『ドラゴンエイジ -ブラッドメイジの聖戦-』 曽利文彦監督インタビュー
映画『ドラゴンエイジ -ブラッドメイジの聖戦-』
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曽利文彦監督インタビュー
ゲーム業界と映画業界のギャップを超えた映画
■ 曽利 文彦 (そり・ふみひこ)
映画監督。TBS所属。96年南カリフォルニア大学(USC)大学院映画学科留学。同96年に、ジェームズ・キャメロン創設のデジタルドメイン社に参加し『タイタニック』のVFXを手掛ける。
他にも数多くの邦画やテレビドラマでVFXスーパーバイザーを務めた後、02年『ピンポン』で映画監督デビューを飾り、数多くの映画賞に輝く。
04年、フルCGアニメーション映画『APPLESEED』をプロデュース。07年、映像制作スタジオOXYBOT設立。同社でフルCGアニメーション映画『ベクシル 2077日本鎖国』を制作、監督。その他、実写映画の監督作品には『ICHI』(08)、『あしたのジョー』(11)などがある。
世界的な大ヒットRPG「Dragon Age」シリーズが、『ピンポン』、『あしたのジョー』などで活躍する日本の映画界の鬼才 曽利文彦監督の手により劇場CGアニメ化された。
国内では2012年2月11日に全国公開された『ドラゴンエイジ-ブラッドメイジの聖戦-』である。製作発表決定以来、世界のゲームファン、映像ファンを沸かせている作品だ。 。
曽利文彦監督に、映画の企画から完成まで、そして見所について伺った。
(2012年2月)
■ ゲーム業界と映画業界のギャップを超えた映画
アニメ!アニメ!(以下AA)
プロジェクトが出たときから注目させていただいていましたが、今までにないプロジェクトですね。
アメリカの非常に大きなゲーム会社EA、バイオウェアの目玉タイトルですからかなり力の入っていると思います。その時に日本で作る、そして監督として曽利文彦監督にオファーが来て、それを引き受けた理由は何でしょうか?
曽利文彦監督(以下曽利)
『アップルシード』から『ベクシル』、『TO-トゥー』とやってきたなかで、日本のファンの方はもちろんですが、海外のファンの方からすごくリアクションも多かったのです。だから、一度オリジナルを英語にして海外に向けて作ってみたいと思っていました。
実写で役者を使っての英語版はハードルが高いですが、アニメーションであればチャレンジ出来るのでないかと思っていました。
ちょうどその時に、EAさんがすごく重要な『ドラゴンエイジ』というタイトルを自分に任せてくれる、それはものすごくうれしい話でした。
しかも、アニメーションではSFをずっとやって来て、そろそろファンタジーのような有機的なCGもチャレンジしてみたいと思っていました。グッドタイミングで素晴らしいオファーでしたので喜んで引き受けしました。
AA
ゲームの原作があり、映画には前にも、後ろにもつながる話もあり、制約もあります。そうした不自由さは感じませんでしたか。
曽利
当然、作品世界は大切にしてほしいという要望はあります。逆に言えばそこだけで、細かいことは本当に少なかったです。
実際に初めに向こうからいただいたプロットは会話劇が中心であまり映画的でなかったこともあり、もっとビジュアルの刺激が必要だと話しました。それはアメリカ人、日本人というギャップではなくて、ゲーム業界の人と映画業界の人というギャップが隔っていました。
いろいろ話していくうちに受け入れてもらえ、ものすごく柔軟でした。EAさん、バイオウェアさんには、とても感謝しています。我々のクリエーティブに対してとても前向きで、ノーで返ってきたものはほぼなかったので、すごくやりやすかったですね。
AA
今回映画を見せていただいて、ものすごくストーリーが良いと印象を受けました。これはひょっとしてアメリカとの協業だからなのかなと考えていたですが、むしろ逆ですね。
曽利
我々の中に染み込んでいるハリウッド映画感みたいなもので切り込んでいった部分があります。
西洋人が大切にしているコンテンツなので、そこは外してはいけない。彼らにまず喜んでもらえることを前提に日本人が考えたストーリーとビジュアルです。ハリウッド映画を作るつもりでトライした感じです。
AA
曽利監督は映像が面白いことで先鋭的とのイメージがありますが、実際はすごくオーソドックスだと感じています。
曽利
今回はその王道を特に大切にしました。ファンタジーの王道は外せない。あとは本編が正味85分ぐらいという制約があるので、込み入った話が不可能です。その中でどう戦うかが一番悩ましいところでした。
短い時間の中できちんとストーリーをうねらせるのはすごく骨も折れましたけれども、面白いチャレンジであったし、自信なりました。
■ 映画には日本的感性が期待されていた
AA
主人公を男性じゃなくて、カサンドラという女性にしたのはなぜですか。
曽利
『ドラゴンエイジII』のゲームの中で出てくるカサンドラの前日談、若かりし頃を描いてくれというのが最初にEAさんにいただいたことでした。我々も女性主人公は作ってきているので、違和感はなかったです。
アメリカではアクション物は男性主人公が多いですが、たくさんいるキャラクターの中でカサンドラを選んで、彼女を主人公にしたのは、発注先が日本であることも意識したんじゃないかなと思います。
AA
映画には日本的な感性が期待されたということでしょうか?
曽利
思いますね。美少女がアクションをするイメージが、たぶん彼らの中に日本のイメージとしてあるんじゃないかな。オファーされている意味合いは分かるから、それは外さずに受け止めようという気持ちはありました。
AA
今まで『ベクシル』、『TO-トゥー』とCGのキャラクターはリアルな方に動いていたかなと思っていたのですが、今回逆にイラスト的に落とした気がしました。これはかなり意識されたのですか。
曽利
アニメーションじゃなくてアニメを意識したオーダーと考えました。だからリアルな方向ではなくて、「アニメ」というキーワードになるべく寄せたいという部分はありました。
ただ、手描きのアニメーションを置き換えるならば、それは手で描いた方がいいという思いがあります。完成された手描きのアニメーションのコピーであれば、CGの意味は全くなくなってしまいますので、アニメのスタイルが香るものとしての表現です。
AA
逆に俯瞰風景とかデザインには、アメコミっぽい感じも受けました。こちらは意識されているのですか。
曽利
『ドラゴンエイジ』の世界は、例えば中世とかのモチーフだと思うんです、そうした原体験的なものは、日本にはないのでどうしてもそちらに引っ張られると思います。それは意識しているのではなくて、そこに吸引されている感じでないでしょうか。
■ クールビューティーを実現した栗山千明さん
AA
声優さんの方々についてもお伺いしていいですか。
谷原さんと栗山さん、GACKTさんという他の分野で実績の高いかたを起用しました。
曽利
プロフェッショナルな声優さんで作り上げるというチョイスもあったと思います。それは安定感はありますが、意外性はないと思うのです。メインのキャラクターに関しては、お客さんもどうなっているのかなという、楽しみがそこに欲しいいう部分があります。
ただ、女優さんの中でもよりプロフェッショナルな声優さんに近い、カサンドラというイメージが合う女優さんを探したときに、栗山さんはぴったりでした。
彼女のイメージはクールビューティーですし、一度栗山さんにこうした作品で、本当の声で、本当のクールビューティーを作って欲しいなと思っていました。高いクオリティーで栗山さんのカサンドラが完成したと思います。
曽利
谷原さんは『ベクシル』の時に一度お願いしていました。声もいいし、声優さんとしてやっていけるぐらいテクニックも上手です。谷原さんのお蔭で作品に軸ができました。
前回はすごい二枚目の役だったのですが、次は二目半とか三枚目の役をやってもらいたかったので、今回は初めから谷原さんをイメージして、ガリアンを作っていた部分もあります。三枚目の役をあれほどの二枚目がやるというのは、すごく好きですね。
今回は何と言ってもナイトコマンダー役のGACKTさんが、そうしたギャップのある役です。
AA
そうですね。言われなかったらまず分からないです。
曽利
分からないですよね。初めて今回ご一緒したのです。これまでこの人は本当に世の中に存在しているのと思うぐらいバーチャルな存在の気がしていたのですけど、一緒に仕事をするとすごく人間的というか、一生懸命プロフェッショナルな仕事をしていただいて感激しました。
いつもすごい二枚目の役と思うのですけど、今回は50代の役です。申し訳ないなと思いながらも、どうトライするのかなと思っていました。それを本当にストレートに50代のかたちを一生懸命、追い求めていて、貫録を出し、クリエーティブに取り組んでもらって。収録は、予定時間を大幅にオーバーして本当に白熱しました。
AA
監督は前作が『あしたのジョー』ですし、『ピンポン』もやられています。さらにSF,ファンタジー、時代劇と作品の幅の広さは何に由来するのですか?
曽利
映画好きで、映画ファンなので、どんなジャンルでも本当にやりたいですね。そんなに決めているわけではなく、面白ければ何でもやります、何でも出来るのでやらせてくださいというのはあります。
すごいストーリーやキャラクターとか、何か面白いものがあれば、ぜひやりたいと思います。限定せずに広く構えていたいなと思っています。
AA
作品づくりには、ジャンルは関係ないという感じですか?
曽利
例えばホラーでも、ミステリーでも。ラブストーリーもやりたいし、ドキュメンタリーや歴史を描く、史実に忠実にみたいなことも一度はやってみたいなと思っています。
■ OXYBOT(オキシボット)が目指す映像
AA
監督がそうした作品を産み出す基盤になっているのがOXYBOT(オキシボット)さんですけれども、OXYBOTさんの目指しているもの教えていただけますか。
曽利
ハリウッドスタイルを学んでいることが大きいので、OXYBOTのCGは、フォトリアルなもの、ハリウッドライクなリアリティーに向かっています。だから『あしたのジョー』もそうだし、最近だと『南極大陸』、『JIN』もやっています。
日本のCG業界の中にあって、また一種独特のリアリティーを出すスタジオになったと思うので、それを拡大していきたですね。
OXYBOTのCGがあれば、ハリウッドにようやく追いつけそうな時代に入ってきました。そういったものをうまく活かした作品が作れればと思います。
今、日本ではOXYBOTにしかできない技術がたくさんあるので、いろいろ使っていただければと思います。
いまは海外の監督さんからのオファーや、興味を持っていただいているケースが多いですね。アジアの中でも、一番ハリウッドライクなテイストが出せるのはOXYBOTだと言っていただけているのが、すごいうれしいなと思います。
それが1つの柱ではあって、もう1つは『ドラゴンエイジ』みたいに、フルCGで1本の映画を作ることです。この体力、ノウハウがある日本のスタジオは多くはありません。『ドラゴンエイジ』みたいなスタイルは、日本でも、世界でも、OXYBOTのスタイルと確立されつつあるので、これを守っていきたいなと思っています。
AA
最後に映像的にここはぜひ見落としてはいけないという部分がありましたらご紹介ください。
曽利
やはりドラゴンですね。『ドラゴンエイジ』というスタイルを借りながら、怪獣大戦争みたいな部分です。(笑)
AA
最後はちょっと驚きましたね(笑)。ここまで派手なのかと。
曽利
日本人として、円谷作品とかに刷り込まれたものが噴き出している気がします。『ドラゴンエイジ』の中には日本のテイストがいっぱい盛り込まれています。西欧の原作に日本のテイストをいっぱい盛り込んでお返ししていますというものです。日本の皆さんにもぜひ見ていただきたいなと思います。
AA
日本とアメリカの文化が融合した作品ですか?
曽利
間違いなくそうです。アメリカ人から見てもそう思うので、日本人が見てもたぶんそれはすごく見て取れると思います。それが融合してよい昇華をしていればいいなと思います。
AA
本日はありがとうございました。
原作:BioWare / Electronic Arts
脚本:Jeffrey Scott
キャラクターデザイン:中山大輔
音楽:高橋哲也
サウンドデザイン:笠松広司
制作:OXYBOT
宣伝:エイベックス・エンタテインメント
配給:TOブックス
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