『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』が現在公開中だ。2025年2月6日には公開後イベントとして、監督の藤森雅也、キャラクターデザインの新山恵美子が登壇する第二回スタッフトークが開催された。この記事では、こだわりのアクションシーンの作画から、瞬間的に映る貴重なカットへのこだわりも披露された、その模様を紹介する。
※本レポートは本編のネタバレを含みます※
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当日の会場では、スクリーンにこの日のために新山が描き上げたという六年生のイラストが投影され、温かい拍手に迎えられながら藤森監督と七松小平太のパペットを手にした新山が登壇した。TVアニメ『忍たま乱太郎』の初代のキャラクターデザイナーである藤森監督と、キャラクターデザインを引き継ぐ形で現在もその役を担っている新山。師弟関係とも言える2人の和やかなトークはキャラクターの頭身についてから始まった。
一年生以外のキャラクターたちの頭身をTVアニメに比べ高くしたことについて、藤森監督は実際のキャラクター設定資料を見ながら「アクションシーンでは、シルエットを立たせやすいのと、座っている芝居でも低くカメラを置いた時に威厳があるように見えるのが良かったなと思います」と説明する。新山も「格好良く描こうとすると(頭身が)伸びちゃいますよね」と、特にアクションシーンなどは設定よりも頭身が伸びていることを明かした。
そして、一年生以外の等身を伸ばしたことで「副産物」として現れた効果として、藤森監督は「対比で、は組の生徒たちが(先生たちに比べ)小さくなるので可愛くなるんです。テレビ版だと先生たちの胸下くらいまで身長があるんですが」とし、新山も「土井先生が伸びたのかきり丸が縮んだのか…。きりちゃんが本当に可愛い。(監督が描いた)コンテの時点からこの可愛さだったので可愛く描かなければと、監督に激しく同意でした」と、藤森監督の絵コンテを大絶賛した。
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スタッフトークの前半は、アクションシーンのこだわりポイントについてのトークが繰り広げられた。まず取り上げられたのは、冒頭の土井先生と諸泉尊奈門とのアクションシーンのこだわりについて。監督は「今回の映画で、土井先生と天鬼の忍具の使い方を同じにしたいと思っていて。出席簿はいつも同じなんですが、チョークの投げ方は、6コマで3本のチョークを投げろという指示を入れたかな?」と話す。
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新山もこのシーンにはこだわりがあるとして「土井先生は出席簿で戦っているので、ボロボロになっていくんです。綺麗な状態からその状態まで繋げないといけないので、作画のこだわりで、アクションに合わせて出席簿の傷を少しずつ増やしていきました。シーンの前半と後半で作画監督を分けており、私が前半の作画監督を担当したのですが出席簿の傷の量は合わせていかないといけないので、出席簿は(後半のシーン含め)全部やらせてもらいました。傷の密度が増えたり減ったりすると映画として気持ち悪いので、拘りました」という苦労を明かす。藤森監督は「その苦労を全く知らず、ちゃんとしているなと思って見ていました」とその苦労を労わった。
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続いては、天鬼VS六年生のアクションシーンについて。このシーンについて、藤森監督は「ヒーローものみたいな出撃にしたいと思って。また接近戦が得意な人と距離を置いた戦いが得意な人に分けて全体を動かすというのを『忍たま』でも1回作ってみたいなと思って、やらせていただきました」と語りつつ「TVシリーズではギャグアニメだから<いけどん>とか<ギンギン>で行くのは正しいんだけど、六年生なんだから出来るやつらに決まってる。本作では彼らにも冷静で優秀な側面があるよ、と描かせてもらいました」と明かした。
さらに、普段の『忍たま』らしからぬシーンとしても話題になった六年生の傷についても話がおよぶ。新山は「設定を書いていて、血の形が都道府県の形に見えないかだけ気になってました」と笑いを誘いながら、カットごとに傷が増えシルエットも変わる善法寺伊作の作画には苦労したと話した。さらに、血の色について藤森監督は「最初はもう少し鮮やかな色も検討したんですが……」と幅広い年齢層の観客への配慮をし、今の色に決定したという裏話も披露した。
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山田先生と卒業生の桜木清右衛門、若王寺勘兵衛のアクションシーンについては「コンテが村野(佑太)くんで、作画は堀内(博之)さん。このシーンはアクション作画監督の関根(昌之)くんとは別の人がやっているんです。堀内さんは理論派で重量感のある動きを描ける方で、このシーンだけでなく天鬼VS六年生のアクションシーンの中盤も手がけてくれています。関根くんと堀内さんはテイストが違うタイプのアクションを描くので、見比べてみると超一流の二人の個性の違いが分かって面白いと思います」と、藤森監督ならではのこだわりポイントを述べる。
さらに、後半の見どころのひとつでもある山田利吉と雑渡昆奈門の戦いについては「ここのアクションシーンは関根くんが1人で担当しているんですが、雑渡の凄さが異次元だというのを見せたくて、雑渡が空中で回転するシーンは無茶振りをしてしまいました。普通の人間はジャンプすると着地するまで軌道は変えられないですが、雑渡は<雑渡ドリル(新山が命名)>で回っている間に体幹の軸をずらして軌道を変えてしまう、というのを描いてもらいました。関根くんは僕が何を言っているのか分かっていなかったかもしれないのだけど、ちゃんと描いてくれましたね。よくあんな注文で描いてくれたなと感心しました」と、雑渡の人間離れしたアクションの裏側を明かした。
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トークは藤森監督、新山のお互いの仕事のお気に入りポイントを披露するコーナーへと移る。まずは藤森監督が好きな、新山が手がけた作画の紹介からスタートした。本作で約770カットを手掛けたという新山の仕事から、藤森監督が特にお気に入りだという4つのカットが紹介された。
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一つ目は、忍術学園を出発する土井先生の表情だ。「今回、頭身変更とともに土井先生の顔を少しすっきりさせている。映画の冒頭で『こんなの土井先生じゃない』と言われたらどうしようという不安が少しだけあったのですが、ものの見事にいつもの優しい土井先生になっていてありがたかったなと思ったカットです」と選んだ理由を話した。「(展開を知っているからこそ)今生の別れのように描いちゃいけない、やりすぎちゃいけない」と気を遣ったという新山に「いい塩梅で、すごく優しい表情だと思います」と声をかけた。
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二つ目のカットは、潮江文次郎が土井先生捜索の折に見せた「しょぼしょぼな顔」だ。「『言いたくねーんだよ俺も』という感じの表情がいいよね。キャラクターの表情芝居は真っ当にやろうというテーマがあったので大満足、100点満点のカットです」と大絶賛を送る。「ここは2日くらい悩んで描いたカットですが、コンテから(表情芝居の大切さは)伝わってきたので、ひとりずつの感情を大切にして描けました」と、新山も当時を振り返った。
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三つ目のカットはきり丸を囲む六年生のカット、特に立花仙蔵の「しょっぱい表情」が注目ポイントだ。「こういうのが良いんだよね、普段ちょっと見ないしょっぱい表情がすごくいい」と評価する。新山は「ここは作画監督が谷口(亜希子)さんなんですが、メモに『ここは絶対にコンテの絵のままでやりたい!』と書いてあったので、うんうん、私もそう思うと描いたカットです。藤森さんのコンテが良かったんですよ」と返した。
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四つ目に挙げたのは、土井先生の不在に落ち込むきり丸と対峙する山田先生と学園長の優しい表情のカットだ。監督は「きり丸がとにかく落ち込んでいるんですが、きり丸を見せずに2人の目線の芝居で表現しています。話しかけるときの山田先生の表情がいいんだよね」と話す。すると新山も「私もコンテを読んだ時に、きり丸が最初に写ってからその後は全然写らないんです。じゃあそれ(きり丸が落ち込んでいる姿)を想像させないといけない。きり丸を大切に思っていることを伝えるために一瞬、安心感を与えてあげるお父さんのような笑顔を入れました」と語った。
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続いて、新山がお気に入りの、藤森監督の技が光るシーンを3つ紹介した。一つ目は雑渡昆奈門と諸泉尊奈門がは組で行う、2回目の授業で尊奈門が教壇に立ったシーンだ。「コンテを読んだ時に本当にびっくりして。1回目の授業は割とオーソドックスなカット割りなのですが、2回目は2人の心情込みのカメラワークが続いていくんですが、同じ授業のシーンをやっているのに、飽きのこないメリハリのあるカット割り。どうやったら雑渡のお尻ごしに撮るカットにしよう、となるんでしょうか」と、藤森監督の大胆なカット割りに驚愕したエピソードを披露する。
藤森監督は「授業のシーンなんだけど、サスペンスのように作ろうと思って。斜めの構図とか広角とかを使って緊張感を出しました。とにかく画がまとまっていてカッコよければいいんです」と自論を展開した。新山は「どういう発想なんだろうなとすごくハラハラしました」と心情を明かした。
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続いて紹介されたのは、土井先生の記憶が戻るシーンだ。「大好きなシーンなんですが、土井先生の目線から山田先生の家、忍術学園との出会い、六年生が一年生だった頃、そしては組に出会って、きり丸との生活がはじまって……という流れがあるなと思うんですが、は組が通り過ぎるワイプだけが早くて、知っているのに目で追えないんですよ。今日はここの原画を見せられたらなと思って……」と、回想シーンで一瞬スクリーンを駆け抜けていくは組の生徒たちの原画を披露し、会場からは待っていましたとばかりに、拍手が送られた。
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「これは藤森さんがレイアウトを描き、私が原画を描いたんですが、『きり丸だけ色を落としてください』と指示がありました。実はこの回想シーンには流れがあって、土井先生が六年生の次には組に出会ったが、笑顔のは組の生徒たちの中で、きり丸だけ真顔でこっちを見ていて、土井先生から見てちょっと浮いている子にみえる。ワイプが通過して、夏休み前に影のあるきり丸がいて、そんなきり丸を引っ張り出した後に、きり丸との生活シーンが入っている。個人的には非常に大事なシーンだと思っているんですが、とにかく(流れるスピードが)早い!!私が可愛い可愛いと思いながら描いた顔を見て欲しかった」と熱い気持ちを語った。
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最後に新山が挙げたのは、ひっくりかえる稗田八方斎を顎の下から写したカットだ。藤森監督がレイアウトしたカットで、新山は「八方斎って鷲鼻じゃないですか。(下から)煽ると鷲鼻ってどうなるんだろうという話になったのですが、鼻どころではなくてここまでひっくり返されるとエラなんだか首なんだか、何だか分からなくなってしまって。こういう美しくも難しいシーンはアニメーター藤森雅也ではないと描けないカットだったと思っています」と絶賛する。藤森監督は「口髭が飛び出ているのが可愛いよね。なかなか機会のない角度で描いていただきありがとうございました」と話した。
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イベントの最後には、新山は「この映画の作業に入る前に体調を崩していて、復帰してすぐにこの仕事が待っていました。体力面の心配はあったのですが、藤森さんとの『忍たま』を絶対に一緒にやると。体調の不安が吹き飛ぶくらいにめちゃくちゃ刺激的な仕事をさせてもらいました。私も含め亜細亜堂のスタッフ皆が藤森さんのお人柄や仕事が大好きで、付いて行きたい!という感じなんです。とても楽しい仕事をさせていただきました。沢山の人に愛される作品になって良かったなと思います」と述べる。
藤森監督は「皆、大喜びでいろんな思いを込めて、作画だけでなく制作も自分の立場を忘れてギリギリまで粘って最後まで熱心に取り組んでくれました。そんな本作を皆さんに楽しんで頂けて私は本当に嬉しいです。これからも『忍たま乱太郎』をよろしくお願いいたします」と感謝を述べ、イベントは幕を閉じた。
《イベント概要》
日時:2月6日(木)20:28~21:18 ※上映後イベント
場所:新宿ピカデリー スクリーン1
登壇者(敬称略):藤森雅也(監督)、新山恵美子(キャラクターデザイン)
『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』
大ヒット公開中!
原作:「落第忍者乱太郎」尼子騒兵衛(朝日新聞出版刊)
テレビアニメシリーズ「忍たま乱太郎」
「小説 落第忍者乱太郎 ドクタケ忍者隊 最強の軍師」
(原作・イラスト:尼子騒兵衛/小説:阪口和久/朝日新聞出版刊)
出演:高山みなみ 田中真弓 一龍斎貞友 関俊彦
大塚明夫 岡野浩介 間宮康弘 森久保祥太郎 代永翼
成田剣 保志総一朗 渋谷茂 神奈延年 置鮎龍太郎 鈴木千尋
小田敏充 金丸淳一 山崎たくみ 東龍一
スペシャルゲスト:大西流星 藤原丈一郎
監督:藤森雅也
脚本:阪口和久
音楽:馬飼野康二
主題歌:「ありがとう心から」/ テーマ曲:「勇気100%」 なにわ男子 (ストームレーベルズ)
キャラクターデザイン:新山恵美子
副監督:根岸宏樹
アクション作画監督:関根昌之
美術監督:川口正明(アトリエローク07)
撮影監督:林コージロー(グラフィニカ)
色彩設計:村田恵里子(グラフィニカ)
編集:坂本雅紀(森田編集室)
音響監督:大熊昭
音響効果:庄司雅弘
音響制作:AUDIO PLANNING U
アニメーション制作:亜細亜堂
配給:松竹
製作:劇場版忍たま乱太郎製作委員会
(C)尼子騒兵衛/劇場版忍たま乱太郎製作委員会