- アニメやマンガ作品において、キャラクター人気や話題は、主人公サイドやヒーローに偏りがち。でも、「光」が明るく輝いて見えるのは「影」の存在があってこそ。
敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第28弾は、『るろうに剣心』より雪代縁の魅力に迫ります。
『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』のユニークなポイントは、主人公がかつて人斬りとして多くの人を殺めてきた過去を持つ点だ。
そういう過去があるから、本作の物語は必然的に主人公の「贖罪」が重要な要素となる。そして、贖罪を描くためには、主人公に恨みを持って復讐する相手が必要となる。悲しみと憎しみを背負った存在と真っ向から対峙せねば、贖罪を果たしきることはできない。
その復讐心を持った敵役が、雪代縁だ。実写映画『るろうに剣心 最終章 The Final』で剣心に立ちはだかる縁は、「京都編」の敵役だった志々雄真実とは異なり、個人的な怨念で剣心に戦いを挑む。底知れぬ深い恨みが志々雄とは異なる不気味さを放ち、簡単に断罪できない複雑さを物語に与えている。
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■復讐対象は剣心の「全て」
雪代縁が復讐に燃える理由は、愛する姉を奪われたからだ。幼い頃から親代わりの存在として姉に面倒を見られていた縁は、京都で偽りの夫婦を営んでいる剣心と姉に近づく。姉はかつて剣心に婚約者を殺されており、復讐の目的で近づいたが、次第に剣心の孤独と哀しみに惹かれ、愛するようになっていた。
縁は姉にだまって復讐を手伝う目的で京都に潜伏していた。しかし、姉の変心を知り苦悩する。剣心の命を狙う組織に姉弟ともども利用され、剣心が半ば事故のような形で姉の命を奪うところを目撃した縁は、その日から剣心への復讐だけを誓い、生き続けてきた。
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剣心のいる日本にいることを良しとせず、中国大陸に渡って財力を築いた縁は、剣心への復讐をついに開始する。だが、彼の標的は剣心本人だけでなく、彼が関わった全ての者たちだった。「復讐の対象は、お前ではなく、お前の全て」と言い放つ冷たい表情の縁は、剣心を苦しませることだけを生きる目的にしていた苦しみに溢れている。
縁の復讐の動機自体は、理解可能だ。だれだって最愛の家族を目の前で失えば恨みを抱くだろう。しかし、その復讐相手にわずかでも関わった者全てを巻き込むという無差別なやり方は新たな憎しみを生んでいる。
しかし、悲しみが深すぎる縁は、剣心を苦しめることそれだけしか頭にない。その深い憎悪を生んだのが、主人公である剣心の過去の行いであることを考えると、少なくとも剣心にとって、縁という存在は全てを否定しきれない存在なのだ。そういう点では、剣心にとっては志々雄以上にやっかいな相手である。
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■ただ力で倒すだけでは終わらない
縁は、剣心にとってただ倒せばいい相手ではない。自分の行いのせいで彼を復讐鬼にしてしまったことを剣心はよくわかっている。彼の悲しみは受け止めねばならない。しかし、彼の非道な行いを見過ごすわけにもいかない。
縁が行使している暴力自体は止めねばならない。しかし、その暴力の源泉が深い悲しみだとすれば、表面の暴力を止めるだけでは解決にならないのだ。だから、2人の戦いは、最終的にどちらが相手を倒すかではなく、縁と剣心が悲しみを共有できるかどうかの戦いとなる。
『るろうに剣心』という作品を締める上で、縁のような存在は絶対に欠かせなかった。かつて、人斬り抜刀斎として多くの命を奪った暴力を、いかにすれば償えるのか。雪代縁は、そんな答えの出せない問いを突きつける難敵だ。
その実力だけでなく、精神的にも剣心を追い詰める存在だからこそ、縁は「Final」を飾るにふさわしい敵役なのである。
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(C)和月伸宏/集英社(C)2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会