開会の挨拶は、本シンポジウム全体のコーディネーターであるプロダクションI.Gの石川光久社長が行った。挨拶の中で石川氏はプロデューサーの資質として「3つのS」を挙げた。それは「Spirits,Skill,Study」の3点である。石川氏はその中で特に「Spirits」について、「教えて身に付くものとは違うので、この講演を聞いて持ち帰って欲しい」と、参加者に檄を飛ばした。
「アニメは子供に未来を見せる」セルカン氏
記念講演を行ったのは、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻助教アニリール・セルカン氏。「インフラフリーが拓く未来の社会と技術」と題した講演を行った。
「インフラフリー」とは、インフラに依存しないで暮せる空間技術(INFRA-FREE LIFE)のことである。具体的には天変地異などでエネルギー・食料・水が遮断された場合に自給自足できるシステムのことを指す。太陽エネルギーや風力発電とも違う、ゴミとして出されたものを「社会インフラ」と利用し、循環してエネルギーを作り出すことについての研究を行っている。
未来像における具体例としてロボット技術は多くの国で挙がるが、本田技研の2足歩行ロボット“ASIMO”のように、人間との調和を連想するのは日本独特の世界観であるという。そこで過去に科学技術が戦争に使われた例を挙げ、「科学者は開発だけが目的ではなく、何のために使うのかというビジョンを持って研究しなくてはならない」と強調した。
アニリール氏は2008年4月から放送されるアニメ『RD 潜脳調査室』で、未来考証のスーパーバイザーを担当している。アニメは子どもに未来を見せる側面と教育を行う側面から、学者として非常に興味深い経験であったと語った。
「RD 潜脳調査室」アニメと科学のコラボを実現

パネルは80分という十分な時間を取って行われ、『RD 潜脳調査室』を軸に未来技術全般に話が及んだ。
この中で、アニリール氏は「大学では近未来しか研究できないので、50年後の世界をアニメスタッフたちと一緒に考える機会が得られて、大変勉強になった」と語る。
シナリオ担当の藤咲氏は「未来を描くのに環境というテーマは外せないので、人工島という舞台で新たなネットワーク社会での探偵物語を進めていく」という見所を語った。また80歳と15歳のコミュニケーションをもう一つの軸に据えているという。また、環境と技術のバランスが崩れ始めたところで、社会の揺り戻しが起きたり、人間の根元的なところを描く意図があるようだ。
古橋監督は「演出とは人間の価値観をどう捉えるか」という作品作りの肝に触れる。世界観も人間観も大事なものはバランス感覚で、未来技術を描くにしても人が健全に生きられる「気持ちの良い」ものが何なのかを考えるのが重要だという。
今回は、もう一つ「水」がキーになっており、シンプルで根元的な物質をテーマに描く。表面的には人間ドラマを描くが、裏のテーマとしてはシンプルで永遠不滅なものを盛り込んで、確実に「気持ちの良い」作品にするとと自信を覗かせた。
『RD 潜脳調査室』は2008年4月8日(火)24時59分から日本テレビ系(一部地域除く)で放送開始される。
【日詰明嘉】

RD 潜脳調査室 公式サイト /http://www.ntv.co.jp/RD/
アニメがみる未来
2008年3月8日
東京大学経済学部1番教室
主催: 文部科学省科学技術振興調整費「コンテンツ創造科学産学連携教育プログラム」
共催: 東京大学大学院情報学環
協力: プロダクション・アイジー、ウィルコム
基調講演
アニリール・セルカン(東京大学大学院工学系研究科・助教)
パネリスト
アニリール・セルカン/渡邊淳司(JSTさきがけ研究者/NTT CS研)/東浩紀(東京工業大学特任教授)/古橋一浩(アニメ演出家・監督)/藤咲淳一(アニメ脚本家・監督)/近義昭氏ウィルコム取締役・執行役員副社長)/七丈直弘(モデレーター、東京大学准教授)
全体コーディネーター
石川光久(東京大学特任教授、プロダクション・アイジー代表取締役社長)
*2009年11月14日の朝日新聞の報道により明らかになった事実により、記事の内容を一部訂正させていただきました。(2009年11月14日)