かの有名な『スパイ大作戦』のようなスリリングでスタイリッシュな作風と物語、『SPYxFAMILY』。Season3も最終回を迎えた。(K)NoW_NAMEによるジャズをメインにした劇伴に彩られた本作は、美麗な作画とスピーディーな展開、そしてアーニャの可愛らしさで大人気だ。
世界各国が水面下にて熾烈な情報戦を繰り広げていた時代が舞台。東西の間に鉄のカーテンが下りて十余年、隣り合う東国(オスタニア)と西国(ウェスタリス)の間には仮初の平和があった。西国から東国に送られた西国一の凄腕スパイ・黄昏ことロイド・フォージャーは任務遂行のために偶然に出会ったヨルを妻に、アーニャを娘として仮初の家族となり、任務のために動くロイドたちのドタバタでハートフルなこの物語が広く愛されるアニメとなった要因の一つに主題歌がある。アニメファンのみならず音楽ファンからの人気も高いアーティストがOP&EDを担当してきた。
バラエティに富んだクリエイター、アーティストが担当しているが、彼らに一貫して言えることはその音楽に“物語”があること。そしてどの曲からも彼らの日常と3人が共に歩を進めていくイメージが浮かぶこと。物語は東西の国の緊張とスパイ活動とは切り離せないものの、フォージャー家の「家族としての毎日」という旅路を鮮やかに感じさせるのだ。音楽が繋ぎ、共に歩む印象の強い彼らの日々を主題歌と共に振り返る。
Season 3
切なさが滲む楽曲はフォージャー家の日常が薄氷の上の平和の中にあることを思い起こさせる
OP主題歌 スピッツ「灯を護る」

1991年にメジャーデビューをしたスピッツがバンド史上初めてテレビアニメに楽曲を書き下ろしたことでも話題となった一曲。胸を叩くような太鼓の音で幕を開けると、ドラムと共にシンバルがビートを刻み、軽やかなギターのハーモニーに柔らかな草野マサムネの歌声が重なる。ハートフルながらそのボーカルからそこはかとない切なさが滲むナンバーが、笑顔溢れるフォージャー家の日常が薄氷の上の平和の中にあることを思い起こさせる。そんな一曲も、ラストの音像に希望が煌めくのはスピッツらしい。
誰もが“役”を演じているというテーマの本曲。それぞれが役目を演じながらも笑顔溢れる家庭として共に過ごす様が浮かぶ
ED主題歌 幾田りら「Actor」

YOASOBIの幾田りら自身の作詞作曲で書き下ろされたハートフルチューンは、誰もが“役”を演じている、というテーマで紡がれた柔らかで優しいミディアムポップナンバー。ハミングからはじまると、軽快なホーンとバンドが生き生きと響かせる音が紡ぐ柔らかなハーモニーが放たれるサウンドが印象的だ。ロイド、ヨル、アーニャ。それぞれが役目を演じながらも笑顔溢れる家庭として共に過ごす様が浮かぶ。本シーズンでロイドの過酷な幼少期を描いたエピソードもあるだけに、現在の彼らへ自然と思い馳せてしまうED。
season2
冒険という日々に出かけていくファミリーの日常のように鼓動が逸る
OP主題歌 Ado「クラクラ」

シンガーソングライターのmeiyoの作詞作曲に、菅野よう子率いるバンド・SEATBELTSの編曲で制作された一曲をAdoが歌い上げるOP。ホーンの音がダイナミックに響くジャズロックのダンスナンバーには、畳みかけるように言葉が詰まり、軽やかなメロディが高らかに響いていくドラマティックな展開がリスナーに刺さる。そんなOP曲と共に物語のはじまりを彩るアニメ映像はロイド、ヨル、アーニャが軽快に歩を進めていく様が印象的。冒険という日々に出かけていくように鼓動が逸る一曲。
J-POPの枠組みでのサウンドメイクに洋楽のテイストを混じらせ『SPY×FAMILY』世界観に溶け込ませる
ED主題歌 Vaundy「トドメの一撃 feat.Cory Wong」

VaundyがギタリストのCory Wongを迎えて鳴らすSeason2のED曲。フルートの音色とピアノの旋律と共に響きだすイントロから軽やかなギターリフとで爽快なミディアムビートで紡ぐポップチューンはカラフルな音の粒子がキラキラと発色するような一曲だ。甘さのあるボーカルの優しい響きに重なるCory Wongの独特のカッティングとエフェクティブなギタープレイが光る。J-POPの枠組みでのサウンドメイクに洋楽のテイストを混じらせ、世界観に溶け込ませた秀逸曲。
Season1 第1クール
アーニャの目の輝き!ワクワクな冒険譚の幕開けをゴージャスに彩る
OP主題歌 Official髭男dism「ミックスナッツ」

原作ファンだったというバンドが「ぜひやりたい」と快諾して書き下ろされた一曲は、ホーンの音色が華やかにゴージャスに鳴り響くアッパーチューン。疾走感がアニメの映像と共にポップに色づく一曲はビッグバンドで奏でるようなスケール感とジャジーかつ軽快なビートが印象的であり、軽やかで伸びやかなボーカルが響くと、アーニャが目を輝かせる彼らのワクワクの冒険譚の日常の幕開けを感じさせる。アニメの“顔”として国内外で人気を誇るナンバーだ。
「家族」をテーマに書き下ろした本曲。ほっこりとしたフォージャー家が息づく
ED主題歌 星野源「喜劇」

敏腕スパイの父に殺し屋の母、そして心を読む超能力を持つ娘というお互いに秘密を持った家族による捧腹絶倒の冒険活劇的な本編の終わりに、ゆっくり家路を歩くような星野源の歌声に、彼らの日常が浮かんでくるED。「家族」をテーマに星野が書き下ろしたという本作は、ゆるやかに響くギターのリフと鼓動のような暖かみと朴訥とした和やかさが滲むドラムとベースのビートが心地よい。歌に合わせたアニメーションでもほっこりとしたフォージャー家が息づく。
Season1 第2クール
目まぐるしい毎日を送るロイド、ヨル、アーニャの我が家への“帰路”か?
OP主題歌 BUMP OF CHICKEN「SOUVENIR」

第2クールのOPは軽快なドラムの音から始まるリズミックなロックンロールに、心躍る時間へと飛び出していくような躍動感が溢れる。華やぎのあるバンドサウンドは思わずクラップを入れてしまいたくなるほどのご機嫌ビートに彩られ、耳に入ればハートが躍動していくように感じる。そんな一曲の中で歌われる「あなたに向かう道」の言葉。これはロイド、ヨル、アーニャの目まぐるしい毎日での我が家への“帰路”か。このOPの初放送から犬のボンドがフォージャー家の一員に。
笑顔の絶えないフォージャー家の毎日が見えるようなダンサブルなピアノロック
ED主題歌 yama「色彩」
楽曲クリエイターでボカロPとしても知られるくじらが楽曲提供をし、yamaが歌う一曲。ダンサブルなピアノロックがカラフルに発色する中、yamaの伸びやかなハイトーンボーカルが鍵盤の旋律と共に躍るように響くと、笑顔の絶えないフォージャー家の日常が垣間見えてくるイメージ。人生礼賛のような歌が彩るのは、アーニャたちの日常。休まる暇ないほど躍動する時間からほっと一息をつく瞬間へと結ばれていく展開が良い。「落ち込む夜でさえ多彩で気まぐれ」のフレーズにフォージャー家の毎日が見える。
現段階で続編の情報は入ってはいないが、今後はどのような主題歌によってフォージャー家の毎日が描かれていくのか、期待を持って待ちたい。

