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「あにめのたね2021」詳細はコチラ(特集ページ)
2014年度より実施されてきた若手アニメーターの育成事業を、今年度はさらに拡大し、アニメーション制作の全ての工程に関わる人材の育成をめざして行われた。そのプロジェクトの1つ、「作品制作を通じた技術継承プログラム」を通して、制作受託先として選ばれた4社が短編アニメーションを制作した。
『ハチミツスーサイドマシーン』を制作したウサギ王株式会社は、2018年度「あにめたまご」に次いで2度目の事業参加となる。
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今回は、どのような課題意識で本事業に取り組んだのか、うもとゆーじ氏(監督)と須田紗織氏に(プロデューサー)にうかがった。
[取材・文=杉本穂高]
スタッフの2Dのセンスを活かす機会が欲しかった
――御社が「あにめのたね」に応募した動機は何だったのでしょうか。
うもと:弊社は、2020年前半はNHKで放送された『かいじゅうステップ』をつくっていたんですが、その年の後半はスケジュールが空いていたんです。そんな時に「あにめのたね」の募集を見つけました。
2018年度の育成事業「あにめたまご2018」にも参加していたので、どんな内容なのか、どんなメリットがあるのはわかっていたので応募しました。
企画書に育成内容についてはしっかり書いて、どんな作品を作るのかは後から考えました。
弊社は3Dの会社ですが、美大などで2Dアニメーションを学んだスタッフも多くて、毎年卒業制作のセレクションに選ばれるくらい技術を持った人も多い。ですが、そういうスタッフの作画能力が伸び止まってしまうのが心残りでした。ですので、レジェンドなクリエイターをお呼びしてレクチャーしてもらえる機会が欲しかったんです。
内容については、僕が好きなスタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』をオマージュしつつ、日本に実在した事件をモチーフにつくろうとしました。
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もちろん、育成を意識した内容にもしていて、例えば、コンテを切るときも「足を切って楽をしない」とか「日常芝居や走る芝居を重視する」など心がけました。前回参加した「あにめたまご2018」でも課題のひとつだった食卓シーンも入れています。
――新型コロナウイルスの影響もあり、制作進行の管理という点で前回と比べていかがでしたか。
うもと:スケジュールはかなりタイトでした。前回は9月から制作を始めましたが、今回は制作開始が11月で、アニメーション作業に入ったのが12月、コンポジット作業には1ヶ月しかなかったです。
須田:3Dの場合、尺が変わっても、プリプロ段階でかかる時間はあまり変わらないので、ちょっと辛かったですね。
――今回の課題として、少人数での制作とコストの最適化というテーマを掲げておられます。コロナ禍のタイトなスケジュールの中、スタッフに無理な労働を強いることなく完成できたのでしょうか。
うもと:はい。今回の4社の中で弊社がスタッフは一番少ないと思います。3Dアニメーターが7人で、実質3ヶ月の制作期間、“デスマーチ”もなかったですし、多少土日に半日出社してもらいましたが、その代休もきちんと取っています。
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――スタッフの過重労働もなく、クオリティを犠牲にすることなく作品が完成できたのですね。
うもと:アニメーションスタジオによっては、「何を犠牲にしてもクオリティが命!」というところもあるかと思いますが、ウサギ王は、「しっかり70点以上を毎回とる、がんばれそうなら80点を目指す」というポリシーです。元々上手いスタッフが揃っていることもあり、今回は80点近くいけたという実感があります。
今回大変だったのは、Blenderという新しいツールの使い方で手間取ったことです。これが普段使っている3ds Maxだったらもう1ヶ月早く終わっていたと思います。
――今回、スタッフと育成指導の方とのやり取りはリモートだったようですが、実際にやってみていかがでしたか。
うもと:技術的な面よりも、心理的な面でコミュニケーションの難しさがありましたね。互いに関係性がない状態からのスタートでしたから。何度か対面で会える機会があればまた違ったかもしれないです。
ただ、メリットもありました。この育成事業では外部の指導者を探す必要がありますけど、3Dの会社にとって、2Dに詳しい方を見つけてお願いすること自体ハードルが高い。
しかも弊社は相模大野にあるので、そこまで通えないという話になりがちで、「あにめたまご 2018」のときは、わざわざ下北沢に部屋を借りて、そこで作画の指導をしてもらったんです。今回はリモートだったので、コスト面では助かりました。
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指導側の中堅スタッフが一番成長した
――アニメーターには2Dアニメーションを学んでいた人が多いという話がありましたが、その2Dのセンスが3Dで発揮されたシーンなどはありましたか。
うもと:ありました。2Dと3Dは制作工程が違いますけど、カットの中でどういうプランで動かすかは、個人のセンスに委ねられます。みんな演技プランをしっかり作っていて、それは2Dで培ったものだと思います。
参考動画を実写で作ったりもしていたんですが、それも全部若手が率先してやっていました。楽しそうで良いなあと思いながら眺めていました(笑)。
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須田:普段の仕事では、担当したカットを他の人に引き継いで渡すこともありますが、今回はスタッフが担当カットを最後まで面倒見ることができてよかったです。
また、前回の「あにめたまご」に参加したスタッフが中堅どころとなって、今回初参加のスタッフをマンツーマンで指導できたのも大きいですね。
――今回リードアニメーターで参加された方は、前回若手アニメーターとして参加されていましたね。
うもと:そうなんです。今回一番伸びたのはリードアニメーターだと思います。指導する立場になって、このプロジェクトに対する責任をすごく感じていたようで、新人よりも中堅の方が伸びたかもしれません。
――今回の事業ではBlenderを使ったとのことですが、御社としても初めてだったのですね。
須田:全員初めてでした。元々使ってみたいと思っていたんですが、普段の作品づくりで使う機会もなかったんです。今回はせっかくなので、みんなで勉強しながらやってみようと決めました。
――シンポジウムではわりと癖のあるツールだとお話されていましたね。
うもと:以前より格段に良くなってますけどね。バージョン2.7くらいまでは、基本的なPC操作が逆になっているようなもので、例えば、どんなソフトを使っても左右のクリックはだいたい同じ機能ですよね。それが真逆になっているような感じでした。
しかし、2.8以降は突然それが直ったので、今みんながBlenderに注目しているのはそれが大きいんでしょうね。
――実際に使用してみて、人材育成に適したツールと言えそうでしょうか。
うもと:インタラクティブ性があるのがいいと思います。僕は、大学でアニメーションの講師もしているのですが、どのソフトで教えるか大学に聞かれたときも、Blenderを推薦しました。無料で使えるので学校側としてもコストがかからないですし、無料で使えるのは学生期間だけのAutodeskと違って、Blenderなら卒業してもそのまま無料で使えますから。
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――Blenderは無料で使えるということで、コスト面でも大きなメリットでしょうか?
うもと:ええ。弊社もこないだ、3ds Maxのライセンス更新をしましたけど、
年間で数百万円かかりますからね。これでも昔に比べれば安くなっていますが、一人スタッフを雇えるくらいの金額ですから大きいですよね。
――若手のアニメーターの方々から、Blenderの使い勝手についてどういう意見がありましたか?
うもと:いくつかの点で古いところがあって、例えばタブを開いて行ったり来たりしないといけなかったりとか、それがストレスになったみたいです。
良い点は、以前のデータを保持したまま、アニメーションデータを調整できることです。テイク1とテイク2を作った場合、どこを変更したのかがすぐにわかるのは好評でした。本当に一長一短です。
須田:でも、全体的には、やはり3ds Maxの使い勝手にはまだ劣る印象でした。
制作データをオープンにする理由
――ウサギ王さんは透明性を掲げて、今回の事業のデータを全て開示する予定とのことですが、改めてその意図をお聞かせいただけますか。
うもと:弊社が「あにめたまご2018」に参加したときも、別の年に参加した友人の会社も、毎年どの会社もいろいろな失敗があるんですよね。成功から学べることもあると思いますし、育成という点では失敗を見せるのも大事だと思うんです。
今回の4社もそれぞれ新しいことに挑戦していて、成功したことも失敗したこともあるでしょう。データを見てもらえば、同業者ならそれがわかって、学びになると思いました。
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――確かに、失敗の情報はあまり表に出ませんから、そこから学べる機会は貴重ですね。
うもと:おっしゃるとおりです。まあ「失敗例です」と開示するわけではなく、フラットにデータを出して、見る人が判断してくれればいいと思っています。
それに、ウェブの3Dコミュニティは、初音ミク以降、データを開示して使ってもらうという流れがあります。著作権は放棄しないけど、データは抱え込むよりオープンにして役立ててもらうのがいいはずです。
須田:公開データを紐解いてもらって、誰かがまたそこから面白いものを考えてくれるかもと思っています。
うもと:基本的に出せるデータは全部出そうと思います。整理しないとグチャグチャで見づらいので、今公開に向けて準備中です。僕は3Dの教則本や、メイキング記事も書いていますから、一般の方が読んでも面白いものに仕立てたいと思っています。
――最後になりますが、今回オリジナル作品に挑戦できた意義をどのように捉えていらっしゃいますか。
うもと:ウサギ王は作家性を重視してスタッフを採用してきましたし、僕も昔、個人CGアニメーションのレーベルを立ち上げたりしていたこともあるので、オリジナル作品をずっと作りたいと思っていました。
小さいスタジオにとってそういう機会はなかなかありませんので、そういう意味でもこういう事業があるのは本当にありがたいですね。
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