成長するスペインのアニメーション 第3回 ヨーロッパ・アニメーションの拡大とトランスメディア化 | アニメ!アニメ!

成長するスペインのアニメーション 第3回 ヨーロッパ・アニメーションの拡大とトランスメディア化

≪バルセロナで、ヨーロッパのトランスメディアのプロジェクトピッチ「Cartoon 360」開催≫EUデジタル単一市場の構築で、活気づくトランスメディア 成長するスペインのアニメーション[伊藤裕美]

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≪バルセロナで、ヨーロッパのトランスメディアのプロジェクトピッチ「Cartoon 360」開催≫
EUデジタル単一市場の構築で、活気づくトランスメディア
成長するスペインのアニメーション

第3回 ヨーロッパ・アニメーションの拡大とトランスメディア化

[オフィスH 伊藤裕美]

■ ヨーロッパの小国で、アニメーションのオーディエンス増加

Cartoon 360にはEU22ヶ国、カナダと日本から約150名が集った。フランス、スペイン、英国、スウェーデン、ドイツといったアニメーション制作の多い西・北ヨーロッパだけでなく、経済成長する中央ヨーロッパのポーランド、チェコ、ハンガリー、さらにはアニメーション新興国のルーマニア、ブルガリア、スロベニア、クロアチア、リトアニアからもプロデューサーらが参加した。
欧州委員会の依頼でEuropean Audiovisual Observatory(欧州視聴覚オブザーバトリー)がおこなったヨーロッパのアニメーション産業動向の調査報告「Focus on Animation」によると、ロシアを含むヨーロッパの2010年~14年の間のアニメーション映画観客動員数は年平均1億7,980万人だった。特筆すべきはヨーロッパでの市場の広がりだ。映画全体に占めるアニメーションの観客動員率がリトアニア(26%)、スロベニア(24%)、スロバキア(24%)、ラトビア(24%)、エストニア(23%)と、英国(17%)やフランス(15%)を凌いだ。
リトアニアから参加したガビヤ・ブードロキティ氏は小さな制作会社Kinomind Filmsを経営し、子ども向けプロジェクトを開発中だ。「次回は応募して、ピッチしたい」と共同製作への意欲を示した。

■ ファミリー、ヤングアダルトへ多様化するターゲット

Cartoon 360では、22本のプロジェクトがピッチされた。国別では、スペイン 5、フランス 3、ベルギー 2、ドイツ、フィンランド、デンマーク、英国、スウェーデン、イタリアが各1、さらにスペインが絡んだ国際共同製作の6プロジェクト(フランスとスペイン、スペインと英国、スペインとコロンビア、スペインとロシア、スペインとキューバ、スペインとベルギー)となる。
全プロジェクトが、テレビ放映=共同製作やプリバイといったテレビ局の供出をビジネスプランの柱とするが、プロジェクトの発端や進展度合い、方向性はそれぞれ異なる。玩具のアニメシリーズ化、テレビシリーズのゲーム化・アプリ化、あるいは続編とトランスメディアの強化で販路拡大を目指すといった具合だ。

ターゲットは大きく3つの年齢層に分かれる。幼児(プリスクール)向け7本、小学生・ファミリー向け9本、ティーン/ヤングアダルト向け6本。スペインが絡む11本はすべてプリスクール、子ども、ファミリー向けで、フランス、ドイツ、デンマーク、イタリアがティーン以上向けのコメディを提案した。

グローバル市場の主流は、日本のテレビアニメは失地して久しい子ども(幼児~小学生)向けだ。2000年代に成長したヨーロッパ・アニメーションも、そこをターゲットにしてきた。しかし、飽和に近づいた国も多い。次に活気づくのが、ハリウッドの大手スタジオ、英国のアードマン・アニメーションズそしてスタジオジブリが先陣を切った長編のファミリー市場だ。長編は親・祖父母世代も呼び込めることから、劇場側の要望も強く、地球規模の配給でテレビアニメ以上の収益が期待される。
これらで育ったオーディエンスの年齢が上がり、コミックスやビデオゲームが国境を超えると、アニメーションの新たな可能性が見えてきた。ティーン/ヤングアダルト向けの短尺なウェブカートゥーン/ウェビソード、そして大人向け長編だ。ピッチには子ども向けプロジェクトしか出なかったスペインでも、オスカーにノミネートされた『Chico y Rita(邦訳:チコとリタ)』(スペイン、英国共同製作)、日本でも公開された『しわ(Arrugas)』のような大人向けの長編アニメーションが製作され、評価を得ている。

■ トランスメディアの子ども向けプロジェクト

プリスクール向けではデザインセンスの良さやアイデアのおもしろ味で、ベルギーの『Joe & Waldo』、スペインの『MIRONINS』と『Misha, the Purple Cat』、フィンランドの『Pikkuli』が目を引いた。
また、スペインとコロンビアとが共同製作する『Troubling Monsters』(製作:Piaggiodematei、Hierro Animacion、対象:5~8歳)は子どもが空想したモンスターや奇妙な生き物をネットで集めて、テレビシリーズ(11分x26話)、ウェビソードの「モンスター・ドキュメンタリー」(1分x26話)、Eブック「Monsterpedia(モンスターペディア)」に登場させながら、メディアを連動させる。

■ 小学生以上に期待される、トランスメディア

小学生以上になるとトランスメディアの幅が広がる。子どもがタブレットなどを自主的に使い、テレビシリーズに連動したネットコミュニティを作るという前提で、アプリやゲームが計画される。プロデューサーは番組やキャラクターの宣伝効果だけでなく、関連の収益増(錬金術)を期待する。
スペインのTomavistasと英国のRed Kite Animationとが共同製作する『Lala Transmedia』(対象:10~13歳)は、13歳の少女たちの第二次性徴や恋愛などを描くエデュテインメント・シットコムで2012年にエミー賞にノミネートされたテレビシリーズ『Ask Lala』のトランスメディア化。
好奇心旺盛な少女が世界の大都会で起こる難事件を愛ネコとともに解決する『Mirette Investigates』(対象:6~10歳)は、フランスのCyber Group Studiosが制作するテレビシリーズを基に、フランスの玩具メーカーKD Groupが独自開発した子ども向けタブレット/スマートフォン「Kurio」のアプリ等をスペインの子会社が開発する。子どもが3Dプリンターで玩具を作れるスマート玩具も含める、文字通りのトランスメディアだ

■ トランスメディア対応に意見が分かれるテレビ局

プロデューサーと異なる視点を持つテレビ局もある。フランスの有料放送局のマルチメディア部門責任者はセカンドスクリーン、特にプリスクール向け放送にARなどを連動させるのに懐疑的だ。
「幼児がテレビを見ながら、幼児の手には大きなタブレットで何かをする」というのは無理がある。「放送の開始前も放送中も、幼児のネットコミュニティを作ろうとは思わない。アピールする相手は保護者」とする。就学年齢の6歳以上になると状況は変わるが、それでも「(嗜好、行動様式は)女児と男児で異なる。コミュニティ作りは簡単ではない」と指摘する。テレビ局も独自に技術を開発しており、「放送局がプロデューサーに期待するのは素材の提供」と言い切る。

一方、英国のCBBC(BBCの子ども専用チャンネル)は別の視点からプロデューサーに助言する。Cartoon 360の「インタラクティブメディアに適したストーリーテリング」というレクチャーで、CBBCのインタラクティブ部門のエグゼクティブ・プロデューサーのヤペテ・アシェル氏は、「プロデューサーというのは確固としたストーリーのフレームを創り、それを明確にインベスターやパートナーに伝えねばならない。オーディエンスに対しては、トランスメディアといえども、それぞれのプラットフォーム(かっこ内伊藤解説=メディア)で完成したエクスペリエンス(あるいは満足感)を提供しなければならない」とする。「ストーリーワールド(世界観)に接するオーディエンスは、それぞれのプラットフォームで見出した断片で満足する」からだ。
「最良のリンクはオーディエンス自身が作っていくもの」で、プロデューサーが提供するストーリーが「シナプスに点火し、オーディエンスの中に真の関係性が広がる」と、オーディエンスを置き去りにしたトランスメディアはあり得ないことを強調した。

[/アニメ!アニメ!ビズ/www.animeanime.bizより転載記事]

《オフィスH 伊藤裕美@アニメ!アニメ!ビズ/www.animeanime.biz》

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