生ける伝説のアニメーター・小田部羊一が明かす、高畑勲初監督作「ホルスの大冒険」誕生秘話【レポート】 | アニメ!アニメ!

生ける伝説のアニメーター・小田部羊一が明かす、高畑勲初監督作「ホルスの大冒険」誕生秘話【レポート】

8月4日、ミニシアター・ユジク阿佐ヶ谷にてアニメーターの小田部羊一氏のトークショーが開催された。

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小田部羊一さんトークイベントの模様
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8月4日、ミニシアター・ユジク阿佐ヶ谷にてアニメーターの小田部羊一氏のトークショーが開催された。

今回のトークイベントは、同映画館にて開催されている特集上映「アニメーター・大塚康生に迫る」の一環で上映されている『太陽の王子 ホルスの大冒険(以下ホルス) 』の上映後に行われたもの。


小田部氏は、現在放送中のNHK朝の連続テレビ小説『なつぞら』の主人公・奥原なつのモデルとなった故奥山玲子さんの夫であり、同ドラマにはアニメーション時代考証として参加している。
一方『ホルス』は、高畑勲氏、宮崎駿氏、大塚康生氏など当時の東映動画(現東映アニメーション)の精鋭が参加した歴史に残る名作で、小田部氏も原画として本作に参加した。

日本のアニメーション業界の黎明期が描かれたことで、当時のアニメーション業界について注目度が高まっているなか、今回のトークでは小田部氏がアニメーターを志すきっかけとなった『白蛇伝』から、『ホルス』製作時の苦労話、そして『なつぞら』に関してなど多岐に渡って語られた。

小田部羊一さんトークイベントの模様

小田部氏は、幼い頃から漫画映画が好きだったと言う。終戦後の娯楽が少ない生活の中で漫画映画をすごく楽しみにしていたそうだ。
そして、大学で日本画を学んでいたころに、日本初の長編フルカラー漫画映画『白蛇伝』に出会い、東映動画を志した。


当時、『白蛇伝』を観た時、ディズニーやソ連のアニメーションに比べるとまだまだと学生ながらに感じたそうだが、日本でも本格的なアニメーションが作られたことに希望を感じた。そして、卒業間近になったころ、大学に東映動画から求人が来て、応募したという。

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小田部氏は『ホルス』に参加した経緯についても明かした。当時、東映動画は1年に1本劇場用長編作品を作る体制を基本としていたが、この時は2つの企画が同時に進行しており、『狼少年ケン』で高畑勲氏の実力を知っていた小田部氏は、『ホルス』を選んだそうだ。

『ホルス』の製作は、高畑監督の意向でスタッフ全員から多くのアイデアを募った。キャラクターデザインもアニメーターからの応募制を採用したという。
小田部氏も多くの案を提出したが、宮崎駿氏と奥山玲子さんにはかなわず、「一番多くアイデアを出したのは宮さん(宮崎駿)で奥山はその次にたくさん出していた」そうだ。

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また、キャラクターデザインのみならず、ストーリーに関してもスタッフからアイデアを募り、「スタッフルームの壁にびっしりアイデアが貼られていた」と当時を述懐した。

小田部氏は、主人公ホルスの旅立ちのシーンや婚礼のシーンなどを原画として担当。「本作の苦労した点は?」との質問に対し、群衆シーンが数多くあり、大勢のキャラクターを一度に動かすことに相当に苦労したと答えた。
だが、本作を経験したことで、その後どんな作品でもやれる自信につながったと言い、「キャラクターが動く時、セリフを言う時にどんな気持ちであるのかを考えながら描くことを学び、生命を吹き込むとはどういうことか」を学んだそうだ。アニメーターとしてのターニングポイントとなった作品であると語った。

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また、小田部氏は『なつぞら』にも言及。アニメーション時代考証として同ドラマに参加しているが、その経緯は東映アニメーションの常務からNHKが女性アニメーターを題材にしたドラマを製作するから取材に応じてほしいという電話を受けたことが発端だという。

「時代考証なんて偉そうな役職だと知っていたら受けなかった(笑)」とうそぶく小田部氏だが、鉛筆削りのなかった当時、小刀を使って鉛筆を削っていたことや当時はスチールのテーブルではなく木製のテーブルだったことなど、様々なことをNHKスタッフに伝えた。
それらの助言が美術などに反映されているのを観て感心しているようだ。

また、小田部氏は主人公を演じる広瀬すずを『海街diary(是枝裕和監督)』を観て素晴らしい女優だと感じていたそうで、彼女が演じるなら大丈夫だろうと思ったとのこと。

夫人である奥山さんとの出会いについても振り返った。1961年放送の『安寿と厨子王丸』の製作時、自身の描いた原画をチェックしてもらい、トレース台で奥山さんの絵と重ねた際「自分でもびっくりするくらい狂っていた」ことにショックを受けたそうだ。

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ドラマの感想を聞かれると、「みんなが一丸になっている感じがすごく良く描けている。チェック用に事前にテープを頂いているが、TVでの放送を当日観るのが楽しみなので、あまり観ていない。毎朝2回の放送を両方観ている」そうで、毎朝放送を楽しみにしていると語った。

最後に、『太陽の王子 ホルスの大冒険』は自身にとってどんな作品かと問われ、「僕のアニメーターとしての魂があるとしたら、ここがスタート。当時はヒットしなかったが、こうして今でも上映されるほどたくさんの人が評価してくれて、世界にも知られるようになった。僕にとっての記念すべき作品」と語り、トークイベントを締めくくった。

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■「特集:アニメーター・大塚康生に迫る」
2019年8月3日(土)~8月9日(金)
会場:東京都 ユジク阿佐ヶ谷

<上映作品>
『飄々~拝啓、大塚康生様~』
『白蛇伝(デジタル修復版)』
『太陽の王子 ホルスの大冒険(英語字幕付き)』

<チケット>
一般1,500円 学生1,300円 シニア1,100円 会員1,000円
★毎週木曜サービスデーは1,000円

■『太陽の王子 ホルスの大冒険』 Blu-ray発売中 5,000円+税
初回生産限定「白蛇伝 Blu-ray BOX」 10月9日(水)発売 14,800円+税
販売:東映 発売:東映ビデオ

《杉本穂高》

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