
『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』キービジュアル(C)暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会
主人公ヴァイオレット・エヴァーガーデン(CV.石川由依)の職業は、手紙を代筆する“自動手記人形(ドール)”。戦争が終わったばかりの世界で人々の想いを文字に起こし、手紙として運んでいく。
優秀なドールとして指名が絶えないヴァイオレットだが、最初は短い手紙すら書けなかった。
TVシリーズ全13話を通して描かれたヴァイオレットの成長を、手紙の内容に注目しながら振り返ってみよう。
■軍人から自動手記人形へ

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』ビジュアルカット(C)暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会
TVシリーズの序盤では、ヴァイオレットが自動手記人形になるまでの過程が描かれる。
ヴァイオレットは幼いころから軍の道具として感情を持たずに生きてきた。しかし、戦争で両腕と上官のギルベルト少佐(CV.浪川大輔)を失い、生活が一変。

ホッジンズ(CV.子安武人)(C)暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会
元陸軍中佐のホッジンズ(CV.子安武人)が立ち上げたC.H郵便社で配達員として働くことになり、偶然目にした自動手記人形の仕事に興味を抱く。
理由はギルベルト少佐が残した言葉と同じ「愛してる」を聞いたから。
もし自動手記人形になれば、「愛してる」の意味を知ることができるかもしれない。ヴァイオレットは初めて自分の意志で人生を選び、自動手記人形を志す。
第2話には、ヴァイオレットが初めて手紙を代筆するシーンがある。依頼人の女性は、交際を申し込んできた男性に対して返事を送りたいという。
しかし、軽々しく喜んで簡単な女だと思われたくないため、男性の誠意を試すような手紙をオーダー。
するとヴァイオレットは依頼人の口にした言葉をそのまま手紙にしてしまう。
「わたくしには現在好意はありません。なおかつ、貴殿の誠意も愛情も不足しています」と、堅苦しく直接的な手紙を出し、依頼人を悲しませてしまった。
■言葉の中に秘められた想いを書く

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』ビジュアルカット(C)暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会
“よきドール”として手紙をどう書くべきか。ヴァイオレットは数々の代筆を通して学んでいく。
第3話で自動手記人形育成学校に通うことになったヴァイオレット。手紙を書く授業で、ペアになったルクリア(CV.田所あずさ)の手紙を代筆する。
言いたいことがまとまらず、迷いながらも両親への感謝を口にしたルクリアだが、ヴァイオレットはまたも言葉をそのまま要約してしまった。
「久々の手紙ですが、伝達事項はありません」と報告書のような文章を書いたヴァイオレットに、教官はこう告げる。
「よきドールとは、人が話している言葉の中から、伝えたい本当の心をすくいあげる」のだと。
その後、ルクリアが唯一の肉親である兄に対して素直な気持ちを口にできないことを知ったヴァイオレット。
両親を戦争から守れなかったと悔やむ元軍人の兄に、「お兄ちゃん、生きていてくれて嬉しい。ありがとう」と短い手紙を送る。
それはヴァイオレットが初めて言葉に秘められた想いをすくいあげて書き上げた手紙だった。
第4話から第7話では、依頼人のもとに出向いて手紙を代筆する。手紙であれば直接伝えられない気持ちも届けられるのだと気づいたヴァイオレットは、自動手記人形の仕事に誇りを持つように。
依頼人の心情に共感し涙を流す場面もあり、人間らしさが垣間見えるようになった。
■手紙にできることとは

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』場面カット(C)暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会
自動手記人形として実績を上げ始めたヴァイオレットだが、戦争中に多くの人の命を奪った事実が消えたわけではない。
第8話と第9話では、自分には手紙を書く資格がないと悩み、それでも自動手記人形として生きることを選んでいく。
第10話と第11話では依頼人と接することで、手紙は時間を超えて想いを伝えられる手段だと知る。
病気の母親が未来の娘に宛てた手紙や、瀕死の兵士が家族や幼馴染に届けたい手紙を代筆したヴァイオレット。「お母さんはいつもアンのこと、愛してるわ。」など、温かさが伝わる文章も書けるようになった。
しかしどちらの依頼人も、代筆後そう経たないうちに命を落としてしまう。
自分ができることの少なさを感じたヴァイオレットは、やるせなさそうに涙を流した。
■ギルベルト少佐に伝えたい想い

ギルベルト少佐(C)暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会
多くの手紙を代筆してきたヴァイオレットだが、いまだに書けないものがあった。ギルベルト少佐への想いである。
第12話と第13話では和平反対派がくわだてた陰謀に巻き込まれるヴァイオレット。

カトレア(C)暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会
和平調印式へと向かう上司のカトレア(CV.遠藤綾)たちを守ろうと、列車の護衛に協力しようとする。
しかし、ギルベルト少佐の兄から「今も命令が欲しいだけの道具なんだな」とあしらわれてしまった。
悩みながらも自分の意志で「誰も殺さずに窮地を切り抜ける」と決めたヴァイオレットは、和平反対派が設置した爆弾を命がけで撤去し、列車を守り切る。
調印式後、飛行機で空から手紙を届ける航空祭が近づき、郵便社は代筆の繁忙期を迎えた。
第2話の代筆と似たシチュエーションで、ヴァイオレットの対応に変化が見られるシーンがある。
戦争で亡くした息子に宛てた手紙を代筆してほしいとやってきた依頼人。
「もう息子は帰ってこないのに」と自嘲気味に口にすると、ヴァイオレットは「わかります」と共感する。
そして「俺たちのところに生まれてきてくれてありがとう」と依頼人が本当に伝えたい想いを手紙にした。
自分も航空祭に向け、ギルベルト少佐に宛てた手紙を書こうとするヴァイオレット。しかし伝えたい言葉が思いつかず、〆切ぎりぎりまで悩んでしまう。
そんな中、ギルベルト少佐の母が口にした「あの子は生きてる、心の中で。だから決して忘れない。だって今も、愛しているんだもの」という言葉に心を動かされ手紙を書き始める。

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』場面カット(C)暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会
少佐の気持ちが最初は理解できなかったこと、代筆を通して人の気持ちがわかるようになったこと、今もどこかで生きていると信じていることなどを書き、最後をこう締めくくった。
「また会えたらこう伝えたいのです。私は今、『愛してる』も少しはわかるのです」と。
自動手記人形を志した目的である「愛してる」の意味を知り始めたヴァイオレット。感情のこもった手紙の文面からも、成長が感じ取れるはずだ。
■劇場版の手紙に託す想いとは
人の心を知り、想いを手紙にできるようになったヴァイオレット。劇場版では、少年・ユリスから依頼を受けることになる。
さらに予告映像では、ギルベルト少佐のことを忘れるように忠告されるシーンが。しかしヴァイオレットは「忘れることは、できません」とまっすぐ答え、自分なりの選択をする。
ヴァイオレットはどんな想いを手紙に託したのか。その答えは映画館で確かめてほしい。
(C)暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会