスチャを貼っているのと、空のような全くベタみたいなところは撮影処理で雲を引いています。ただ、筆タッチの背景はまったくないんですよ。
AA
それで全然違って見えてくるんですね。
もうひとつは、全ての画面がアメコミみたいなコミックスから切り取ってきたように見えるけど、かつそれが動いて見える、そういう印象です。
小池
そういう感じにしたかったんです。コミックっぽいけれど、日本のアニメーションっぽいっていうのがあります。混ざり合った感じを作ってみたいなと。コミックっぽい感じと受け止めてもらえるのはすごく嬉しいですね。
■ 演出と作監は意外と近い場所にある
AA あれだけ絵を描き込んでしまうと、作画、アニメーターさんの負担はすごく大きくなりませんでしたか?
小池
実は終わってから、いろんなスタッフから「こんな大変な作業になるとは思わなかった」と聞くこともありました。
けれども、やはり皆さん職人なんですよね。大変だったという感想はもらいましたが、あがりは素晴らしい。見ていてこっちが感動しちゃうようなあがりになっている。よくぞここまで長い時間ついてきてくれたなとすごく感動しています。日本のアニメーターにはこんなにすごい人たちが一杯いるんだよってというのが、この作品で伝わると嬉しいなと思います。
AA
今回は監督でもありつつ、作画監督(作監)をやられています。監督も、作画も管理というのは傍から見るとかなり大変に見えるのですが。
小池
意外と演出と作監は、近いところがあるんですよ。作監は絵だけではなくて、演技も管理する職種でもあります。僕の師匠の川尻(善昭)監督も、もともとアニメーターで動きを管理していました。それを傍で見ていたというのがあります。
そういうやり方が特殊ではない環境でアニメーションにふれていました。作業量は莫大になりますが、すごくやりがいのある仕事でしたね。
AA
動きを演出するなかでは、今回、非現実的に引き伸ばされた画面などがたくさんありますが、あれはどのように思いつかれたのですか?
小池
脚本のイメージですね。石井さんが擬音を使うのが得意なんです。「ギュイーンと伸びる」とか。そういう感じの抽象的な表現が脚本に書かれていまして。「ギュイーンと伸びる」っていうのはこんなかなといった感じでやってくしかないですよね。
それをまたアニメーターさんにお願いします。ただ具体的に説明しすぎると、そのままにしかならないので、なるべく抽象的に伝えます。あがってきたものにイメージが足りなければ、「こんな感じですよ」と修正を描かせていただきます。
AA そうなるとアニメーターさんのそれぞれの個性で「こんな感じ」が出てきますね。
小池
出ますね。シーンごとにアニメーターさんの個性が出ているので、アニメーター好きな人にもお薦めな映画ですね。
《animeanime》
特集
この記事の写真
/