『Solid State Society』の劇場上映は、9月に新宿で行われたイベントと前日にanimecs TIFFの別会場秋葉原で上映されたものに続くものである。しかし、今回の東京国際映画祭の本会場には、神山健治監督、素子役田中敦子さん、バトー役大塚明夫さん、プロダクションI.G石川光久代表取締役社長と豪華な顔ぶれ揃う贅沢なものとなった。
劇場も学生や会社帰りのビジネスマン、OLなどで満員で女性客も多く、この作品が幅広い層から支持されていることを示していた。
舞台挨拶は、かつて「パトレイバーファンクラブ」の会員だったというニッポン放送吉田尚記アナウンサーの司会のもとノリノリであった。内容は通常の舞台挨拶以上に話題が豊富だったのだが、なぜだか頭に鮮明残っているのは11月24日と3億6000万円という数字である。
これは、舞台挨拶で石川社長と吉田アナウンサーがこれだけは覚えて帰るようにと強調した言葉である。11月24日は大塚明夫さんの誕生日でもあるのだが、実はこれは『SSS』のDVDの発売日。今回の映画で観て、もう一度DVDを買ってくださいというわけである。
3億6000万円というのは『SSS』の制作費である。通常のOVAは制作費が1億円以下、映画でも数億円で制作されるなかで、破格の制作予算となっている。通常であれば採算を取るには苦しいハードルだが、なんとしてもハードルを越えたいということである。
それと同時に制作費を強調するのは、『SSS』は他の作品とはクオリティが違うという含みも多分にあったように感じた。

また、神山監督と石川社長によれば、今回の作品の実現は1話3000万円かかったテレビ版『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX』の制作費が回収出来たら映画を作ってもよいという約束の結果だという。実際には映画にはならなかったが、これが劇場クオリティの作品が登場した理由である。
それでは、今回の作品の制作費が回収出来たら今度は劇場作品を作るのですかとの質問に、石川社長は「劇場でなくもう一度攻殻のテレビシリーズを作って貰いたい」と切り返していた。
作品にかける神山監督、大塚、田中両声優陣のクリエイティブな情熱と『SSS』のビジネスに対する石川社長の情熱の伝わって来るかなりテンションの高い舞台挨拶であった。

作品のこの完成度を考えればプロデューサーが心配するまでもなく、制作費はかなり早い段階で回収出来そうである。
そうすればファンが期待する『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX』の新シリーズも遠くない先に実現するのではないだろうか。
© 士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊製作委員会
/東京国際映画祭