本作の阿部記之監督とキャラクターデザイン・作画監督を務めた西尾鉄也氏、そして当時を知る『NINKU-忍空-』プロデューサー・スタジオぴえろの萩野賢氏の対談後編を届ける。
[取材・構成=細川洋平]
「NINKU-忍空-」 Blu-rayBOX 公式サイト
http://www.ninku-box.com/
■ デジタルアニメとセルアニメ、今と昔
―特に苦労したという思い出の話数をうかがえますか。
西尾鉄也(以下、西尾)
50話(「力を越えろ風助!最大空力!!」)です。とにかくコンテがてんこ盛りでした。
萩野賢プロデューサー(以下、萩野P)
いろいろやりすぎて怒られましたね。おおもとは阿部監督です。作画や撮影班のことをあまり考えずにコンテを切っていく(笑)。
―物語としてもクライマックスを迎える50話ですが、カットはどのくらいあったのですか?
西尾
一時期10000枚を超えて、処理しきれないからと言って9000枚か10000枚ジャストぐらいに収めたと思います。
萩野P
今のデジタルでは珍しい枚数ではないんですよ。素材ごとに絵をバラせば枚数は増えますから。でも当時はセルだから重ねずに、一枚当たりに相当描き込んでいるんです。さらにキャラクターたちはすごく動いてる。
何より天空龍ですね。今だったらCGに変換すればいいですが、その頃はリスマスク透過光という手間のかかる手法でエフェクトを表現していました。天空龍が暴れると枚数も手間もとんでもなくかかるんです。
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一監督もかなり大変だったのではないでしょうか。
阿部記之監督(以下、阿部)
その辺は深く考えてなかったんでしょうね(笑)。ただ、今よりずっとシンプルだったんですよ。今はひとつのカットに作監、アクション監督、総作監、その上にキャラデが修正を入れたりと細かく直していきます。もちろん質を上げるために必要な工程ですけど、遊びを入れる箇所はなかなかない。昔は制約のある中でも、作監が自分流に描いていたんじゃないかと思うんです。
西尾
そうですね。
阿部
撮影も一カット撮るのに一日かかったりするので一発勝負で。今は全部リテイク(撮り直し)が出せる分、かえって大変というか。
西尾
作画に関してもそうですよ。デジタルだと実際の絵を見て「直そう」ができちゃう。アナログ時代の作監チェック、演出チェックは職人技だったと思います。できあがりを想定してやっている。もちろん善し悪しはありますが、あの頃からずいぶん変わりました。
■ 作品から生まれてくる才能たち
―『忍空』では印象的なアクションシーンが随所に出てきます。ああした殺陣は作画ではどのように組み立てるんですか?
西尾
絵コンテ上に「アクションよろしく」って描いてあるんです。それを描きたい人、得意な人が担当してあの画面になっています。その辺は今もあんまり変わらないと思います。描きたい人、描ける人、うまい人にやってもらえたから今も印象に残って語られるんです。
阿部
いきなり『忍空』のアクションに行き着いたわけじゃないんですよね。『幽白』の初期はみんな手探り状態でした。やっていくうちに西尾くんみたいな人が育ったり、集まってきた。『忍空』はその流れから一番いい感じにスタッフが揃っていた頃なのかも知れないですね。今見たらすごい人が原画マンで名を連ねていますから。
萩野P
『幽白』の途中から「好きなことができそう」と考えた人たちが集まってくる流れはありましたね。
西尾
ぴえろの伝統ですよね。見ている側でしたけど『うる星やつら』も、シリーズの途中からアクション系のアニメーターが大挙して参加して作品の方向性まで変えちゃいましたから。
阿部
西尾さんに聞きたいなと思っていたんだけど、『忍空』の時に「忍空走り」ってやってたじゃない。今も「忍者走り」とか「NARUTO走り」って言われているやつ。元は何かあるの?
西尾
吉原正行さんが『ナイフの墓標』で描いたやつですね。一般的なイメージで言うと『カムイの剣』で忍者が手を振らずに下半身だけで走っているというのがあると思うんですよ。冒頭の回想シーンで死んだお兄さんがそうやって走っている。あそこからスタートして今に至っているんだと思います。
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