「プリンセス・プリンシパル」のスパイ描写はどこがスゴイ? 軍事研究家の小泉悠氏に聞いてみた 3ページ目 | アニメ!アニメ!

「プリンセス・プリンシパル」のスパイ描写はどこがスゴイ? 軍事研究家の小泉悠氏に聞いてみた

TVアニメ『プリンセス・プリンシパル』の“スパイ描写”の魅力を探るため、軍事研究家・小泉悠氏にインタビューを敢行。本編第3話までをご覧いただいたうえで、実際のスパイ活動や世界情勢と照らし合わせつつたっぷりと解説していただいた。

ニュース アニメ
注目記事
PR
「プリンセス・プリンシパル」のスパイ描写はどこがスゴイ? 軍事研究家の小泉悠氏に聞いてみた
「プリンセス・プリンシパル」のスパイ描写はどこがスゴイ? 軍事研究家の小泉悠氏に聞いてみた 全 11 枚 拡大写真
■上流階級にとってスパイは“名誉ある仕事”

――その他に気になった設定はありましたか?

小泉
先ほども申しましたが、ケイバーライトのようなメカニカルな部分が発展しつつも、情報の伝わり方は遅いというギャップがすごく面白いです。スパイが活躍できるように、逆算して考えられた世界観だと感じます。
現代のようなネット社会だとハッキングで相手の奥深くまで入り込んで情報を取ることができますが、情報通信網が未発達な社会ではやはりスパイによるHUMINT(ヒューミント。人間を使ったインテリジェンス)が大きな威力を発揮します。
アメリカでは現在はNSA(アメリカ国家安全保障局)がすごく力を持っていて、彼らは巨大データセンターであらゆるものをビッグデータで解析していて、それがCIAのスパイ工作を遥かにしのぐ情報を持っています。『プリンセス・プリンシパル』の世界では実際に潜入して情報を獲得するということが行われていて、だからこそスパイに価値があるというわけです。
また、舞台がロンドンの分断国家であり、革命後まだ10年なので、民族・言語・文化的に行き来しやすいことも、スパイが活躍しやすい設定ですね。日本の場合は外国に対してそれが難しいですし、同民族の南北朝鮮の場合でも分断後60年以上経つとさまざまな違いが出て、諜報活動の妨げになったりもします。イギリスは階級社会ですから、言葉遣いも分断されていますので、下級クラスの子たちに対してどのように上流階級の物腰を身に着けさせたのかも気になるところですね。


――キャラクターのなかで、日本人の留学生・ちせがいます。異国からのスパイですが、彼女をどのようにご覧になりますか?

小泉
留学生のスパイということで、どこかの国の情報機関に所属する二重スパイの可能性も考えられます。もしくは、こういうお嬢様学校に通わせることによって、上流階級の物腰を身につけさせる目的なのかもしれません。スパイには、派遣先に浸透し、社交界でうまく立ち回れる能力が求められますので、無教養ではできない仕事です。
プーチンさんも実際に会うとめちゃくちゃ愛想がよくて相手をよく笑わせるそうですよ。本当の彼のキャラクターなのかはわからないですけれども、そういう風に訓練されているんです。ほかにもテーブルマナーから会話術、西側の資本主義経済のことまでいろいろと教え込まれるそうです。その意味でスパイは非常に洗練されて自由な思考ができる人であると言えます。アンジェがサッと外面(そとづら)を切り替えられるのもそういう訓練を受けたからでしょうね。
また、スパイはどこで訓練を受けたかによっても、キャラクターが変わってくるものです。プーチンさんは第一総局という外国に派遣されるスパイだったので、物腰よく人から好かれるような教育を受けていたわけですが、第二総局は国内における取締機関なので彼らは愛想が良い必要はない。本作でいうと、ちせは愛想はないけれど、剣を振り回す殺し屋要員なのでそういうタイプなのかもしれません。プリンセスは完璧なカバーがあるので、愛想をふりまきながら渉外的な仕事をしていくわけですが、同じスパイでも役割が違うので、それがキャラクター性にも反映されていますね。


――プリンセスのように、貴族の人たちがスパイになろうとする動機はどこにあるのでしょうか?

小泉
日本には戦後からずっとインテリジェンス機関がないため、イメージを持ちにくいでしょうけど、国によっては情報機関は国家に奉仕する非常に名誉ある仕事だと受け止められています。職員も大変な誇りを持っていますし、イギリスのMI6など貴族であるからこそ国家に奉仕すべしという考えで入る人も少なくなく、第一種公務員的な位置づけになっているようです。

――なるほど。ジェームズ・ボンドがヒーロー足り得ているのも、それがあるからなんですね。

小泉
西側では『007』で、東側では『盾と剣』(1968)というプーチンさんがKGBに憧れるきっかけになった映画があります。僕らが刑事ドラマを観て、悪い人を懲らしめるみたいなヒーロー像として映っているのではないかと思います。実態がどうかは別にして。
その意味で、プリンセスがスパイチームに入るということは、悪い意味に捉えられてはいないはず。しかも継承順位4位で、パッとしないプリンセスにそういう名誉職をあてがっておいたら、これがとんでもない野心家だったと(笑)。プリンセスの場合は首都のロンドンにいてスパイとして活動しているからいいのですが、敵地に送り込むというのはやっぱり珍しいでしょうね。でもチェンジリング作戦はそういう話なんですよね。 まだまだ先の展開が気になるところです。


――では最後に、今後の展開で楽しみにしているポイントを教えてください。

小泉
一見、仲の良さそうなアンジェたちですが、「スパイは嘘をつくのが仕事」と言っているぐらいなので、彼女たちに本当に友情があるのかが気になりますね。嘘をつかなくちゃいけないんだけれども、その制約の中で彼女らがどんな関係性を築いていくのか。やっぱり友情も持ちたいんだろうな、なんて想像しながら見るととても切ない気持ちになります。
あと軍事評論家としては、この分断された世界がどうなっていくかが気になります。大佐が言うように一歩間違えれば北欧戦争が起こってしまうような状況です。彼女らのスパイ合戦が果たして平時のままで進んでいくのか、この世界が保たれている危ういバランスがどこかで崩れてしまうんじゃないかといったところが気になる部分ですね。今後を楽しみに視聴したいです。
  1. «
  2. 1
  3. 2
  4. 3

《日詰明嘉》

特集

この記事の写真

/
【注目の記事】[PR]