みなさんはアニメの制作工程をご存じだろうか? なんとなく「たくさんの人がかかわっている」ということや、「原画マンが描いた絵を、作画監督がチェックして……」という大まかな流れはイメージができても、具体的に各セクションがどんなことをしているかわからない人も多いのでは。
その真相を探るべく、編集部は風に乗って空を飛ぶ航空機・グライダーに青春を懸ける大学生たちの姿を描くアニメ映画『ブルーサーマル』の制作真っ只中のテレコム・アニメーションフィルムへ潜入! アニメ制作のリアルな現場を見せてもらった。
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アニメーション制作の3つの工程
まずは、アニメが出来上がるまでのざっくりとした流れを説明しよう。アニメーション制作は、大きく「プリプロダクション」「プロダクション」「ポストプロダクション」の3つの工程に分けられる。
「プリプロダクション」は、企画立ち上げから制作に必要となる材料を作る工程だ。シナリオ、絵コンテ、キャラクター設定や美術設定などを作る作業がここに当たる。
続く「プロダクション」は、プリプロダクションで作った絵コンテや設定を土台として、原画スタッフが原画を描いたり、背景美術スタッフが背景を描いたりしていく工程。別セクションで描かれたキャラクターと背景は、撮影というセクションで一つのアニメーション映像に合体される。
そして、最後の「ポストプロダクション」は、プロダクションで作られた映像を編集し、セリフや音楽、効果音を付けていく作業である。こうして一つのアニメーション作品が完成するのだ。
多くの人が「アニメ制作」と聞いてイメージするのは、「プロダクション」だろう。実際、この工程は、原画や動画、背景美術、仕上げ、撮影など、非常に多くのスタッフが関わるアニメ制作の肝となるパートである。この工程の流れをもう少し詳しく図説すると、以下のようなイメージになる。
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テレコム・アニメーションフィルムでは、上記フローのうち、原画、演出、動画、背景、そしてそれらの作業進行を管理する制作のスタッフを社内に抱えている。プロダクションの大まかな流れを社内で行えるのが、テレコム・アニメーションフィルムの強みなのだ。
ただ、多くの人間の手を必要とするアニメ制作は、もちろん社内スタッフだけで作業を完結することはできない。映画『ブルーサーマル』も、例えば3Dの作業などは社外のクリエイターの力も借りながら作られている。
テレコム・アニメーションフィルムの内部はこんな感じ!
以上の話を踏まえたうえで、続いて、テレコム・アニメーションフィルムの内部を見学させてもらったレポートをお届けする。
テレコム・アニメーションフィルムは、親会社であるトムス・エンタテインメントの本社ビル内に社を構えている。入り口を入ってすぐ左手にあるのが、制作進行や制作デスク、設定制作、アニメーションプロデューサーが属する制作部の机だ。
制作は、原画、動画、作画監督など各スタッフとやり取りをし、交通整理を行う役割。机の上には、リテイクが済み、これから動画スタッフへと渡る原画が入ったカット袋などが置かれていた。また、『ブルーサーマル』の原作コミックスや、たまきたちの衣装参考となるつなぎなど、作品の関連資料も並んでいる。
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制作部。『ブルーサーマル』ほか複数作品を各制作進行スタッフが担当している【画像クリックでフォトギャラリーへ】
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『ブルーサーマル』の原画などが入ったカット袋。いちばん上には主人公・都留たまきの設定画が置かれている
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『ブルーサーマル』制作進行スタッフのデスク。原作コミックスは必携
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たまきたちの衣装参考となるつなぎ
奥に進むと、通路左手に原画スタッフと演出スタッフが机を並べる作画部のエリアがある。新型コロナウイルス感染症の感染が拡大する現在は、一部スタッフはテレワークを実施中だ。社内に入って作業するスタッフも、席を一つ飛ばしで座るなど、スタジオ内が“密”にならない工夫がなされていた。
『ブルーサーマル』でキャラクターデザイン・総作画監督を務める谷野美穂さんのデスクには「最近のマイブーム」という紅茶缶があるなど、各スタッフが自分流にデスク周りをカスタマイズしているのが印象的だ。
また、作画部エリアの隣には、社外スタッフが使えるデスクもある。『ブルーサーマル』の監督を務める橘正紀さんも、このエリアのデスクを使用中。社内に作業机があることで、スタッフとも密にやり取りをしながら作業を進められるのだという。
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作画部のエリア。谷野美穂さんをはじめとするスタッフが作業中
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「LUPIN THE IIIRD」などの制作を行うスタジオだけあって、作画部にはモデルガンなどが資料として置かれている
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社外スタッフの方々が作業を行えるデスク
作画部エリアのさらに奥は、美術部のエリアだ。美術打合せの際には、このエリアに橘監督や各パートの演出陣が集まって、画面を見ながら打ち合わせが行われる。
背景は「画面の7割を占める」と言われるほどアニメにとって重要な要素であるが、実はアニメ制作会社が社内に美術部を持っていることはあまり多くない。社内に美術部を持つことで密に打ち合わせができることや、発注までのタイムロスを減らし作業時間を長く確保できることも、テレコム・アニメーションフィルムの美術のクオリティの高さに繋がっているのだろう。
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美術部のエリアの様子。取材は夏場に行いました
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『ブルーサーマル』の美しい空を制作中
通路右手側は、作画部の動画スタッフが席を並べている。動画とは、原画スタッフが描いた原画をトレスし、原画と原画の間の動きとなる「中割」と呼ばれる絵を描くセクション。原画や監督・演出・作画監督チェックなどは手描きで作業が行われるが、動画の作業はデジタルで行われる。スキャンしデータ化された原画に動きを付けていく。
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動画スタッフの方々が作業をする様子
動画部の隣には、カット袋やレイアウト用紙、タイムシート、修正用紙が置かれた棚がある。タイムシートとは動きやセリフのタイミングを記したり、確認した人がチェック済みと記入したりする指示書のことだが、実は作品によって少しずつ項目が違うという。『ブルーサーマル』の場合、ほかの作品とは違いグライダー監修なども入るため、スタッフが使いやすいように『ブルーサーマル』仕様のタイムシートが使われているそうだ。
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レイアウト用紙・タイムシートなどがズラリ。さすがアニメ制作会社
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『ブルーサーマル』仕様のタイムシート
アニメ制作現場の雰囲気がお分かりいただけただろうか? スタジオ潜入レポはまだまだ続く。次回は、各セクションにクローズアップして作業や『ブルーサーマル』で発揮されるテレコム・アニメーションフィルムの強み、打ち合わせの様子をお届け!
執筆/後藤悠里奈
連載「第六回:キャラクターデザイン」谷野美穂さんインタビューを読む連載「第五回:スタジオ潜入(3)」美術・総作画監督の作業について知る
連載「第四回:スタジオ潜入(2)」3Dレイアウト作業について知る
連載「第二回:アフレコ」アフレコ現場潜入レポートを読む
連載「第一回:立ち上げ」プロデューサー対談を読む
テレコム・アニメーションフィルムの美術の魅力に迫った記事を読む
アニメ映画『ブルーサーマル』
2022年3月4日(金)全国公開
出演:堀田真由 島﨑信長 榎木淳弥 小松未可子 小野大輔
白石晴香 大地葉 村瀬歩 古川慎 高橋李依 八代拓 河西健吾 寺田農
原作:小沢かな『ブルーサーマル ―青凪大学体育会航空部―』(新潮社バンチコミックス刊)
監督:橘正紀 脚本:橘正紀 高橋ナツコ
アニメーション制作:テレコム・アニメーションフィルム
製作:「ブルーサーマル」製作委員会
配給:東映
(C)2022「ブルーサーマル」製作委員会