■リアルバンドのやり取りでアニメの展開が決まった!? モーションキャプチャー撮影秘話
――リアルライブで活動されてきた伊藤さん、小笠原さんがそのまま出演されていますが、リアルライブを体験されたおふたりだからこそアニメに活きてきた部分はありますか?
錦織監督: 3DCGはモーションキャプチャーを使っているのですが、それも二人はアクターは使わず、キャラクターを演じるキャスト本人に演じてもらっています。
なので、ライブシーンはとくに活きていると思いますね。
モーションキャプチャーでいうと、8話で蓮と那由多が「STARTING OVER」を一緒に歌うシーンがあるのですが、そのときの撮影現場が印象的でした。
仁くんがパフォーマンスについて「ああしよう、こうしよう」ってアイデアを出していて、その時に今まで思っていた仁くんや那由多の印象を超えるものがあったんです。
さらに、それに対して伊藤くんが「じゃあこうしよう!」ってどんどん提案で返しているのを見て、そこでこれまでの蓮の柔らかいイメージとは別の印象も受け取りました。
そんなふたりのやり取りを見て「蓮と那由多は正反対の存在だけれども、芯の部分で共鳴していていつか同じところに行き着くかもしれない」というこの先のビジョンも見えた気がしました。
――そのほか錦織監督がリアルバンドのやりとり、雰囲気などをアニメに投影した点はありますか?
錦織監督: GYROAXIAのボイスドラマがあって、収録前にスタッフとキャストみんなで「どういう風にやろうか」と話をしたのですが、仁くんが他のメンバーに「こういうふうにやろうぜ!」って率先して声をかけたり、円陣を組んだりしているのを見て、みんなをまとめようとする姿勢がすごく印象的だったんです。
また、バンドの活動を見ていると、他のメンバーも仁くんに負けず劣らず主張している。
同じぐらい意見を主張することで出来上がっているバンドだということが見てわかったので、その温度感はアニメにもフィードバックしています。
GYROAXIAは、那由多が頂点にいて、他のメンバーが従っているというバンド像があったのですが、完全に従っているわけではないというところですね。
――伊藤さんと小笠原さんは、モーションキャプチャーの撮影にはどんな意識で臨んでいましたか?
伊藤:基本的なことかもしれませんが、どこで歌っているか、何を思って歌っているのかなどそういう状況をイメージしながら演じていました。
あとはその楽曲に合わせた動きを入れようとしていましたね。
「ゴールライン」だったら横に腕を伸ばしたり、「星がはじまる」は運命を歌っているので前に手を差し伸べたりとか。
小笠原:8話の「STARTING OVER」は、最初、伊藤くんとふたりでフリを決めていたんですよ。
マイクを持つ手を逆にしてシンメトリーにしてみたり、沈み込みを逆にしてみたり。色々やってみたんですけど……動きが小賢しく見えてしまったので最終的に全部やめました(笑)。
「フリとかなしで、今からお互い叩き潰すつもりでやろう!」と言ってやったテイクがオンエアでは使われていました。
実際、それがしっくり来てるんだよね。気持ちのまま演じたテイクが一番出来が良かったことがシンプルに嬉しかったです。
伊藤:あれビックリしたよね! 何も考えずにやったパフォーマンスなのに「こんな動きしたっけ!?」という面白い動きをしていたし、一番しっくりきていました。
錦織監督:演奏が終わった後にふたりがハァハァ息を切らしているのを見て、「カメラ止めないで!」と回し続けてもらいました。それも8話では使っています。
あれこそモーションキャプチャーの醍醐味でしたね。
小笠原:その一方で、他のArgonavisのメンバーに本当に申し訳ないことをしたと思うことがあって……僕たちが「もう一回」を何度も繰り返すと、それに全員が付き合ってくれたんですよ。
終わった後にヘルメット外したら、全員汗でビシャビシャで(笑)。「何度も付き合わせてごめんね」と思いました。
――ちなみに、リアルライブでのパフォーマンスの動きと、モーションキャプチャーの動きに違いはありますか?
伊藤:違いは出さないように意識していました。リアルで見せたのをアニメでも見せたいし、その逆もしかりです。
そこは意識して揃えました。寄せる、という意識ではなく、一体化するという。
2019年7月20日開催「BanG Dream! Argonavis 1.5th LIVE」
Photo:髙橋定敬
小笠原:リアルライブを行ったりと、自分たちが3次元でキャラを担う要素が多いコンテンツですしね。
キャラクター先行というより、自分たちが行った動きやパフォーマンスがキャラクターにも反映されてほしい、一体化してほしい……という意識は大切にしていました。
――キャラクターを演じる伊藤さん、小笠原さんご自身にとっても互いの印象は変化していると思いますが、当時はどんな印象を持っていましたか?
伊藤:僕が初めて仁くんの歌声を聴いた時、「なんだこの歌声は!」と衝撃を受けました。自分と違う歌い方、表現方法に驚きや憧れの感情を抱いてしまったので、蓮を演じるにあたってもその気持ちは反映されていますね。
2019年12月5日開催『BanG Dream! Argonavis 2nd LIVE 「VOICE -星空の下の約束-」』
カメラマン:西槇太一
小笠原:歌声や表現の仕方がまったく違うと思ったのは、僕も同じでした。
オーディションの話などもまったくなく、いち観客としてARGONAVISプロジェクトの活動をYouTubeなどで観ていた頃、初めて聴いた「ゴールライン」に猛烈な衝撃を受けたんです。
自分がその場に立っていない悔しさや、同じステージで競いたいという気持ちが湧いてきました。関わる前から実は対抗心があったのですが、まさかライバルバンドとして参加できるようになるとは思ってもいませんでした(笑)。
なので、那由多の蓮に対する心情はすごくわかるんです。伊藤くんの歌声を聴いて、自分にはまだこの表現が出せないと悔しい気持ちになったり、だからと言って自分の歌に自信がないわけじゃない……。
そういった部分が、期せずしてキャラクターとリンクしていった感じです。
――以前、的場航海役・前田誠二さんと里塚賢汰役・橋本真一さんにもインタビューさせていただきました。その時、リアルバンドの雰囲気を聞くと、Argonavisは「伊藤くんやギターの日向大輔さんに、色々とアドバイスをもらいながらやっている」。GYROAXIAは「仁がフィードバックを毎回してくれるので、そこに従って演奏を変えたりしています」とおしゃっていました。リアルバンド練習において、自身が演じるキャラクター性は意識されているのでしょうか?
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伊藤:正直、練習しているときはそんなに意識していないです。
以前、日向くんに「ボーカルはワガママでいてよ」と言われたことがあったんです。
それをきっかけに、相手を気遣って言わないのは辞めようと思いました。そこで遠慮してもバンドのためになりませんからね。
だからこそ、5人の中で一番僕が努力していないといけないし、一番周りを見ていなきゃいけない。
一方でときには「あえて見ない」ことも必要だったりするので難しいところですが、それが自分の役割だと思っています。
小笠原:那由多は、圧倒的実力を持つ絶対的王者という設定ですが、僕自身は音楽初心者です。
「今から音楽の勉強をした方が良いのかな」と考えたこともありましたが、オーディションで選んでくださった方々が、僕の何を評価してくれたんだろうと考えたときに、音楽や歌に対する“センス”の部分を重視してくださったんだろと考えました。
なのでそういう付け焼刃の知識をつけるのは辞めました。
バンド練習のときも、専門用語はわかりませんが「この曲はここが一番気持ち良いところだからもっとアピールしよう」とか「ここが一番盛り上がる場所だからもっと強く」みたいに、自分が感じた感覚を大事にしてメンバーに伝えています。
“指揮者”のように、体全体で音楽にノリながら、身振り手振りで言いたいことを伝えています。
それでも伝わらないときは、音楽経験のある宮内告典くん(界川深幸役)や秋谷啓斗くん(曙涼役)が「〇〇って感じね!」とうまく言語化してくれてまとめてくれます。
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