鈴村健一が総合プロデューサーを務める、すべてが即興の舞台劇『AD-LIVE(アドリブ)』が今年15周年を迎えた。「運命のやりなおし」をテーマに、人気声優、俳優たちによる予測不能のアドリブ芝居が繰り広げられる。鈴村にこの公演の原点から今日に至るまでを振り返ってもらった。
<以下、インタビュー全文掲載>
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――『AD-LIVE』のルーツは、15年前のドラマCDの発売記念イベントだったんですよね。
ドラマCD自体が、もともと僕のやっていたウェブのテレビ番組内の企画でした。当時はYouTubeもない中での無料番組だったので、スタッフ全員で試行錯誤しながら頑張っていましたね。
――その中で、即興劇という発想はどう生まれたんですか?
僕が20歳の頃から温めていた企画でした。演劇のワークショップに行っていたとき、エチュードのトレーニングがあって。これをエンタメにする方法があるはずだと、ずっと考えていたんです。完全に即興だけどストーリーが紡げる形態の演劇を、いつかやりたいと思っていました。
――最初のイベントより、さらに10年以上前から、ということですね。
そこから長く、僕はタレントとして低迷するので(笑)、自分の力でものを作れるタイミングはありませんでした。30代に入って、やっと自分の好きなことができるようになって、ウェブ番組で作ったドラマCDのキャンペーンで『ここだ!』と。20歳の頃に考えていた即興劇に加えて、いろいろ経験を積む中で、インプロと呼ばれる演劇を観に行ったこともあって。
――エチュード以上に即興性が高い、台本なしの芝居ですね。
ペーパーズという、言葉が書かれた紙をステージ上にバラまいて、それを拾いながら台詞や設定にしていく演技スタイルがとても面白かったんです。そのエッセンスを取り入れて作ったのが『AD-LIVE』ですね。
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――では、『AD-LIVE』の中でキャストが引いて台詞に入れる「アドリブワード」も、最初から取り入れていたんですか?
最初からありました。ペーパーズにインスパイアされているので。
――定期的に開催することも、最初から視野に入れていたのですか?
イベントとしてやっていくうちに、これを本格的に演劇としてスピンオフしたら面白いだろうなと思って。『AD-LIVE』はイベント的要素もあるし、もっと違う見せ方もできるはずだから、大きい会場でやってみたいという野望が生まれたんです。2018年に仙台で実施した「AD-LIVE 10th Anniversary stage~とてもスケジュールがあいました~」が約4000人収容の会場で実施できて、夢が叶いました。
――逆に、継続が危ぶまれるようなピンチはありましたか?
めっちゃあります! CD発売イベントからスピンオフした最初の公演(『鈴村健一の超人タイツ ジャイアント』~ついにスケジュールがあいました2012・秋~)で、ステージ上にコンビニの店舗を作って、本物の冷蔵庫を入れたんです。ものが食べられて、おでんも作れるというセットを組んだんですけど、チケットは苦戦しましたね。
――そんな時代もあったんですね。
そのときに、もっといろいろな人に届けられる方法が必要だと感じました。力を貸してくださる方に会いたいと思い、僕からアニプレックスさんに売り込みに行ったんです。個人でアポを取って、『すいません。僕の企画書を見てください』と(笑)。
――総合プロデューサーとして動かれたんですね。
チケットが売れなかったとき、福山潤くんがすごく応援してくれたんです。彼自身は出ていないのに、自分のブログで『鈴村さんがすごく面白い舞台をやってるよ』と書いてくれたり。僕には『すごく良い企画なので、もっとたくさんの人に知ってもらったほうがいいですよ』と言ってくれて。『そうだよな。この舞台をいろいろな人に見てもらえたらいいな』と強く思いました。だから、福山潤くんは僕の背中を押してくれたひとりですね。
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――『AD-LIVE』では「誰も知らない奇跡の瞬間」というキャッチフレーズが使われています。過去の公演でも、そういう瞬間はよくありましたか?
山ほどありますね。毎回あります。そんな奇跡起きます?みたいなことばかり。不思議とマッチするアドリブワードがあって。先ほど話に出た 2012年公演では、『何を食べる?』と聞かれて引いたら、“ツナおにぎり”というのが出たり(笑)。長年の中で僕がトップクラスに好きな引きは、「AD-LIVE 2018」夜公演での前野(智昭)くんの最後の引き。暴走族の総長が1回たたんだチームを再編成して、『もう1回やり直すぞ』というストーリーで。90分かけて、最後に『新しいチームの名前は?』と聞かれて、引いたワードが“没落貴族”だったんです(笑)。あれは本当に凄かった。でも、そんなことがいっぱいあります。
――今年は「運命のやりなおし」というテーマですね。
人生でバッドエンドを迎えて、やり直そうとする人と、それを導く縁があった人が出てきます。でも、導く人は本当の自分を失っているんです。自分が何者なのかも探りながら相手をサポートして、思い出していく構成になっています。そこに過去の公演のエッセンスも混ぜました。
――たとえば?
『AD-LIVE 2016』のマインドダイブの要素。片方の人は相手の情報を全部持っていて、もう片方の人は何も知らない状態からドラマが進み、自分が何者か気づいていくシナリオでした。そういう要素が今回もあります。あと、2019年度公演の『AD-LIVE ZERO』 では設定からすべてくじ引きで決めて公演を実施したんですけど、くじに翻弄されたり助けられたりすることも、今年は「運命の玉」として、しっかり取り入れています。
――過去公演の面白いところを凝縮しているんですね。
今回は、即興劇の醍醐味が全部詰まった、集大成になりそうです。15年もやってきて、1つ1つ蓄積されたものがあるからこそ、できることです。とはいえ、過去の公演を一度も観たことがなくても、今年の舞台だけでも見ていただくことができます。どんな展開になるかは、わかりませんけど(笑)。今までも皆さんのおかげで続けてこられたと思っていて。より多くの方に『AD-LIVE』に触れていただきたいので、よろしくお願いします!
[取材・文:斉藤貴志 撮影:江藤はんな(SHERPA+)]
『AD-LIVE 2023』
<今後の公演日程>
9 月 23 日(土・祝) 大阪・メルパルクホール大阪
【出演】蒼井翔太、新木宏典、鈴村健一
9 月 24 日(日) 大阪・メルパルクホール大阪
【出演】武内駿輔、畠中 祐、鈴村健一
11 月 11 日(土) 東京・片柳アリーナ
【出演】浅沼晋太郎、岡本信彦、小野賢章、梶 裕貴、鈴村健一
11 月 12 日(日) 東京・片柳アリーナ
【出演】内田雄馬、木村良平、陣内 将、福山 潤、鈴村健一