■ふたりのプロデューサーユニット「プロジェクト」の今後は?
――本編公開後の反響はいかがでしたか?
和氣
そもそもオレンジが短編を作る機会が今までなかったので、仕事関係の方からは「そのスケジュール感でCGの短編を作れるの!?」と驚かれました(笑)。
武井
お客さんからも喜んでいただいている声は聞こえてきていますね。
今回、まずは絵の綺麗さを感じ取ってもらえればいいと考えていたので、率直に「綺麗だな」という感想を聞くと、こちらの思いが届いたかなと嬉しくなります。
――今作を経て、今後チャレンジしてみたいことは生まれましたか?
和氣
短編だからこそいろんな表現をやっていいんだ、と改めて思いました。
それこそ今回の秦さんデザインで石井さん監督というのもうちでやってなかった座組ですからね。
夢のある企画だった一方、スタッフィングや技術面の検証という一面もあったので、これからもそういった挑戦の機会を増やしていきたいです。
武井
検証という意味でいうと、この先もいろいろな企画を和氣さんと考えているので、そこに今回のような短尺のお仕事が加わると、控えている企画のビジョンも固まり、より実現させやすくなりますね。
また、とてもステキなスタッフに恵まれたので、また何かしらでご一緒したいと思っていますし、「インクルージョンというテーマでまたお願いします」というご依頼が来たら再びチャレンジしてみたいです。
とにかく「いくらでもお仕事待っています!」という感じです(笑)。
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――いろいろな企画! それは早く観てみたいですね。
武井
深くは言えないですが、すごく……いろいろ考えています(笑)。時間がかかっているものもありますが、何かしら今後披露できるのではないかなと。
――これからのお仕事も楽しみにしております。ちなみに、お二方がタッグを組まれた際のユニット名が「プロジェクト」ということですが、こちらの名前の由来はどこからなのでしょうか?
このたび、私武井克弘はオレンジの和氣澄賢さんとプロデューサーユニット「プロジェクト」を結成しました。なお、それぞれの所属企業はこれまでと同様です。今後とも両名をよろしくお願いします! pic.twitter.com/5jKOFBraQv
—武井克弘 (@takei_katsuhiro) 2019年3月8日
武井
僕たちは漫然と仕事をこなすのではなく、新しい可能性に自ら身を投じていきたいと思っていて、それを表した名前になっています。ハイデガーという哲学者の提唱した概念で「投企」という言葉があって、それを英語で「project」と言うんですが、自らを世界に投げ込んでいく態度を意味するらしく、その言葉を名前に使うのはいいなと思いまして。
どんどん試したい表現や企画があるので、そういった新しい挑戦をふたりで一緒にやっていくぞ、という意味でのユニット名になっていますね。
――「プロジェクト」として『そばへ』を製作し、おふたりはそれぞれどのような収穫がありましたか?
和氣
ここまで触れていなかったのですが、今回社内のスタッフに関しては、最初から若手だけでやろうと決めて制作をスタートし、結果として、若手が自分の力を試せる現場にできたのかなと思います。
いちスタッフとしてアニメーションだけをやっていると、人物や物体を動かすことだけ考えてしまいがちなんですが、監督や演出とやりとりをする立場で仕事をすれば、キャラを動かしてほしくないカットが存在することを知ることもできるんです。
今回の仕事を通して、演出する意図に沿ってアニメーションするということをみんな学べたと思うし、今後に活かしていけるのではないかと。
武井
莫大な予算、人員で短期間に高品質なCGアニメを量産できる海外に対して、我々はどうしてもリソース面で敵わない部分があります。
でも、敵わないだけでなく、そんな中でどう工夫して良いCGアニメを作るか、というのはずっと考えていることでもあったので、今回限られたスケジュールの中で短編を作ることができたのは、本当に有意義な機会でした。
――ありがとうございます。では最後に、改めて『そばへ』の注目してほしいポイントについて一言ずついただければと思います。
和氣
1回観ただけでお話を理解できる構成にはなっていないんです。
でも、1カット1カットにしっかり意味がある作品なので、なぜこのキャラクターはこう動いているのかなど、意味を見つけながら観ていただければと思います。
武井
妖精が元気なだけじゃなく、時にはフラフラしたりといった様々な動きをしていて、そこにも意味があるんですよね。
個人的におすすめしたいのが、1枚1枚カットごとに止めて観ていただくという観方です。長砂(賀洋)さんにコンセプトアートを書いてもらってから映像を作っている強みだと思うのですが、各カットに絵画的な良さがあるんですよ。
さりげない1カットに秘められた光の角度がカッコいいとか、初見時は一瞬の印象として焼き付いていた表現をひとつずつ確認してみてほしいです。
ぜひ、何度も見返してみてください!