「好き」が一番の武器になる。若きトップアニメーター・矢野茜が歩んだ我が道【インタビュー】 3ページ目 | アニメ!アニメ!

「好き」が一番の武器になる。若きトップアニメーター・矢野茜が歩んだ我が道【インタビュー】

30歳以下でプロフェッショナルとして活躍するUNDER30世代に、同年代のアニメ!アニメ!編集部スタッフがインタビュー。就職後わずか3年、若干25歳という若さで、「総作画監督」「キャラクターデザイン」に抜擢されたアニメーター・矢野茜さんに仕事への向き合い方を聞いた。

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スタッフ最年少で総作画監督に抜擢


順調にキャリアを積んでいった矢野さんにさらなるステップアップの機会が訪れる。
先輩アニメーターから誘われた新作アニメのキャラクターデザインコンペに勢いのまま参加し、『ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った?』( 以下『ネトゲ』)のキャラクターデザインと総作画監督に抜擢されたのだ。

制作の現場におけるトップである監督の意向を汲み取りつつ、作画をまとめるのが総作画監督の役目。制作発表などの場で監督やキャラクターデザイン担当とともにメインスタッフとして華々しく紹介される。

アニメーターは実力主義の社会だが、それでも作画スタッフの中で最年少の22歳で抜擢されたという話は異例と言える。

『ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った?』のヒロイン・玉置 亜子。原作:聴猫芝居(電撃文庫刊)/原作イラスト:Hisasi
「コンペでは、ひたすら自分が良いと思うものを描きました。キャリアがまだ浅く、画力も未熟かもしれないけれど『かわいければいいんだ!』と、ただその一点でした」

『ネトゲ』は、多くの美少女キャラクターが活躍するテレビアニメである。
そのため、女性キャラクターを描きたいと思い、つねにその道を追求していた矢野さんにとっては、まさに得意分野そのもの。日頃無意識に観察していたことが、画力の向上につながっていたのだ。

総作画監督の仕事には、若さゆえのプレッシャーと葛藤もあった。

矢野茜矢野茜
「作画スタッフの中では最年少でしたので、修正指示を書き込む時は、多少のやりづらさがありました」

「上がってくる絵のほぼ全てが私よりキャリアがある人たちのもので、『私より上手だなぁ』と思うこともありました。でも私がアニメーターの作業のもととなる設定画を描かせてもらっているので、『キャラクターを一番【らしく】描けるのは私なんだ』という自負を持って修正指示を入れさせて頂きました」

キャラクターの細かい芝居やニュアンスの難しい表情などは、監督にも確認を取りながら修正を進めていったという。

アニメーターと妥協なくコミュニケーションを重ねたことが功を奏し、ヒロインたちの可愛さあふれた作画でアニメは好評を呼んだ。

ウエイトレス時代は人と接することが怖かったという矢野さんは、好きなことを追求する中で社会生活にも慣れ、いつの間にかスタッフに遠慮せず指示を出せるまで成長していた。

▲矢野さんがキャラクターデザインと総作画監督を担当した代表作のひとつ『りゅうおうのおしごと!』。原作:白鳥士郎(GA文庫刊)/キャラクター原案:しらび
夢をかなえた彼女は未来を見つめ、こう話す。

「私自身は死ぬまで現場で絵を描き続けたいですが、他にできることがあるとすれば、こういった取材を通してアニメーターというお仕事があることをお伝えしたいです。

私はたまたまスタッフのクレジットに興味を持ち、このお仕事の存在を知りましたが、まだまだ知らずに絵を描くお仕事を諦めている方がいらっしゃるかもしれませんから」

矢野さんはやりたいことが見つけられない人は好きなことに対して「『変態』になってほしい」と独特に表現する。

「そうであればあるほど探求心が強まり、吸収したことが自分の武器になると思います。私の場合はそれが『女性の身体』でした」

▲『りゅうおうのおしごと!』の宣伝などではコスプレにもチャレンジした。
現在、全世界規模で猛威を振るう新型コロナウィルス感染症は現場にも影響が出ているという。

分業を基本としたアニメ制作においては、スタッフ間のコミュニケーションが大切だ。
しかし現在はメールやチャットベースでのやり取りがメインになり、さらに第三者を介してのコミュニケーションになることも多い。

「直接会えない人には電話をつないでもらうなどしています。やっぱり自分の言葉で直接お話することが大事だと思いますから。

直接のコミュニケーションから生まれるアイデアや『みんなでこの作品をつくっているんだ!』という結束が作品作りに活きていくと思います。また以前のような制作環境に早く戻れることを願っています」

そう語る矢野さんの目には社会への恐れは完全に消えていた。仕事を通して成長し、輝きをまとった女性の姿がそこにあった。

▲小学生から中学生の頃に描いたというイラスト。
最後に「あなたにとって仕事とは?」という問いを矢野さんに投げかけた。

「自分のこれからの可能性を探っていけるものでしょうか。

今の仕事に出会うまでは自分に何ができるのか分かりませんでした。でもアニメーターになって色々な作品に関わる中で、自分にはこういう絵も描けるし、こういう表現もできるんだと知ることができました。

知らなかった自分に出会うことで、『自分はこういうもの』という固定概念をアップデートできる、それが私にとっての仕事です」

矢野茜▲現在は独立し、フリーランスという立場で様々な依頼をこなしている矢野さん。これまでは可愛い女の子を多く描いてきたが、今後は「ハードボイルドでカッコいい男性キャラクターも描いてみたい」と語る。
【プロフィール】
矢野 茜(やの あかね)/1992年2月24日生まれ。千葉県出身。魚座。フリーランスのアニメーター・イラストレーター。
東京アニメーター専門学校を卒業後、アニメ制作会社「feel.(フィール)」でプロデビュー。2014年放送の『グリザイアの果実』で作画監督、2016年放送の『ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った?』ではキャラクターデザインと総作画監督を手がける。
現在は企画進行中のTVアニメ『弱キャラ友崎くん』にてキャラクターデザインと総作画監督を担当。

[取材=前田久、沖本茂義/文=気賀沢昌志/撮影=小原聡太]
当記事は、アニメ!アニメ!とLINEとの"U30職業シリーズ"共同企画です。
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《取材=前田久、沖本茂義/文=気賀沢昌志》

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