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【プロ直伝】“アニメレビュー”ってどう書けばいいの? 藤津亮太が伝授する、たった1つの心得と3つの技

アニメの感動を文章で伝えるコツや、アニメレビューの書き方をアニメ評論家・藤津亮太さんに聞きました。

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【プロ直伝】“アニメレビュー”ってどう書けばいいの? 藤津亮太が伝授する、たった1つの心得と3つの技
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■感動ポイントを見つける3つのテクニック


――先ほどの藤津さんの例は「改めて見て気付いた」というお話でした。その気づきが得られなかった場合に、圧縮すべき自分の感動ポイントをうまく見つけるテクニックはあるんでしょうか?

藤津:気にするといいポイントはいくつかあります。ここでは、3つ挙げさせてもらいますが、まずは「主人公の変化点を見つける」こと。
稀に例外的に変化しない主人公もいますが、多くの作品において主人公は何がしかの変化をします。主人公の変化はドラマを生み出しますので、そこが感動ポイントである可能性があります。

たとえば『魔法少女まどか☆マギカ』TVシリーズのまどかは、主人公でありながら物語の終盤に至るまでずっと傍観者なんですよ。それが最後の最後に魔法少女になる決断をします。これが変化です。

『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編]叛逆の物語』(C)Magica Quartet / Aniplex・Madoka Movie Project Rebellion
『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編]叛逆の物語』(C)Magica Quartet / Aniplex・Madoka Movie Project Rebellion
では、何故まどかはその決断をしたのか?彼女のマインドに何がどのように変化を与えたのか? というところを見れば変化点が見つかります。
すると、お母さんとの会話の内容や友だちの末路、自分を救ってくれていたほむらの存在などがまどかに影響を与えてきたということが浮かび上がってきますよね。

――それが話のキモだと考えれば、物語全体も「まどかが決断をするまでの話」「ほむらとまどかの関係性が逆転する話」という風に圧縮できそうですね。

藤津:2つ目のテクニックとして「そのキャラクターはどういう価値観を背負っているのかを見つける」という見方もよくしますね。
わかりやすい例をあげると、キッズ向けアニメの主人公は自由・純真・オープンマインドといった価値観を担っている場合が多く、ライバルとして対立するキャラクターはその逆で心が狭かったりずる賢かったり個人主義だったりします。

――ジャンプアニメなんかはその傾向が強そうですね。

藤津:その双方の対立がドラマを生んでいたりするので、キャラクターそのものではなく彼らが担っている価値観に着目すると見えてくるものがあったりします。

――バトルもののアニメでは確かにその傾向がある気がしますが、日常系アニメのように激しい対立がない種類の作品でも、そういった見方は可能でしょうか?

藤津:できる場合もあります。たとえば『ゆるキャン△』では、なでしこたちの部活のグルキャン(集団でのキャンプ)と志摩リンのソロキャン(個人でのキャンプ)という2つの価値観が出てきます。でも、そのふたつが対立している、という話ではありませんね。

――そうですね。両者が対立しててどっちかが正しい、といった話ではありませんね。

『ゆる△キャン』(C)あfろ・芳文社/野外活動サークル
『ゆる△キャン』(C)あfろ・芳文社/野外活動サークル
むしろ、良い風景があったら写真を送り合ったりしていて、違う価値観を持った双方がSNSを介して、離れていてもつながっている点が本作の現代的なところです。
つまり2つの価値観が「対立」ではなく「並行」していることが作品のキモで、キャンプを通じてそれを描いている作品だと捉えられます。

――価値観は対立していなくてもいいんですね。価値観という切り口で作品を見直すことで見えてくるものは確かにたくさんありそうです。

藤津:3つ目のテクニックは、映像面で「キャラクターの立ち位置に注目する」手法もあります。
『リズと青い鳥』の冒頭シーンで説明します。内気なみぞれと快活な希美が音楽室に向かう際、常に希美が前を歩いてみぞれがそれに後からついて行ってるんですが、何度も見ているうちに少し違和感を抱かせる点があることに気づきました。実はあそこで、「キャラクターの位置の逆転」が起きているんです。

『リズと青い鳥』(C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会
『リズと青い鳥』(C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会
具体的に音楽室に着いて扉の鍵を開ける際、みぞれと希美のどっちが部屋の扉を開けたのか、あえて分かりにくく描写されています。
普通に見ていると、ずっと希美が前を歩いているので、希美が開けたように錯覚してしまっていたんですが、映像をよく見ると、鍵を持っているのも扉を開くのも、実は前を歩いていた希美ではなく、みぞれなんです。

――確かに。なんとなく希美が全部リードしていた気がしていました。

藤津:しかも、先を行っていると思っていた希美とみぞれの立ち位置が逆転してしまうというのは、そのままその後の2人の関係を示唆しているんです。
このように、どこか奇妙に思えるシーンには大抵作り手の意図が潜んでいます。その違和感の正体を探ることで、圧縮すべき物語のキモを見つけ出すことが可能な場合があります。

――なるほど。とはいえ、若干難易度が高いテクニックのように感じますね。

藤津:もう少しシンプルに、何か引っかかるものを感じるシーンを何度も見ることで作り手の用意した仕掛けが見えてくる、と言い換えてもいいかもしれません。

■結論は最後に書く。では冒頭には何を書く?


――ここまで、自分の感動ポイントを探すためのアニメの見方についてお話をいただきました。ここからは実際にアニメの文章を書くうえでの工夫やテクニックについて教えていただく思います。具体論になりますが、藤津さんは最初に結論を書きますか? 最後に書きますか?

藤津:ケースバイケースですが、800文字から2000文字くらいの文章であれば結論は最初に書きますね。
何故かというと、作品を知らない人のためにあらすじ的な文章を盛り込む必要があるわけですが、その作品のファンからすればあらすじは既に知っているので退屈なんです。

だから最初に「この記事ではこんな切り口で話をするよ」と冒頭に結論を持ってくることで、その話題になるまで興味を持たせることができるんです。

――冒頭にその文章のキモを書いておけば、書いている方も「何について書いてたんだっけ?」となるのを防げそうですね。

藤津:逆に結論を先に描くことで難しくなるのは、「文章の終わらせ方」です。最初に結論を一度書いてしまっているので、結論に代わる何かを別途書く必要が生じてしまいます。

――同じ話を二度も読まされたくないですものね。で、そういう場合どうすればいいんでしょう……?

藤津:解決策はいろいろあると思いますが、そのひとつとして、冒頭に書くのは結論のひとつ前のことにしておくという方法があります。

――なるほど。「『逆シャア』は奇跡の在り方をリアルに描いた映画だ!」を結論にするなら、冒頭は「『逆シャア』はラストで何を表現したのか?」とかになりそうですね。

藤津:「どうして富野由悠季は『逆シャア』で奇跡を描いたのか?」とかでもいいかもしれませんね。それを冒頭に書き、あらすじや件のラストシーンについて書き、奇跡の描き方の『ナウシカ』との違いやファーストガンダムとの類似点などを挙げ、最後に結論を書く。
そうすれば2000文字程度の楽しく読めるものが書けると思います。

――冒頭に結論のひとつ手前、続いてあらすじ、その次に自分の感動ポイントに関わるキモになるトピック(主人公の変化やキャラクターの立ち位置など)、最後に結論、という構成ですね。きっかけは自分の感動なのに、システマティックで説得力のある文章が書けそうですね!

藤津:もし最後まで書いてみて冒頭の掴みの文が必要なさそうだったら、取ってしまうこともできますしね。


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