ドリーが海洋生物研究所で出会う7本足のタコ・ハンクを日本語吹替版で演じた俳優の上川隆也さんに、ハンクのみどころと今作の魅力について伺った。
[取材・構成:川俣綾加]
『ファインディング・ドリー』
http://www.disney.co.jp/movie/dory.html
■タコのハンクは「人間くさくて傷を負った男」のイメージ
──ハンク役のオファーを受けた時の心境を教えてください。
上川
正直「こんなことが起きるんだ」と思いました。僕のもとにピクサーからオファーがくるなんて、そんなことが現実に起こるのかと、驚きより『驚愕』と云った方がしっくりくる感じでした。もちろんピクサー作品は大好きで、多くの作品を楽しんできました。でも、僕はずっとお客さんなんだと思っていましたから。まさか出演する側になれるなんて。オーバーな表現にはなりますけれど、まさに青天の霹靂でした。
──アフレコをする前に原音で作品をご覧になったかと思います。ハンクはどんなキャラクターだと感じましたか?
上川
彼はある意味で万能です。水中でも陸上でも動けて、跳躍して天井を這うこともできる。色を変えたり形を変えたり、更には人間が使うような機械の操作だってできてしまう。でも、何故か彼はドリーのタグを欲しがるんです。
──よく考えたら、ハンクならタグなしで色々な場所に行けてしまいますよね。
上川
そうなんです。海に帰らず水槽に留まろうとする。言い方は強くなってしまいますが、たぶん歪んでいるんですよね。名目もきちんとした上で水槽に留まりたい。そんな不思議なところがあるキャラクターなんです。大きな可能性を秘めているのに色濃い影もある。初対面のドリーに威丈高に接して力づくでタグを奪おうとしたかと思えば実は子供は苦手……と、とても複雑なんです。
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──そんなハンクもドリーと出会って、大きく変化していきます。
上川
真っ直ぐなドリーと出会うことで、彼の中で閉じていた何かが開いて、最後には一緒に海に戻っていくのがハンクの物語。過去の痛みを捨てきれず引きずっているような男で、隣にいてもおかしくない人間くささをもっています。タコだと思うと隔たりを感じますが「心に傷を負った厭世的な男」だと思うと、急に距離が縮まるので、演じる際は僕もそう捉えた上で彼の気持ちを推し量りながらやっていました。
──吹替は通常のアフレコとは異なることも多いと思います。演じる上で苦労した点は何でしょうか?
上川
当初は原音に引っ張られていたんです。エド・オニールさんが演じるハンクはとてもセクシーでハスキーな声。それがキャラクターとしてのボイスイメージなのだと僕が思い込んでいた部分があり、そうなれるよう声を作っていたのですがなかなかOKが出ないんです。色々試しているうちにどうやら原音に近づけることは求められていないと気づけた瞬間があったんです。キャスティングしていただいた意図はそこにはないと。結局地声に近づけることでそこはクリアできました。
──試行錯誤があった上での吹替版のハンクなんですね。吹替が終わり、完成した映像を見ていかがでしたか。
上川
作品が面白いのは確かなのですが、自分が演じた部分に関しては、どうも手放しで観ていられない。他のキャストの方々が演じた部分は純粋に観客として楽しめるのですが、ハンクの場面になると少し気持ちが『ザワザワ』するんです。そもそも気恥ずかしいですし、ハンクの保護者になったような気持ちでいたたまれない。大丈夫かとか心配な気持ちのほうが先行してやきもきしてしまう(笑)。なので、評価は劇場で観てくださった皆さまの目にお任せしたく思います(笑)
──印象に残っているシーンは?
上川
スタッフロールが終わった後。そんなところにまでサービスを盛り込んでいるのかと嬉しくなるスタッフの遊び心、作品愛にあふれた部分です。最後の最後まで観て頂きたいです。ハンクのシーンなら、タッチプールを切り抜けドリーとお互いの無事を喜び合うところです。「こんなところに来たのはお前のせいだ。でもお前がいなければここには来られなかった」というハンクのセリフとシチュエーションは、演じていても印象深いひとときでした。
──今作では特に、水の表現がアップグレードされているとアンガス・マクレーン監督もおっしゃっていました。上川さんから見た今作における水の表現はいかがでしたか?
上川
僕は特に海の水面の表現が素晴らしいと思いました。普段はドリーたちと同じ目線でカメラが動いているので気づきにくいのですが、海中で空を見上げた時の水面が本当に美しくて。もちろんハンクの体の表現にも様々な技術がつめこまれていると伺っています。CGでやわらかいものを表現するってきっとすごく難しいんです。その最たるものが水なんでしょうね。あそこまで自然に表現するには、どれほどの努力と研究と開発を繰り返したのかと思うと、その部分だけ抜き出しても非常に価値がある瞬間だと思います。
──今日はありがとうございました。
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