アニメーターなどの育成をしながらし、オリジナルのアニメーションを作り上げて行く。「あにめたまご」はいったいどのような作品たちが生み出されていくのだろうか。
今回は「あにめたまご2016」の4作品の中から、手塚プロダクションが制作する『かっちけねぇ!』の吉村文宏監督に話を聞いた。
[取材・構成:細川洋平]
あにめたまご2016 アニメ!アニメ!特集ページ
http://animeanime.jp/special/424/recent/
『かっちけねぇ!』
“半分しか絵の描かれていない不思議な襖のあるお寺。そのお寺に住む愛子は、描かれるはずだったという“天女”を描けるようになりたいと襖を眺めていた。そんな愛子が17歳になったある日、江戸言葉を口癖にした一風変わった男が現れ、お寺に住み込むようになった。見知らぬ着物姿の男に愛子は抵抗を覚えていたが――。“
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アニメーション制作は『青いブリンク』『ブラック・ジャック』『ASTRO BOY 鉄腕アトム』など、手塚治虫作品のアニメーションを手がける手塚プロダクション。手塚治虫作品ほか、TVアニメ『ポケットモンスターXY』『ヤングブラックジャック』『戦国無双』など多くの作品で演出を手がけてきた吉村文宏氏が監督を務める作画アニメーション作品。
――手塚プロダクションはアニメミライ2015に続いて2年連続での参加となります。今回の企画の流れを教えていただけますか。前回との違いはありますか。
吉村
アニメミライ2015では手塚治虫先生・原案、手塚眞・原作の作品(『クミとチューリップ』)で参加しました。実に手塚らしい作品でした。今回は全くのオリジナル作品で、弊社の清水義裕(製作局局長)が暖めていた原案を元にした作品で応募いたしました。私自身はあにめたまご2016への応募が決まってから参加しています。
――今回のシナリオで大事にしている部分はどういったところでしょうか。
吉村
“未完成だった襖の絵の半分を完成させるため、江戸時代から絵師がタイムスリップしてきた”というのが大筋なので、キャラクター達の価値観や感覚の違いをうまく出せるよう気を使いました。現代と江戸時代の人間の反応の違いを気にしつつ、でもやり過ぎると会話やドラマそのものが成立しなくなってしまうので、そこは分かりやすく描いていきました。
――『かっちけねぇ!』というタイトルは江戸弁、江戸言葉で「ありがとう」という意味だそうですが、これは吉村監督が考えられたのでしょうか。
吉村
原題は別にあったのですが、もう少しフックのある案ということで考えていたところ、絵師である主人公の宗二が口癖のように使う「かっちけねぇ」という言葉が、分かりやすく響きも一風変わったものだったので、タイトルにふさわしいだろうと思い、採用しました。
――井戸から飛び出る筆を握った絵というキービジュアルもインパクトがありますね。
吉村
作画監督の瀬谷(新二)氏と「これは何だ? と思わせるものにしたいですね」と話した結果です。彼のアイデアをベースにして今の形に整えてもらいました。
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――あにめたまご2016は若手アニメーター等の育成事業となっています。吉村監督は前回も含めて2年連続事業に関わられています。この取り組みだからこそできたことのは何だとお考えでしょうか。
吉村
このプロジェクトは通常のTVシリーズ作品等より制作時間が多く取られているので、スタッフ間のコミュニケーションの密度は普段より多くできたと思います。ウチは社内で完結する仕事が多いので、もともと横のコミュニケーションはやり易い環境なんです。その事も若手の子たちにとっては新しい経験だったのではないかと思います。
――若手アニメーターさんを受け入れるに当たっては、制作状況をさほど変えなかった?
吉村
そうですね。自分的にはいつも通りのやり方で対応しました。
――受け入れに当たってはどういう点に苦労しましたか?
吉村
やっぱり若手がどんな人間か、どんな技術を持っているのかということの把握ですね。そこを見極めつつ作業をお願いしました。終わった今、彼ら自身がこちらの指導をどう感じているのかわかりませんが、少しでも経験値を高められたものがあったらいいなと思いますね。
3、4ヶ月という期間は物事をしっかり学ぶには決して長くはないので、その中で彼らの知らないことを少しでも伝えられたらと思いながらやっていました。
――制作がはじまった当初、若手アニメーターさんたちの絵をご覧になってどのような印象を抱かれましたか?
吉村
やっぱり“若い”って感じかと…(笑)。絵は経験や年輪、その人の人生の積み重ねが出るものだと思うので…。ただ、この作品の制作を経たことで、今後関わるであろう作品への姿勢や見方、考え方が色々広がってくれるといいなと思いますね。一つでも二つでも今回のことが経験になって、将来彼らが業界を支えるための布石となればと思っています。
――規定の作画枚数は11000枚前後。この枚数というのは今回の作品作りにどう影響したのでしょうか。
吉村
いまTVシリーズだと大体3500枚前後ですから、かなり贅沢ですよね。ただ、枚数が多ければ作品がおもしろくなるかというとそうではないと思っています。様々な方法で感動はさせられる。ただ今回は“動くこと”を前提にした作品にしていて、立ち上がったり座ったり、そういう所作の細かいところまで丁寧に描くことを見込んでの物語を作っていきましたので、その辺りの見応えはあるかと思いますね…。
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――和服の描写も慣れていないと難しいのではないでしょうか。
吉村
主人公・宗二が江戸時代の人間で着物ですからね、若手を含む描き手には難しかったみたいです。立ち居振る舞いやちょっとした足の組み方にしても、服のバランスや当時の格好良さというのはすぐに描けるものでもないので。その辺りは作画監督の瀬谷氏に細かく指示修正をしていただきました。
――制作を振り返られて、今どんなお気持ちですか?
吉村
『かっちけねぇ!』というタイトルとダブりますが、関わってくださったみなさんに「ありがとう」と伝えたいですね。テレビ放送の仕事や劇場作品やOVAといろいろありますが、いつもの作品とは少し毛色の違ったものができた感触があります。手塚プロダクションは普段は手塚治虫作品の制作かグロス請けがほとんどなのですが今回は全くのオリジナル脚本・キャラクターで新作を作らせてもらいました。手塚先生の原作ではない作品
というのは弊社では初めてだと聞いています。
――記念すべき作品ということですね。
吉村
たぶん。この作品が一つの指針となって、次の作品が今までとはまた違う方向へも進められたらと思っています。そしてまぎれもなく若手も全員がんばってくれました。従来よりていねいな芝居を考え、枚数をかけて書くというのはそれだけでも大変な仕事ですが、それぞれが自分の課題をクリアしてくれたと思います。その若手の仕事ぶりや成長ぶりをこの作品の中に見ていただけたら幸いです。
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『かっちけねぇ!』
(C) 手塚プロダクション/文化庁 あにめたまご2016