■ 「重要度=最優先」というプレッシャー
前回、「脳内マイブーム」が来ているタスクから始めることで、取りかかりの壁を越える話を書きました。
私はその日のマイブームにできるだけ忠実に動くようになりましたが、心理的には大きな葛藤もありました。
というのは、その日に自分がやりたいマイブームのタスクが、それほど優先順位が高いものじゃないことも多いのです。むしろ、逃避したい気持ちもあるのか優先順位的には低いタスクのほうが多いくらいで……。
「ああ、今は本当は、〆切が遠いAの原稿の参考資料を読んでフセンを貼るよりも、〆切が先のBの原稿を書いたほうがいいんだよね……」と脳内でツッコミが入ることもよくありました。
けれども、作業記録をつけているうちに、
《脳のマイブームに従ったほうが生産性の高い時間が圧倒的に増える》と気が付きました。
そもそも、「取りかかりの壁が高いタスク」がなぜ発生するのかというと、
「自分がそのタスクが重要であると認識している」からなんだろうなと。
「重要度が高いから、最初にやらなきゃ!」という緊張と心の重みがによって、取りかかりの壁が高くなってしまうのだと思いました。
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タスクができないことでうんうん唸ってよけいに苦しくなってしまい、何の作業も手に付かなくなってしまう……それが悪循環になってしまうのならば、辛くないことから始めたほうが良いです。
私は、朝一で重要度が高いタスクに着手できないときは、諦めて別の作業から入ることにして、達成感を得てから本題タスクに近づいていくことにしました。
何のタスクでもいいからとにかく早めに着手してしまったほうがいい。
だって、重要度が高いタスクでも、できないときはできないから……!
そこで思い出したのがGTD(【第3回】【第4回】参照)の教えです。
「タスクは重要度に関わらず、かかる時間は一定である」
「どれから着手しても最終的には同じ分量の成果が得られる」。
いつ着手しても、トータルで必要な時間は変わらない。であれば、マイブームが来た順に着手していれば、いずれは終わるだろうという作戦です。
「最初にやらなきゃ!」を放棄することで気が楽になり、プレッシャーで動けない状態はなくなりました。
■ 先手を打つことで「ギリギリの怖さ」がなくなる!
こうして私は、様々なタスクをマイブーム優先で取りかかるようにしました。
すると何が起こったかというと、〆切日よりもうんと前に上がる原稿が出てきました。
〆切が遠いタスクでも、「今日はこれがマイブーム!」という衝動にまかせて着手することで、のちのち心理的に辛くなる恐怖の「やんなきゃタスク」に変わる前に、山場を越えていたのです。
「最初の取りかかりの壁」がまだ高くない時期に楽しく着手することで、《取りかかりの壁自体がない状態》で原稿が進められました。
また、〆切のうんと前に一度でも手を付けておくと、その次に手を付けるときにはすでに「今からやる事」がわかっている状態なので、サクサク進みやすいです(これは『自分への申し送り』の項として連載で後述します)。
早めに着手する癖がついたことで、「見積もり力」(【第12回】【第13回】【第15回】参照)も上がったと思います。
〆切のゴールが遠いと焦れなくてのんびりしてしまう私が、早めに着手しておくことで「このペースでいくと、あと何日かかる」という「見積もり」を、知らず知らずのうちに意識することになったのです。
以前、簡単そうなタスクをマイブームに従って先に進めたら、その作業が実は、頭も使うし時間もかかるという「後に回していたら日程的にキツかったよコレ……」的なタスクだと判明したこともありました。
見積もりが甘かった!
そんなときも《早めに取りかかっていたから、〆切に間に合う》のでした。
もし、重要案件とは全く関係ないことしかやりたくない朝でも、マイブームのタスクをやり終わる頃には「達成感」を得られます。達成感という喜びは大きいです。お風呂を磨いたって達成感はありますから。
やったぞー! という気持ちが沸くと、次の作業に取りかかるときの原動力になります!
■ 渡辺由美子(わたなべ・ゆみこ)
アニメを専門にするカルチャーライター。インタビュー記事、評論、エッセイなどの原稿を書いたり、誌面を構成したり。web媒体『ASCII.jp』で「誰がためにアニメは生まれる」を、隔月刊『Febri』で「妄想!ふ女子ワールド」等を連載中。単行本『ワタシの夫は理系クン』(NTT出版)など。渡辺由美子ブログはこちら。
イラスト・宮原美香