「他人が好きなものをディスらない」でオタク文化はより豊かに。宇垣美里×荻上チキ【インタビュー】 | アニメ!アニメ!

「他人が好きなものをディスらない」でオタク文化はより豊かに。宇垣美里×荻上チキ【インタビュー】

アニメ好きが高じてTV番組でコスプレを披露し話題を集めたアナウンサーの宇垣美里さん、アメコミをはじめとするオタク文化に詳しい荻上チキさんにインタビュー。サブカルチャーに対する理解と今後の展望について語っていただきました。

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かつて異分子的なニュアンスがあった「オタク」は、一般に浸透して広く使われる言葉になりました。アニメやマンガに限らず、いまや誰もが何かしらのオタク要素を持っているのかもしれません。

しかし、まだまだ歴史の浅い言葉である「オタク」。語の価値観・世界観の自由度が高いために、戸惑いや違和感を覚える場面も少なくないように思います。

今回、アニメ好きが高じてTV番組でコスプレを披露し話題を集めたアナウンサーの宇垣美里さん、アメコミをはじめとするオタク文化に詳しい荻上チキさんにインタビュー。
サブカルチャーに対する理解と今後の展望について語っていただきました。

TBSラジオでパーソナリティーを務め、趣味を話題にトークを繰り広げることも多いおふたり。
めまぐるしく変化し続ける現代社会で、私たちは「好き」をどのように表現していけばいいのでしょう。そのヒントを見出す、おふたりの初対談をお楽しみください。
[取材・構成=奥村ひとみ/撮影= HitomiKamata]

■今のオタクは「ガチヲタ」と「ゆるヲタ」を選択できる


荻上チキさん、宇垣美里さん

――まずはおふたりの、現在の趣味につながる原体験を教えていただけますか?

宇垣:私は幼少期に『美少女戦士セーラームーン』を見て育った世代です。今でも大好きな作品で、セーラームーンをモチーフにしたアイテムはつい買ってしまいます(笑)。

宇垣さん愛用の『セーラームーン』コスメ。

宇垣:けれど親はけっこう厳しかったので、『おジャ魔女どれみ』や『アリスSOS』はいいけど、『こち亀(こちら葛飾区亀有公園前派出所)』や『クレヨンしんちゃん』は禁止されていました。
ラジオでも愛をたっぷり語った『コードギアス』は大学生のときに観てハマり、そこからまたアニメの世界に浸かっていった感じです。

荻上さんはどうです?

荻上:僕自身はそこまでオタクだと思っていないのですが、振り返ればサブカルチャーが身近にある環境でしたね。

90年代はネット環境がないわけで、テレビの役割が大きかった。夕方のテレビでは、『ルパン三世』や『シティーハンター』、『キャッツ・アイ』といった今も語り継がれる名作が何気なく見れる環境でした。『魔神英雄伝ワタル』『魔動王グランゾート』『NG騎士ラムネ&40』といったロボットアニメも好きでした。


1995年に放送され大ブームを巻き起こした『新世紀エヴァンゲリオン』もリアルタイムで見ていましたね。ちょうど僕が中学3年生のときだったので、まさに主人公・碇シンジと同じ年頃でした。
小学生の時、『青いブリンク』の後にやっていた『不思議の海のナディア』を楽しんでいたので、同じ監督であるということに喜びを覚えました。

一方、本も好きで、電撃文庫や角川スニーカー文庫の小説なんかも読んでました。

宇垣:はいはい! 私も読んでました。  

荻上:『天空戦記シュラト』や『爆れつハンター』、『ゴクドーくん漫遊記』に『フォーチュンクエスト』とか。「ライトノベル」と呼ばれるようになる前でしたけど、活字にハマる第一歩めになってましたね。

TVで放送されているアニメを受動的に見るだけではなく、アニメショップに通ってノベライズ作品やグッズも買ったりしていました。そういう意味では、オタクとまでは言わないけれど、アニメが好きな文化系ではあったかなと思います。


■自分に合った「オタクのスタイル」を選択できるようになった


――「オタクとまでは言わない」とおっしゃるように、「オタク」と聞いて思い浮かべる典型的なイメージがいくつかあります。リュックサックにポスターを刺して、頭にバンダナを巻いて、といったような……。

荻上:ちょうど秋葉原が電気街から、アニメの街に変わっていくのを実感したのが僕の世代だと思います。
徐々にアニメ文化がオタクカルチャーの中心のようになっていきましたが、その頃のメディアでは「オタク=犯罪予備軍」みたいなイメージもあったし、TVで出てくるオタクは、ネルシャツをタックインして、ウォッシュされまくったジーンズをはいているような人物像でした。
本当は、欲望は多様なんだけど、表現がチープでしたよね。

――そんな、かつては特異なイメージのあった「オタク」が、今では一般的に使われる語になりました。そもそもおふたりは、自身がオタクという認識はありますか?

宇垣:うーん……私は自分を「アニメオタクです」と言うのはおこがましい気がするんです。自称できるほどオタクをできていない、と思っちゃう。


荻上:わかります。「エリート」っていう言葉ぐらい強いイメージがありますよね。

宇垣:そうそう。感覚としては、ただ好きなだけ。

荻上:僕も子どもの頃からアニメやマンガが好きですが、ずっと「ヌルヲタ」程度だと思います。


――ヌルヲタ、ですか。

荻上:2000年代に入った頃から、「2ちゃんねる」ではオタクの細分化が顕著になり、エリート的な「ガチなオタク=ガチヲタ」に対して、ゆるくサブカルチャーが好きな「ヌルヲタ」が生まれました。
両者がサブカル好きなことには変わりないのですが、要は「ガチヲタ」なのか「ヌルヲタ」なのかを、自分で選択できるようになった。

そうやって細分化がどんどん進んで、今ではそれぞれが好きなスタイルのオタクができるようになった気がしています。

宇垣:私の世代では、ゆるいオタクは既に確立したスタイルになっていましたね。だから大人がアニメやマンガが好きでも、特に引け目みたいなものはなくて。

荻上:今はまだ旧来型のステレオタイプなオタク像が残っていても、今後は便宜的にカテゴライズするための言葉として捉えていったほうがいいかもしれませんね。


宇垣:そうですね。近年は「ひとつのものを深く掘り下げる人」「ひとつのことに集中できる人」を指す言葉になっていますよね。
アニメやマンガといったサブカルチャー的なものだけでなく、「園芸オタク」や「コスメオタク」といった言い方もされるようになってきて。

荻上もはやタグ付けみたいなものですよね。人を分類するカテゴリーではなくなりつつある。たくさんある属性のひとつに、「●●オタ要素」があるというような。



→次のページ:“地雷を踏まない”がオタクの礼儀作法に?
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《奥村ひとみ》

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