TVドラマでも話題の“高校生BL”、コミックで触れる“本当の救い”ーー 窪田マル『君となら恋をしてみても』【おすすめマンガ手帖】 | アニメ!アニメ!

TVドラマでも話題の“高校生BL”、コミックで触れる“本当の救い”ーー 窪田マル『君となら恋をしてみても』【おすすめマンガ手帖】

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TVドラマでも話題の“高校生BL”、コミックで触れる“本当の救い”ーー 窪田マル『君となら恋をしてみても』【おすすめマンガ手帖】
TVドラマでも話題の“高校生BL”、コミックで触れる“本当の救い”ーー 窪田マル『君となら恋をしてみても』【おすすめマンガ手帖】 全 3 枚 拡大写真

アニメ・マンガに目がない「アニメ!アニメ!」編集部が、まだアニメ化されてはいないけれどぜひ読んでほしいおすすめマンガを紹介する連載<おすすめマンガ手帖>。今回は、マンガParkで連載中の窪田マル先生による『君となら恋をしてみても』(通称:なら恋)をピックアップ。

近年、BLドラマの盛り上がりが続いている。2025年10月スタートのドラマ『修学旅行で仲良くないグループに入りました』の大ヒットを皮切りに、「修仲」主演の藤本洸大が出演した『スメルズ ライク グリーン スピリット』や、現在FODで配信開始となった『コントラスト』など、“高校生BL”ジャンルがふたたび注目されている。

そんな中でぜひ紹介したいのが、窪田マルによる『君となら恋をしてみても』だ。江ノ島を舞台に、甘え上手な転校生・海堂天(かいどう・あまね)と世話焼きな同級生・山菅龍司(やますげ・りゅうじ)が紡ぐまばゆくもあたたかい恋の物語である。2023年にはドラマ化もされ、7人組ボーカルダンスグループ・原因は自分にある。の大倉空人と、俳優・日向亘によるW主演が話題を呼んだ。2026年3月には、ふたりのInstagramでのツーショット投稿をきっかけに再び注目を浴びるなど、まだまだファンから熱い注目を集めている人気の作品だ。

※以下の本文には“ネタバレ”に触れる記述を含みます。読み進める際はご注意ください。

「自分を茶化さなくていい」というメッセージが刺さる

天は中学生のころ、片想いの相手にゲイであることを笑われて以来、真面目にひとを好きになるのをやめて遊んでばかりいた。そんな天が転校先の江ノ島で出会ったのが龍司だった。天はかれをひと目見て軽率に「お、タイプ」と思うのだが、龍司の世話焼きでだれにでもやさしい態度にふれるにつれ、「本気の恋」を自覚するようになる。

天は早い段階で「俺、男が好きだし」と龍司にカミングアウトする。龍司のやさしい言動に「ときめいちゃうからさあ」だったり「むしろラッキーみたいな」などとおちゃらけてみせるのだが、龍司はその雰囲気には乗らなかった。真剣な表情で「茶化さなくていいっすよ」と言うのだ。

同性に惹かれるという自分の恋心は笑われるものなのだと経験上知っている天は、いつも先回りして自分を茶化して笑う。ゲイであることもあらかじめ自分から「ウケる」ものとして提示してしまえば、自虐ネタとしておさめることができるからだ。真面目に打ち明けた自分のことを「ウケる」と他人から言われるくらいなら、最初から自分で自分を茶化してみせる。傷つけられたくない天はずっと、自分で自分を茶化すことでみずからを傷つけてきた。

そんな天に対して龍司が渡した言葉というのが「俺の前で無理に笑わなくていいっすよ。茶化すたび傷ついてるのは自分でしょ」だった。わたしはあなたを笑わない、だからあなたもあなた自身を笑わなくていい。まっすぐ天の目を見てそう伝える龍司の言葉は、読者であるわたしの胸にもつき刺さる。傷つくのを怖がって、みずからを傷つける必要はないのだ、とはっきり言葉にして伝えてくれる龍司の真剣なその表情を、自嘲に逃げそうになるたびにわたしは思い出す。

「恋心をなかったことにしない」──想いを肯定する強さ

想いを抑えきれなくなった天は、「返事が欲しいわけじゃないから、俺が龍司くんを好きってこと、覚えてて」と龍司に告白する。言い捨てるように走り去った天に龍司は翌日、「天はどうしたいのか」と尋ねる。天はいつもの茶化し癖で「友だちのままでいられるならなかったことに」と一度は告白を取り消そうとする。しかし相手はいつ何時もまっすぐ向き合ってくれる龍司だ、「龍司くんと付き合いたいと思ってる」とはっきり言いきるのだ。

龍司はここでも天の想いに真剣に向き合い、「なかったことにはしないし今まで通りにもしない。ちゃんと「好きだ」って知っておくから、しばらくは俺に片想いしといて」と言う。天にとって許されないものだった自分自身の恋心は、それさえなかったことにすれば友情をやっていけるのだとしたら、覆い隠してしまうべきものだった。自分の恋心は尊重されるものではなかった。なかったことにしたほうが、ものごとはうまくいくはずだった。

それでも龍司は「なかったことにはしない」。天の感情は天のものとして、表明する権利があるし、尊重されるべきものである。それがたとえまだ世間的には受け入れがたい少数派であったとしても、”あるものはある”のだ。

「しばらくは俺に片想いしといて」という少女マンガのような胸キュン台詞も、龍司が天の感情を大切に思っているからこその言葉である。自分の恋心を軽視し、片想いのきもちごと捨ててしまう性質の天には、その”片想いでいる権利”は深く刺さったはずだ。だれかを好きでいることを、世間体を理由に無理やりやめる必要はない。

「好きになってよかった」と思える恋

龍司は告白への返答を先延ばしにするのだが、天はその時点で「君に恋をしてよかった」と顔をほころばせる。タイトル通り「龍司くんとなら恋ができるかもしれない」と思った天は、告白の返事をもらうまえにもうすでに「君に恋をしてよかった」と思っているのだ。わたしはここにこの作品のキモがあるように思う。

ラブストーリーであれば告白をして付き合うという一大イベントがあり、それが物語のクライマックスに置かれることも多い。告白が成功するかいなか、好きなひとと付き合えるかどうか、恋愛ものにおいてそれはもっとも重要な要素であるといえる。

しかし『なら恋』は、付き合えるかどうかわからない時点ですでに、この恋には意味があったと言いきる。天が龍司から受け取った自分を尊重するためのメッセージの数々や、おなじ目線で交わした会話の記憶は、茶化しに逃げがちだった天の性格を大きく変えた。面と向かって龍司に告白できるくらいには、自分の感情を尊重できるようになったのだ。

付き合えるかどうかではなく、そこに至るまでに積み重ねた会話に意味を見いだすのが『なら恋』のいちばんの魅力のひとつであるとわたしは思う。

自分のままでいられる“救済”の物語

『なら恋』は自分を茶化して傷つくことから逃げてきた天が、なにごとにもまっすぐ向き合う龍司と出会うことで”救済”されてゆく物語だ。龍司の存在によって、自分が自分のままでいられる場所を見つけた天は、すこしずつ自分の茶化したり隠したりする”わるいくせ”と向き合ってゆく。どんな困難があってもお互いを尊重し、想いをすべて言葉にして伝え合うふたりならきっと大丈夫。どんな想いも伝え合えるだけの信頼を築きあげ、けっして互いの感情をかるく見ない『なら恋』には、天と一緒に読者であるわたしも”救済”されてゆく。


『君となら恋をしてみても』最新7巻は2026年5月1日発売。

《丹渡実夢》

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