小清水亜美 史実をたどり、共演者との芝居で深めたドレゲネの“止まった時間”と“繊細な強さ” TVアニメ「天幕のジャードゥーガル」インタビュー(9) | アニメ!アニメ!

小清水亜美 史実をたどり、共演者との芝居で深めたドレゲネの“止まった時間”と“繊細な強さ” TVアニメ「天幕のジャードゥーガル」インタビュー(9)

オーディションを経て原作を読み込み、史実資料が少ない中でドレゲネは繊細で止まった時間を抱える女性として描かれ、シタラとの関係性と共演者の演技で感情が深まると語る。

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TV アニメ『天幕のジャードゥーガル』小清水亜美
TV アニメ『天幕のジャードゥーガル』小清水亜美 全 11 枚 拡大写真

数々の漫画賞を受賞した話題の歴史マンガ『天幕のジャードゥーガル』のTVアニメが、テレビ朝日系全国24局ネットの“IMAnimation”枠およびBS朝日ほかにて放送中。トマトスープによる原作マンガ(秋田書店「Souffle(スーフル)」連載)をもとに、13世紀のモンゴルを舞台にした、元奴隷の少女・シタラが帝国を揺るがす物語が描かれている。

そんな本作で、モンゴル帝国への復讐心を胸に秘める、第2代皇帝オゴタイの第6妃・ドレゲネを演じる小清水亜美にインタビュー。オーディションをきっかけに原作や史実を読み解いたエピソードから、シタラとの特別な関係性、そして下野紘さんや石田彰さんとの掛け合いを通して見えてきたドレゲネの複雑な感情まで、本作の魅力をたっぷりと語ってもらった。

[撮影:You Ishii]

◆歴史を知ることで見えてきた『天幕のジャードゥーガル』の魅力

TV アニメ『天幕のジャードゥーガル』小清水亜美

――本作への出演が決まった際のお気持ちを聞かせてください。

小清水亜美(以下、小清水) テープオーディションとスタジオオーディションの2回あったのですが、自宅で役作りをして「このセリフをどういうふうに表現しようか」「どんな芝居にしていこうか」と考える段階から、すごく演じがいがある役だと感じました。とても魅力的な役ですし、スタジオオーディションに進めた時は「私がこの役を演じたい」と強く思いました。

その一方で、作品自体の魅力や原作の面白さも強く感じていたので「ドレゲネというキャラクターが求めている声や芝居に合う方が選ばれるのが一番だな」とも思っていて。もしそれが自分ではなかったとしても、その人のドレゲネを見てみたいと思えるくらい魅力的な作品なので。そんな中で私を選んでいただけたことは、本当にうれしかったですね。

――オーディションの段階で、原作をかなり読み込まれていたのですね。

小清水オーディションをきっかけに初めて原作を読ませていただきました。その後、テープオーディションを録る前に、実在する中でドレゲネと同じような立場にあった人物がどんな存在だったのか、また、チンギス・ハーンをはじめ作中に登場する人物たちについても調べてみたんです。

そこでまず驚いたのは、資料が本当に少ないということでした。例えばWikipediaを見ても、情報がまったくないわけではないのですが、他の歴史上の人物と比べると圧倒的に少ないんです。当時のモンゴルでは、文化的にも時代背景的にも、文字で記録を残すことがあまりなかったようなんですよね。残されている資料もモンゴルを訪れた人々の手記や記録などが中心で、当時の人々自身が書き残したものは決して多くありません。

図書館に通って専門的な資料を探したわけではないので、もっと詳しい研究資料はあると思いますが、少なくとも手軽に触れられる情報だけを見ると、「本当に史実を知ることが難しい時代なんだな」ということがよくわかりました。だからこそ、トマトスープ先生がどれほどの労力をかけ、どんな思いでこの物語やキャラクターたちを描いているのだろうと、自然と考えるようになったんです。

TVアニメ『天幕のジャードゥーガル』場面写真

――そうしたリサーチを通じて、改めて原作のすごさを実感された部分もあったのでしょうか。

小清水作中で交わされる会話も、実際にこういうやり取りがあったかもしれないし、なかったかもしれない。でも、それをここまで人間らしく、そして美しく描いていることが本当にすごいなと思いました。私たち声優は実際にセリフを声に出して演じるわけですが、そのときに違和感がないんです。そのキャラクターの感情になって相手と会話をしていても、言葉の並びや感情の流れがとても自然なんですよ。

たくさんの作品に出演していると「意味はわかるけれど、言葉として少し引っかかるな」と感じるセリフに出会うこともあります。でも『天幕のジャードゥーガル』にはそれがほとんどなくて。それだけキャラクターの一人ひとりの思考や背景が丁寧に整理され、言葉も慎重に選ばれたうえで会話が構築されているのだと思います。それは原作を読んだときにも感じましたし、実際に演じてみて、より強く実感した部分でした。

――小清水さんは他の作品でも、普段からそうしたリサーチをされることが多いのでしょうか?

小清水そうですね。もちろん作品によりますけど、実際にあった出来事や歴史を題材にした作品であれば、どの程度史実が反映されているのか気になりますし、写真や肖像画のような資料が残っているのであれば、それも見てみたいと思います。ただ、調べたからといって、それがそのまま良い芝居につながるかというと、必ずしもそうとは言えないんですけどね(笑)。

でも私自身は、何かを知ることで「このセリフの感情は、もしかしたらこういうことなのかもしれない」と考えるきっかけになることがあるんです。演じる上でのヒントを見つける感覚に近いのかもしれません。なので、趣味半分でもありますし、時間が許すのであれば、できるだけ調べてみたいタイプですね。

――「知ること」を大切にされている姿勢は、本作で描かれるシタラの在り方にもどこか通じるものがありますね!

小清水そうかもしれませんね。演技も何かを知った経験や感じたことが、後になって役を理解するヒントになることもありますから!

◆「シタラの前では少女の顔を見せてくれる」ドレゲネに宿る“止まった時間”と繊細な心の揺れ

TVアニメ『天幕のジャードゥーガル』小清水亜美

――先ほどドレゲネを「魅力的」と言っていましたが、どんな部分にそう感じたのでしょうか?

小清水すごく端的に言うと、私はドレゲネをとても繊細な女性だと思っています。彼女は過去の衝撃的な出来事によって、ある部分の時間が止まってしまった人なんですよね。もちろんモンゴルで過ごした年月の中で、年齢も重ねていますし、子どもも産んでいる。さまざまな出来事を経験してきています。でも“本当の自分”というか、誰にも見せない素直な感情の部分だけは、その時のまま止まっているように感じるんです。そして、そのある種の乖離が、ドレゲネの大きな魅力のひとつになっていると思います。

普段は強く見えるし、時には怖く見えることもあります。でもシタラの前では、とても少女らしい表情や感情を見せる時があるんですよ。そこに計算や意図はなくて、ただ自然に、本来の自分が出てきているだけなんですよね。大人になっても、そういう純粋な部分を持ち続けている人には個人的にも魅力を感じるのですが、ドレゲネの場合は、それが少し特殊な形で残されている。シタラの前でだけ時間が動いて、止まっていた頃の自分がふと顔を出すような感覚があるんです。

もちろん、普段の彼女が見せる強さも魅力です。一見すると近寄りがたい印象もありますが、それは彼女が身につけた鎧のようなものだと思っていて。その姿はとても凛としていて、かっこいいんですよね。そうしたさまざまな表情を持っているところが、ドレゲネという人物の魅力だと思います。

――シタラの存在があってこそ見えてくる魅力もあるのですね

小清水演じている立場だからこその感覚かもしれませんが、シタラとの関係性は本当に素敵だと思います。本来ならシタラのほうがずっと年下で、守ってあげたくなる存在のはずなのに、時には同級生のようにも見えるし、時にはドレゲネが甘えられるお姉さんのようにも見える。その距離感がとても温かいんですよね。

ただ、この作品は歴史を題材にしています。未来には可能性がありますが、過去の歴史は変えられません。私は調べてしまったからこそ、その先にある史実もなんとなく知っています。原作ではまだ描かれていない部分ではあるのですが、変わることのない歴史があると知っているからこそ、ドレゲネとシタラの関係が温かく見えれば見えるほど、個人的にはいろいろなことを考えてしまいますね。

TVアニメ『天幕のジャードゥーガル』第3幕(第3話)「消しえぬ炎」

――シタラ役の関根明良さんにお話をうかがった際「この作品に“悪”はいない」という言葉がとても印象的でした。小清水さんも、そうした本作ならではの魅力を感じることはありますか?

小清水それはすごく感じますね。例えば、ドレゲネが最初にオゴタイへ向けて発する「私はあなたの妻ではありません。あなたの敵です」という言葉がありますよね。もちろん、その気持ち自体に嘘はありません。ドレゲネは故郷を奪われ、夫を殺されていて、モンゴル帝国、そしてオゴタイを憎んでいます。その復讐心こそが、彼女を支えてきた原動力でもあります。

ただ、一方でドレゲネは長い年月をモンゴルで生きてきました。そこには彼女を大切にしてくれる人もいますし、オゴタイ自身も単なる暴君ではなく、人を惹きつける魅力を持った人物として描かれています。だからこそ、彼女の中には憎しみだけでは割り切れない感情も少しずつ生まれているように感じるんです。それでも、夫を失った日の痛みや、故郷を奪われた記憶を忘れてはいけない。復讐を誓った自分を見失ってはいけない。だからあの「私はあなたの敵だ」という言葉は、オゴタイへ向けた宣言であると同時に、自分自身への言い聞かせでもあるのではないかと思いました。

その揺らぎを押しとどめるために、あえて言葉にして自分へ言い聞かせている。止まってしまった時間や、失いたくない思いを忘れないために、自分の中の炎を消さないようにしている。私はあのシーンをそんなふうに捉えています。

TVアニメ『天幕のジャードゥーガル』小清水亜美

――まさに関根さんがおっしゃっていた「悪はいない」という言葉にもつながる気がします。

小清水だからこの作品は、何が正義で何が悪かという単純な話ではないんですよね。歴史や政治、国づくりを描く以上、誰かにとっての正義が、別の誰かにとってはそうではないこともある。国が大きくなれば、その裏で流れる血もあるし、反発もある。本来、簡単に善悪だけで語れるものではないと思うんです。

原作を読んでいてすごいなと思うのは、そのバランス感覚です。「この人が悪い」「この人が正しい」と一方的に描くのではなく、それぞれの立場や事情を自然に見せてくれる。気が付くと、いろんな人物の目線で物語を見ているんです。あるキャラクターに感情移入したと思ったら、別の人物の事情を知って心が揺れる。誰か一人の肩を持ち続けることができないんですよね。

だからこそ、すべての登場人物に愛着が湧きますし、いろいろなことを考えさせられます。今の私たちは比較的平和で便利な時代を生きていますが、その背景にはどんな歴史があったのか。人にとっての幸せとは何なのか。そんなことにまで思いを巡らせられる作品だと思います。

――歴史だけでなく、当時の文化や暮らしにも興味が広がっていく作品なのですね。

小清水そうなんです。それに、食べ物もとても魅力的なんですよ! 作中にはモンゴルの食文化もたくさん登場していて、調べてみてすごく興味を惹かれました。ヨーグルトを乾燥させたようなお菓子などもあるそうで「食べてみたい!」と思ったりして(笑)。動物を屠って食べる描写もありますが、かわいらしい絵柄だからこそ受け止めやすいですし、アニメでは音も含めてしっかり描かれているので「私たちは命をいただいて生きているんだな」ということも改めて感じさせてくれます。

歴史だけでなく、文化や食べ物にも興味を持つきっかけを与えてくれる作品なので、ぜひそういった部分にも注目していただけたら嬉しいですね。

◆下野紘と石田彰との掛け合いで深まったドレゲネの感情

TVアニメ『天幕のジャードゥーガル』小清水亜美

――関根さんは「掛け合いを通して表現が変わっていった」ともおっしゃっていました。小清水さんも、アフレコを通して新たに見えてきたドレゲネの感情や発見はありましたか?

小清水そうなんです! アフレコ前に自分なりの役作りをしましたし、「この感情はこう表現したい」というプランも考えていました。でも実際に掛け合いで収録してみると、思ってもみなかった方向から影響を受けるんですよね。

特に、オゴタイを演じる下野紘さんのお芝居がそうでした。私は事前に「ドレゲネにとって憎むべき相手」という意識を強く持っていたんです。でも実際に掛け合ってみると、オゴタイが本当に人たらしなんですよ(笑)。穏やかで柔らかくて、思わず心を許してしまいそうになる。ドレゲネがなぜ揺らぐのか、頭では理解していたつもりだったんですけど、実際にお芝居を受けたことで「ああ、これは揺らぐな」と実感したんです。私自身も予想していなかった発見でした。

――ドレゲネの感情を、ご自身も体験するような感覚だったのですね。

小清水まさにそうです。そしてもうひとつ大きかったのが、ダイル・ウスンを演じられた石田彰さんですね。本当に優しくて、綺麗だったんです。ドレゲネが嫁いだ理由には政治的な背景がありますし、もちろん打算もある。でも石田さんのお芝居からは、そういったものを超えた愛情が自然と伝わってきたんですよね。娘のように、家族のように、大切に思ってくれていることが真っ直ぐ伝わってくる。そこに裏表がなくて、気付けば私自身も本当に好きになっていました。

別れのシーンがつらかったのも、その積み重ねがあったからです。難しい表現なのですが、男女としての愛情を感じさせながら、そこにいやらしさや生々しさをまったく感じさせないんです。本当に清潔で、純粋で、綺麗な愛情だった。それを自然に感じさせてくださる石田さんのお芝居は、本当にすごいなと思いました。

TVアニメ『天幕のジャードゥーガル』場面写真

――だからこそ、ドレゲネが抱える葛藤にも説得力が生まれていたのですね。

小清水モンゴルへの怒りもある。でも愛された記憶もある。忘れられない過去もあるし、忘れたくない思いもある。そうした複雑な感情が、共演者の皆さんとの掛け合いを通して、私自身の中でもより鮮明になっていった気がします。本当に役者さんってすごいですよね……! このキャスティングだからこそ生まれたものがたくさんある作品だと思います。それぞれの人物の立場や思いに触れながら、ぜひ皆さんにもこの物語を見届けていただけたらうれしいですね。

TVアニメ『天幕のジャードゥーガル』ドレゲネ

■TVアニメ『天幕のジャードゥーガル』
テレビ朝日系全国24局ネット"IMAnimation"枠・BS朝日ほかにて好評放送中!

【スタッフ】
原作:トマトスープ『天幕のジャードゥーガル』(秋田書店「Souffle」連載)
総監督:山田尚子
監督:Abel Gongora
シリーズ構成:加藤還一
キャラクターデザイン・作画チーフ:吉田健一
演出チーフ:藤倉拓也
美術監督:樺澤侑里
色彩設計:今野成美
撮影監督:高橋直希
編集:廣瀬清志
音楽:日野浩志郎
音響監督:小沼則義
アニメーション制作:サイエンス SARU

【キャスト】
シタラ:関根明良
ドレゲネ:小清水亜美
ファーティマ:桑島法子
ムハンマド:齋藤 潤
オゴタイ:下野 紘
トルイ:鈴木崚汰
シラ:入野自由
チャガタイ:浪川大輔
ジュチ:野島健児
ソルコクタニ:久野美咲
モゲ:朝井彩加
キルギスタニ:新谷真弓
ボラクチン:くじら

●オープニングテーマ:SEKAI NO OWARI「Stella」
●エンディングテーマ:女王蜂「星」

(C)トマトスープ(秋田書店)/天幕のジャードゥーガル製作委員会

《米田果織》

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