昨今流行りの異世界転生ものとは“逆”に、勇者や魔王たちが現世に転生してくることから物語ははじまる。だらっと日常、時々ホンキで闘う“脱力系アクション・エンターテインメント”だ。
劇場公開に先立ち主要スタッフにインタビューを敢行。話を聞いたのは、橋本裕之監督、脚本の上江洲誠、キャラクター原案の鈴木次郎の3人だ。
一体、どんな経緯で、どんな思いでこのオリジナルアニメをゼロからつくり上げていったのだろうか。厚い信頼関係が築き上げられた3人の、賑やかなインタビューを楽しんでいただきたい。
[取材・構成=松本まゆげ/撮影=市原達也]


■シリアスの次は明るく笑えるアニメを作りたい
――まずは、『レイドバッカーズ』の成り立ちを伺いたいです。そもそも、最初にこの企画が立ち上がったのはいつ頃なのでしょうか?
上江洲
『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』と『結城友奈は勇者である』の仕事がちょうど全部終わったタイミングですね。
シリアスなストーリーのアニメが続いていたので、「次は明るく楽しく、笑えるアニメを作りたいね」とフライングドッグさんと話していたところ、「じゃあ本当に作っちゃおう」と。
なんとも気楽なオファーで作ることになりました。
――では、上江洲さんとフライングドッグさんではじまった企画なんですね。
上江洲
僕と、フライングドッグさんと、Studio五組さんです。
そこで、「作る側も楽しいと思えるものがいいね」と話し合って、明るくて、笑いのある現代コメディにすることに決まりました。
「じゃあどんなコメディにしようか」と話したとき、みんなの総意は『じゃりン子チエ』(※)のような地に足の着いたコメディだったんですよ。
※『じゃりン子チエ』:はるき悦巳が「漫画アクション」(双葉社)で連載していたマンガ作品。単行本の発行部数は3000万部を超えるヒット作で、第26回小学館漫画賞を受賞。1981年4月にアニメ映画化され、同年10月からはTVアニメがスタート。1991年10月には『チエちゃん奮戦記 じゃりン子チエ』のタイトルで再度シリーズ化された。

――そうやってイメージを膨らませていったと。
上江洲
そういった話し合いのなかで、もっと具体的なイメージソースになったのが、『NieA_7』(※)でした。もう15年くらい前のTVアニメで、宇宙人が家に住み着いちゃうコメディなんですけど、そんな特殊な状況なのにアニメらしい派手な事件が起きない、ぐったりしたコメディなんですよ。
それが好きだからイメージとして挙げたのと、あとは、昔「月刊アフタヌーン」で連載されていた『ラブやん』(※)というマンガも例として挙げさせていただきましたね。
※『NieA_7』:イラストレーター、マンガ家として活躍する安倍吉俊が原作・キャラクターデザインを務め2000年に放送されたTVアニメ。および安倍吉俊とgK共著によるマンガ作品。大量の異性人を移民として受け入れた日本で、地球人と異性人の少女ふたりによる奇妙な日常を描く。
※『ラブやん』:「アフタヌーン」(講談社)で連載されていた田丸浩史のギャグマンガ。ダメ男・大森カズフサのもとに、ある日愛のキューピッド・ラブやんがあらわれ、恋を成就させようと奮闘するがことごとく失敗する、というストーリーだ。
――『ラブやん』もかなりのコメディですよね。
上江洲
そう、変態の人たちが変なことしかしないっていうギャグマンガですね(笑)。それを思い出して「面白かったよね」と。
どうせ笑わせるなら、絵は可愛いのに『ラブやん』くらい強烈なことやってもいいじゃないかという例になりました。

――基本的には“日常もの”が理想イメージですね。
上江洲
変なキャラクターたちで、日常コメディをやりたいというのが第一でした。
あと、ドラマのテンポとしては『仮面ライダー響鬼』なんです。僕、『仮面ライダー』は大好きなんですが、『響鬼』は平成ライダーのなかでもすごく特殊で、日常パートがすごく丁寧につくられているんです。
戦いのあるヒーローものなのにこんなにも日常パートがあるなんて、逆に面白かったねと。
そういうふうに好きなものを並べて、現代的に新しいアイデアで作ることになったのが『レイドバッカーズ』です。
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