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「宇宙船サジタリウス」30年越しのアニメ誕生秘話! 最新作も執筆中? イタリア人原作者・ロモリ氏【インタビュー】

1986年より放送が開始され、現在でも、一部ファンに根強い人気を持つアニメ『宇宙船サジタリウス』。日本のファンにとっては、「謎の原作者」であったアンドレア・ロモリ氏に、30年越しのインタビューを試みました。

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「宇宙船サジタリウス」30年越しのアニメ誕生秘話! 最新作も執筆中? イタリア人原作者・ロモリ氏【インタビュー】
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■土星探査プロジェクトに参加


――どのような少年時代を過ごされ、それがサジタリウスに影響を与えていますか?

ロモリ:私の父はそれなりに有名な画家でした。母は観光ガイドとして働き、イタリア語の他にも独・仏・西・英語の5ヶ国語を話せました。家は裕福ではありませんでしたが、私は兄とともに、創造的で幸せな幼少期を過ごしました。

フィレンツェの街角には画家であるロモリ氏の父が描いた壁画がある。

兄と私は紙や画材、糊、粘土、大きくなってからは木材、磁性粘土「プラスチン」、工作キット「メカノ」、鉄道模型などを自由に使って、おもちゃや作品を作りました。画家の父や、絵の上手な兄の存在が、私の芸術的発展の一部を担っていたことは間違いありません。

「ミッキーマウス」のマンガを読んでマンガを描きたいと思い始め、映画『ファンタジア』を見てからはアニメ制作にも憧れました。
特に「ドナルドダック」シリーズのカール・バークスは、洗練された迷いの無い描線、背景、驚異的なキャラクターの性格描写、作品をまとめる総括力など、今なお私の最も好きな作家です。
ジャン・ジロー(メビウス)や『ドラゴンズ・ドリーム』のロジャー・ディーン、エッシャーなどからも影響を受けました。

またミッキーマウスを読みながら、同時にゴーゴリやドストエフスキー、ゲーテ、メルヴィル、ユーゴー、ボルケス、トールキン、ヴァンス、ラブクラフト、スティーブンソン、ロンドン、ディケンズ、レナード・クラーク、キプリング、マッケン、オーウェルなどの古典、SF、冒険、ファンタジーなどあらゆるジャンルの小説を読み、自分の中の文化として昇華しようと心がけました。
読者のみなさんは、私のマンガの中にこれらの名作の痕跡を見つけることができると思います。

――一方で、マンガ家とは別に、科学者として活躍されてきたそうですが、科学者の道に進む原体験はどのようなものでしたか?

ロモリ:少年期から青年期にかけて、父の友人の口径60cmの天体望遠鏡で宇宙を観察したり、顕微鏡で微小な藻類や原生動物を観察・スケッチしたり、さらには化学実験で右手と目にやけどを負ったりと、私は生物学、化学、天文学などに興味を持ちました。

物理学の研究は、この宇宙と私達の知識の限界を私に教えてくれました。実際に私の作品の中にも、こうした研究や経験の全てが反映されています。

フィレンツェ大学物理学部で電子工学を専攻した私は、「エイリアシング」という画像解析手法についての卒業研究を「イタリア物理学会」で発表しましたが、その結果は落胆すべきものでした。私の研究に対する学会の参加者の知識が乏しかったため、まるで理解してもらえず、仲間からも叩かれてしまったのです。私は非常に落胆しました。
しかし、この論文に記載されているものと同様の画像解析手法が、最近ニュースで話題になった「ブラックホールの撮影」の際に使用されたらしいですね。

――まるでアニメの『宇宙船サジタリウス』の第1話のアン教授のエピソードのような……その後、どういうきっかけで科学者とマンガ家の二足のわらじを履くようになったのですか?

ロモリ:卒業後、フィレンツェの光学分野の大手企業に就職し、以降、光学設計プログラミングの最前線で働き続けましたが、入社から2年くらい、光学計算に明け暮れた私はまるで爆発寸前の「圧力鍋」のようになってしまいました。

そんな時、私の「圧抜きのバルブ」になってくれたのが「マンガ」を描くことでした。そうして描き上げたのが、私の最初の読み切りSF『Avventura su Efeso (エフェストでの冒険)』でした。この本は1976年に出版社から発売されましたが、印刷も紙質もよいものではありませんでした。その上、その出版社が無くなってしまったので、今となっては原稿を取り戻すこともできなくなってしまいました。

幻の処女作『Avventura su Efeso (エフェストでの冒険)』

――その後、宇宙船サジタリウス号の物語を描かれるわけですが、科学者として実際の「宇宙開発」にも関わられていたことがあるとか?

ロモリ:1996年頃、私は「宇宙づけ」でした。NASA(アメリカ航空宇宙局)やESA(ヨーロッパ宇宙機構)の依頼で、土星探査船「カッシーニ」に関するプロジェクトに参加し、探査船の光学センサーや分光器などの設計に従事しました。
カッシーニから分離し、土星の衛星タイタン上に投下された小型探査機「ホイヘンス」の機内には、他の研究者とともに私のサインが刻まれたプラチナプレートが収められており、それは今もタイタンの地表に残されています。

他に、生理光学分野では白内障手術で水晶体の変わりに用いるIOL(眼内レンズ)の研究などにも参加し、定年を迎えた後も、フリーの研究者としてフィレンツェに光学設計事務所を設立して、アルチェトリの国立光学研究所や、ミラノにある宇宙分野の大手企業などで働きました。

■「スーパーヒーローは好きじゃない」


――先生の描かれる作品の内容は、研究者としてのテーマと関連していますか?

ロモリ:特に意図したわけではありませんが、私の作品と研究には、自然発生的に関連性が生じました。例えば登場する惑星に関する詳細や、それらの間の距離などについてなどです。
「息抜き」から生まれた作品でしたが、物理法則に反して展開するような羽目をはずしたファンタジーにはなりませんでした。
たとえ、我々の宇宙とは異なる宇宙、異なる物理法則の世界であっても、「その世界の物理法則」に則った物語しか許容しないというのが、私の一貫した考え方です。

登場する乗り物のラフスケッチ。

リアルな私たちの宇宙とは無関係な世界のキャラクターであっても、驚くべき超自然能力を持つ「スーパーヒーロー」ではなくて、そのような能力を必要としない現実的なキャラクターが好きなのです。

――現在も精力的に『ALTRIMONDI』の新作『Kthalon』や、猫の女の子を主人公にした『マグダリアとメリッサ』などを描かれていますが、どういった執筆生活をされているのでしょうか。

ロモリ:私の仕事のペースは、かなり厳格です。絵を描いたり書き物をしたりといった仕事以外にも、本の印刷や出版に関する少し退屈なこともしなければなりませんので、だいたい、1日8~9時間、時にはそれ以上働くこともあります。
また、見本市などのイベントに参加する場合は、準備やお客さん対応などは、幸いなことに、妻が手伝ってくれます。
普段はわりと早起きで、適度な時間にベッドに入り、毎晩少なくとも30分は本を読みます。TVは特別に重要なニュースや面白い映画が無い限りはあまり観ません。
そして、週末には、度々娘のもとを訪ね、みんなで一緒に過ごします。しかし、ここで私は家族は呆れられていることを告白しなければなりません。

……私は、必ずと言って良い程、どこにいくにも絵を描くためのノートを持参します。私はこれを手放すことができないのです。

奥様と愛猫と。

――お一人で描いているのでしょうか? またデジタル作画はされていますか?

ロモリ:脚本やシナリオ、作画も、吹き出しの文字のレタリング、着彩、スキャン、パソコンでの補正まで、すべて1人でやっています。
パソコンは作画に失敗した場合や、別々に描いた絵を合成してシーンを制作したり、着色したりするのに使っています。吹き出しの手描き文字、描き文字を入れるのにも使いますし、たまには、Blenderというソフトで3Dモデルも作成します。
サジタリウス号の船室など、特に多くのシーンで使うメカは、様々な透視図法でモデルを作成し、印刷したものを微調整したり、細部の変更を加えたりしたものを、ライトテーブルでトレースします。
パソコンを使ってより良い成果を得るには、手描きよりも時間がかかってしまうというのが辛いところですね。

仕事部屋。科学者だけあって、コンピュータ使用もお手の物だ。

■「これからもトッピーとジラフ、ラナたちを描き続けるでしょう」


――日本では『サジタリウス』の原作『ALTRI MONDI』や、新作『MAGDARA』の入手が容易ではなく、日本語版もないので、その内容を知ることも難しい状態です。今後、出版の予定はありますか?

ロモリ:日本でも『ALTRI MONDI』、それに『MAGDARA』などの作品を出版できたらと良いなと思っていますが、出版には翻訳も担える出版社を見つけなくてはなりません……もし叶うとすれば、とても名誉なことでしょうね。

――日本にどのような印象をお持ちですか?

ロモリ:日本語ができないにもかかわらず、私は日本を第二のふるさとのように感じています。 1981年、私は「日本アニメーション」さんを訪ね、1週間東京に滞在しました。観光する時間はそう多くは無かったですが……素晴らしかった。
1日だけ、自由行動のできる日があったので、美術館に行きました。そして、日本語の題名はわかりませんが、「Vedute dalla metropolitana」と題された数メートルの長さのある作品が特に印象に残っています。

是非、再び日本を訪れたいと思っています。できたら東京と、少なくとも京都・大阪は訪問してみたいですね。
今のところ、その計画はありませんが、さあどうなるでしょうか……。

――日本のファンの方に伝えたいことがありましたらお願いいたします。

ロモリ:日本のファンの皆さんには、皆さんが『宇宙船サジタリウス』のシリーズや、私の生み出したキャラクター達を評価・称賛してくださることをとても光栄に思っているということをお伝えしたいです。
また、原作についても、皆さんに知って頂けただくことができたらと願っています。そして、感謝を述べたいです。

皆さんのおかげで、サジタリウスのシリーズは世界中に知られることとなったわけですから……皆さんの称賛、長い時を経てなおシリーズとキャラクターたちを忘れずにいて下さっていると思うと、私は胸がいっぱいになります。
私はこれからもトッピーとジラフ、そしてラナたちを描き続けるでしょう……。



(2018年12月、メールインタビューにて)
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《翻訳・写真=石井園美/構成=山科清春》

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