■世界と闘うためにはクリエーターの総力戦を
――『ジビエート』は、多彩な要素が織り込められていますが、世界観やストーリーはどのように構築していったのでしょうか?
青木:実はまず最初に決めたのはタイトルです。濁点がついていて、もじった響のあるものが『ジビエート』という言葉でした。そこからキャラクターデザインや世界観、ストーリー、音楽をふくめマルチタスクで進めていきました。
――スタッフはどのように決めていったのでしょうか?
青木:我々がアニメで世界と戦うならば、クリエーターの総力戦で勝負しようと。
まずはエースを決めなければならない。そこで、エースのポジションとして世界で評価を受けておられる天野喜孝さんに作品の根幹となる部分を担ってもらいました。
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天野さんと言えば『ファイナルファンタジー』ですが、よく「『ファイナルファンタジー』みたいな絵をお願いします」と言われることが多いそうなんです。でも同じ手法の繰り返しでは、それを超えるものは生み出せません。違うものを表現したかった。
また、クリエイティブな面での裏キャッチコピーがあったらいいなあと思ったんです。で、芹沢直樹さんとは友だちだったので、声をかけてみたら以前から天野さんのファンだったようで。結果的に出来た裏キャッチコピーが“『ファイナルファンタジー』対『バイオハザード』”でした。ちょうど『バイオハザード』のコミカライズ版(『バイオハザード ~マルハワデザイア~』)を描いていたので。
タイミングよく参加してもらい実現できました。
――テーマに「和」を選んだのは?
青木:『ファイナルファンタジー』は、中世ヨーロッパの雰囲気に未来的な要素が組み合わさった印象があるので、それらのどれとも違うものを考えてみて、「和」で行きたいなと。
さらに、自分が日本人なので作りやすいだろうと思いました。自分の精神が投影できる主人公が一番うまく描けるに決まっていますから。
そこからよりテーマを深めていって「武士道」を描いてくことに決めました。
――人間が怪物化する病気により荒廃した2030年の日本が舞台です。世界観づくりはどのように?
青木:まず増殖する怪物と戦うならば世界は荒廃しているだろうと。人口的に日本が先進国としての体裁を保てているピークが2020年前後と仮定し、そこから10年後に短期間で荒廃していった世界観を設定しました。そこに死ぬことが身近な世界で生きてきたサムライがタイムスリップしてくる。
「武士道」を体現した主人公がどうピンチを解決していくのか……そうやって物語を深めていきました。
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――敵となるクリーチャーの「ジビエ」はどのようにつくっていったのでしょう?
青木:まず怪物にしても、ゾンビは「人間を食べる」描写があるので、レーティングによって放送できる国が限られてしまうしオリジナリティが出しにくい。だからやめようと思いました。
そこで、人間の遺伝子の中には進化の過程でいろんな動物の情報も組み込まれており、「ジビエウイルス」に感染すると人が動物じみた怪物に変わってしまい、同種を増やしたい動物的な欲、増殖欲に突き動かされて人を襲う……という設定を考えました。
芹沢さんのデザインは予想以上のものがあがってきました。ディテールも凝って描かれていて「これはアニメで動かせるのかな?」というほどでしたが、参加しているアニメーターたちが頑張って再現してくれました。
――ストーリーも現在はまだ大きく明かされていませんが、どんな物語なのでしょう?
青木:直球で言うとジビエートは「悲しい話」です。近年、ライトなアニメファン層をターゲットにした作品では、生死を深く描くことが避けられがちで、実際そうした作品は受け手にストレスをかけずに世界的にも受け入れられやすい。
でも今回は死を真正面から描くことで、それでも「生きる」ことの尊さを描き出したかったんです。
「悲しい話」は、受け手にとってストレスは大きいですが、全人類が共感できるはずの「生死」がテーマなので、グローバルに共感してもらえると考えました。
――物語とキャラクターはどのように作っていったのでしょうか?
青木:最初に意識したのはバディ・ムービーです。主人公のサムライ・神崎千水とニンジャの真田兼六の2人が、キャスリーンとヨシナガ博士という現代の人たちと出会う。
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キャラクターに関しては、人種も含めてバラエティに富んだものにしたいという思いで配置しています。
個性も全然違うので、それぞれお気に入りのキャラを見つけてもらいたいですね。
――アクションシーンにも期待できそうです。
青木:アクション全般でいうと、千水と兼六の流れるような連携プレイに他のキャラも含めての流れるような連携プレイに期待して欲しいですし、細かいところでは年配の方がニヤッとするようなシーンが出てくるかもしれないです。ご期待ください。
■オールスターによる総合力で見せる作品づくり
――楽曲面でも豪華メンバーが集結して、オールスターと話題になっていますね。
青木:今回参加いただいている、アーティストのみなさんは、いろんな形で僕と縁のあったお方にお願いしています。
こちらが「こんなことをやりたい」と思った時に、ちょうどそこにいてくれたという感じですね。
LUNA SEAからは、SUGIZOさんと真矢さんが参加してくれたのは、もともとSUGIZOさんと知り合いだったからで「ぜひお願いしたい」とお誘いました。
一方で、演奏を担当している吉田兄弟は活動から20周年になるんですが、彼らにそのムーブメントのプロデューサーを務める存在がいなかったのでそれを僕が手伝うご縁で、『ジビエート』の主題曲をお願いした形です。
今回グローバルに作品を展開してくのであれば、オープニング曲の詞は日本語無しで行きたかったんです。とはいえ、英語でもなく、インストロメンタルにしたいと。そこで、和楽器の三味線がマッチするなとひらめきました。
さらに、吉田兄弟の20周年に華を添える意味で、アクセントが必要だと思ったので、SUGIZOさんにコンポーザーとギタリストとして参加してもらいました
僕とSUGIZOさん、吉田兄弟の弟、吉田健一君の3人でやり取りしながらつくってできたのが「GIBIATE」という楽曲です。素晴らしい出来で、本当に神が宿った曲だと思っています。
SUGIZOさんにはアレンジだけでなく、エンディングの作曲・編曲もお願いしました。
ボーカルは女性シンガーがいいなと思い、「お願いするなら、松田聖子か大黒摩季か」なんて言っていたら、真矢さんが大黒さんと知り合いだったのでLiveに呼んで頂いて一緒に食事をする場を設けてもらえて。
彼女も『ファイナルファンタジー』の大ファンということで話が弾み、作品に参加してもらえました。こうして少しずついろんなものが繋がって出来上がっていったという感じです。
すでに公開されているオープニング、そしてPVでちょっとだけ流れるエンディング楽曲を聴いてもらえれば、『ジビエート』の音楽的な素晴らしさを感じてもらえるはずですし、アニメ本編もそれくらいのものを作っています。
――キャスティングも層が厚いですが、どのように決められていったのでしょうか?
青木:キャラとのイメージだけでなく、それぞれ意図を持ってノーオーディションでキャスティングしました。
主人公の千水を柿原徹也君にしたのは、過去に何作か一緒に仕事をする中で、「これまでとは違う低音ボイスの役も演じてもらいたいな」という思いがあったからです。ファンの皆さんの期待を良い意味で裏切りたかった。
兼六役の東地宏樹さんは、外画の吹き替えで重々しい役を演じることが多かったのですが、それをわざとチャラ男を演じることで違った顔を見せて欲しいと思いました。
その他にも羽佐間道夫さんや、藤井ゆきよさん、池田秀一さん、新たに木村良平君も出演しますが、それぞれの役に意味がありますので、本編で楽しんでいただければと思います。
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