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しかし、その存在感の大きさ、知名度に対して、これまで主催者自身がイベントについて語ることは少なかった。11月13日に東京国際交流館で行われた文化庁国際文化フォーラム 国際文化芸術人会議の基調講演は、そうした数少ない機会となった。
この講演はSEFA Event社ジャパンエキスポ代表のジャン=フランソワ・デュフール氏と副代表のトマ・シルデー氏による「『文化の受容と融合』~ジャパンエキスポのたどった道~」と題されたものだ。
講演はジャパンエキスポの歩みやフランスでの日本文化の歴史を辿り、その中で日本のポップカルチャーの受容とジャパンエキスポの成功を語るものだ。比較的シンプルな構成だが、わずか10年間でのイベントの驚くべき成長ぶりを紹介するのに十分だ。
しかし、文化庁の主催するシンポジウムでもあり、フランスで積極的に受け入れられる日本文化というポジティブな面が強調されたかたちとなっていた。一方で、例えば、現地のアニメDVDの流通会社(ディストリビューター)が直面する経営危機などの負の部分には触れていない。
だから、こうしたシンポジウムは、「部分的な現象を取り上げて、楽観的な見方を煽る」との批判も出来るかもしれない。しかし、その映像や紹介される数字から伝わってくる熱気は、そうした批判さえも跳ね除ける圧倒的なものだ。
つまり、そこに何かしらの意図があったとしても、実際にヨーロッパで起きている現象は嘘ではない。実際に16万人を超える来場者はそこに存在し、日本の文化を楽しむ大衆も現実の存在だ。それを局地的な現象として退けることは可能だし、それを単に驚くだけで眺めていることもまた可能だ。
しかし、そこに存在する現象を、単なる現象に終わらせない何かが求められているのではないかと感じさせる講演だった。そしてこのシンポジウムを企画した文化庁の意図もまさにそこにあったに違いない。
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デュフール氏は、ジャパンエキスポの成功の理由を4つ挙げた。「タイミング」、「情熱」、「信頼」、「プロフェッショナリズム」である。しかし、それ以上に彼らの成功は、フランスのファンや社会が求めるものを的確に汲み取り、提供する戦略の確かさが理由である。
実は今回、講演者のふたりはメディア芸術の言葉を多用すると伴に、アニメやマンガといったポップカルチャーだけでなく、日本の伝統文化への言及を多く行った。ふたりによれば、ジャパンエキスポは、ポップカルチャーだけでなく、新旧の文化を融合させた誰でも楽しめるイベントであると言う。
そうした側面は確かにあるのだが、実際には圧倒的なマンガ、アニメ、ゲームの中のごく一部に過ぎない。むしろ、日本の伝統文化の強調は、シンポジウムの主催者である文化庁に対するリップサービスであると同時に、これから彼らがそうありたいと思う姿である。
さらにこれまでは存在感の薄かったB2B向けのサービスを強調する。ジャパンエキスポは、ライセンスのマーケットでもあるということだ。これも現在そうであるというよりも、今後成長させたい分野とみられる。
これらは世界有数の巨大なイベントになったジャパンエキスポが、単なるファン向けのイベントに終わらずに、次の段階の成長を目指していることを示している。つまり、日本とフランスの間で、文化的にもビジネス的にも重要な位置を占めることである。
おそらくこれは日本の企業や行政からも望まれていることなのである。SEFA Event社にとっては、そのニーズを理解したうえでの目標だ。現在ジャパンエキスポに対して、その規模に目を奪われがちだ。しかし、今後は、その活動の広がりに注目が集まることになりそうだ。
文化庁国際文化フォーラム
/http://www.bunka.go.jp/culturalforum/nittei/