■演じる役柄を「ヒーロー」と思ったことはない
――悟空を始め、鬼太郎、星野哲郎やガンバなど、ヒーローを演じられることが多いように思います。そういうキャラクターを演じる上で心がけていることはありますでしょうか。
野沢
私ね、自分(の役柄)をヒーローって思ったことはないんです。なぜならヒーローは、番組を見ている皆さんが決めることだから。
そのキャラクターなりの等身大のセリフで言ったことが、皆さんの中でヒーローと聞こえているならそれはそうかもしれません。
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――深みのあるお言葉です。では質問をちょっと変えて、少年を演じるときの心構えは?
野沢
私が少年を演じているときは、たぶん女性っぽくないと思います。椅子に座っているときには膝をくっつけなかったり、マイクの前に立つと(突如立ち上がって)こういう前のめりな格好になりますよ。そうじゃないと「俺さあ!」なんて声が出せないですよ。やっぱり体がともなっての声ですから。
あとはやっぱり、男性の動きや喋り方を日々観察しましたね。それはもう役者としての引き出しの中に全部インプットしてあります。
■悟空は誰とでも仲良くなれると思っている
――シリーズ最新作『ドラゴンボール超 ブロリー』についてお伺いしていきます。試写を拝見したのですが、今回の悟空はいつにも増してイキイキとしていますね!
野沢
すごく悟空らしいでしょ? 戦いと日常に落差があるところもいいじゃないですか。戦っているときはめちゃめちゃ強いですもんね。
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――中盤以降のバトルは「いったいいつまで続くんだ!?」と思うほどのボリュームです。
野沢
戦い、戦い、戦いの連続で、「私、叫び声じゃないセリフを言ったかしら……」と思うくらい。だからこそ逆に、ドラマ部分のセリフが生きてくるんでしょうね。
――長さ以上に、悟空が追い込まれるシーンが多くて、悲鳴をあげ続けているのが余計にたいへんそうだなと。
野沢
皆さんから「喉は大丈夫ですか、疲れませんか?」って心配していただくんですけど、収録で疲れたことは一度もないんですよ。
劇団でお芝居をやっていた人間だから、普段から鍛えたりはしないんですけど、本番で声が出ないのは役者の恥って思っています。
若いころは海に向かって発声練習をしたりもしました。本当は潮風は喉には良くないらしいんですけど、でも過保護にしたらダメなんです。仕事で怒られても「なにくそっ!」って思うくらいじゃなきゃ。
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――痛めつけると強くなるとは、サイヤ人を地でいく鍛錬法かもしれません(笑)。ところで、映画では悟空が地球に送られる前の幼少期が描かれています。
野沢
子ども時代の悟空ってかわいいですよね。両親との別れのシーンでは、役に入り込んでいるから切なくて泣いちゃいそうになりました。でもね、あまりジメッとしすぎない別れなのがいいですよね。
――父親であるバーダックを久々に演じてみていかがでしたが? 同じ父親でも、悟空とバーダックではちょっとスタンスが違うように感じました。
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野沢
もし息子が転んだら、悟空だったら駆け寄って励ますでしょうけど、バーダックは「立つんだ」とだけ言って手は貸さないと思うんです。
そんな、厳しさの中にも彼なりの愛情を込めたお芝居をしたつもりです。前面に出さない優しさだけど、彼の人間性がとってもよくわかっていいじゃないですか。
周囲には冷たい人間かと思われるかもしれないけれど、ふとしたときの優しさがあれば見方が変わってくる。
――バーダック、悟空、悟飯、悟天、ゴクウブラックと、ひとりで複数のキャラクターを演じられる野沢さんですが、使い分けはどうされているんでしょう。
野沢
うまく説明はできないですけど、キャラクターと向き合った瞬間にパッと切り替わるんですね。すぐにその人物の中に入ってしまう。
――ちなみに、悟空と悟飯が会話するシーンのときって、収録はどうされているのでしょうか?
野沢
本来なら、まずは他のキャストと一緒に悟空を録って、その後にひとりで悟飯の分を録るんです。でも一度だけ、ひとりでキャラクターの掛け合いをしたことがあったんですよ(と、悟空と悟飯の掛け合いを即興で演じる)。
そしたら後輩から「やめてください。全員がマコさんみたいなことができると思われると困ります」って、たしなめられちゃいました(笑)。
――目の前で演じてくださって、あまりの出来事に鳥肌が立ちました。ところで、これまでで一番印象に残っている悟空の戦いというと?
野沢
やっぱりフリーザですよね。なにしろわがままでしょ? 戦っているのに「今のは痛かったぞー!」って。痛いのは当たり前なのにねぇ。
――(笑)。何度も死闘を繰り広げているし、悟空とフリーザでは性格的にもウマが合わなさそうですね。
野沢
第三者から見たらきっとそうでしょうね。でも、悟空はフリーザとも合うと思っているはずです。悟空は誰とでも同じ目線で仲良くなれると思っている人。それは戦っている相手ですら同じ。
――それが、野沢さんが考える悟空像。
野沢
もちろん、最初からそう思っていたわけじゃないんですよ。毎週ごとにドラマがあって、そのひとつひとつに“悟空ってこういう面もあるんだ”っていうエピソードがある。話が進むに連れて自分なりの悟空像を作っていったわけですね。
悟空とは長く一緒に生きてきたし、とってもいい生き方だったと思います。それに、この映画で終わりだとは思っていません。
悟空って、とってもグーグー寝る人だから、野沢雅子個人としては「そろそろ起きてよ!」って声をかけたい。きっと大きく伸びをしながら「たまげたなぁ。オラ、腹減ったぞぉ」って出てきてくれますよね(笑)。
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