絶賛公開中の映画『ふれる。』。『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』などで知られる長井龍雪監督、脚本・岡田麿里さん、キャラクターデザイン&総作画監督・田中将賀さんが送り出す、オリジナル長編アニメーション映画だ。
本作は、「ふれる」という不思議な生き物を介して心がつながる青年たちの友情物語。ともに上京して共同生活を始めた秋、諒、優太は、とあるきっかけでお互いの心の底や友情に向き合うことになる。
青年期、都会、海、不思議な生物など、秩父3部作(『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』『空の青さを知る人よ』)とは異なる要素が随所に散りばめられている本作。新たな挑戦を選んだ経緯を、長井龍雪監督と田中将賀さんにうかがった。
[取材・文=ハシビロコ]
◆秩父3部作との“対比”が軸になった
――秩父3部作を手掛けた3人による最新作がいよいよ公開となりました。本作の制作はどのように決まりましたか?
長井 『空の青さを知る人よ』(『空青』)が終わったあとに、「次は何をする?」と軽い雑談をしていて。スペインの映画祭に行ったときにその話が出たのですが、同行していたプロデューサーの方が、「一緒にやりますか」と声をかけてくださり、前作からの延長線で本作の制作が決まりました。
田中 なんなら『空青』制作中から、「次、何やりますか?」と雑談していたくらいです。前作からの延長線上で『ふれる。』の制作が始まった感覚ですね。
――本作は舞台が高田馬場となり、20歳の青年たちがメインキャラクターなど、秩父3部作との違いも多いです。どのように作品を形作られていきましたか?
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長井 高校生を主人公にした秩父の物語が一区切り付いたので、「そこから一歩進めた話にしよう」とすぐに決まりました。早い段階で「上京」というキーワードも出てきて。男の子3人がメインなのも前作までとの対比で、新しいチャレンジとして取り組みました。
――短くシンプルなタイトルも、秩父3部作との違いのひとつです。タイトルはどのように決まったのでしょうか?
長井 今までもわりとそうだったのですが、岡田さんからいただいた最初の脚本に書かれていた仮タイトルをそのまま使いました。
でも、今回は本当に仮のつもりだったんです。そもそも仮タイトルが先にあって、生き物の「ふれる」があとからできました。「ふれる」が生まれた時点で、もうタイトルを動かせなくなって(笑)。しっくりきてしまったので、「(仮)」を取ってそのまま使いました。
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田中 ビジュアルはあとから決めたものの、「ふれる」の役割や能力などの根本的な部分は変わっていませんよね。だからタイトルの『ふれる。』は作品のテーマにとても合っていると思いました。僕も試写を見て、このタイトルでよかったと感じましたし。
僕はマスコットキャラクターや小動物的なものに対して「かわいい」、「愛でたい」という気持ちがあまり強くないので、最初は「ふれる」を出すことにしっくり来なかったんです。画面内でどう見えるのだろう、本当にかわいいのかな?などの不安のほうが強くて。でもフォルムができあがるごとに「かわいい」と思う気持ちがどんどん大きくなりました。だからこそ完成した映像を見て、よい読後感のようなものをもらいましたし、「なんて魅力的なタイトルなんだろう」と感じたのだと思います。
◆「海」と「都会」を舞台にした理由
――秋たち3人の故郷である島の設定は、どのように決めましたか?
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長井 これまでは秩父が舞台で山に囲まれた土地が多かったので、「海を出すか」とアイデアが出ました。海を出すなら島だろう、とその流れで決まった記憶があります。海は表現方法が難しいのでこれまでは避けてきましたが、近年はCG技術が発展したので、ようやく海を描く決心がつきました。
田中 今回は3DCGアニメーション制作会社のサブリメイションさんに入っていただけたおかげで、すごくいい波ができました。手描きの作画アニメで波を表現していた頃は、いかに波打ち際をうまく描くかに苦心していて。だから海を出す作品は大変だったんです。
長井 でも今回は、遠慮なく海岸線で芝居ができました。これも本作でチャレンジできたことのひとつですね。
――そして、上京して3人の共同生活が始まりますが、舞台に高田馬場を選んだ理由や、ロケハン時のエピソードをお聞かせください。
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長井 自分が東京に出てきたばかりの頃も同じく西武新宿線沿線に住んでいて。だから上京といえば高田馬場のイメージがありました。あとはロケハンをあらためて行い、都会すぎない下町の雰囲気と東京を感じられる部分がどちらもあったことが決め手になったと思います。
田中 いろいろな表情があって、どこを切り取っても画になりそうな点も舞台としてありがたかったです。駅前の混沌とした感じだけでなく、少し裏に入るとジャンクな雰囲気もある。それも含めて魅力的でした。僕は初めて高田馬場をきちんと歩いたので、感心する部分や発見が多かったです。