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手塚の名作「ドン・ドラキュラ」おませな娘と心配性なお父さん、良質のエンタテインメント

手塚治虫の名作『ドン・ドラキュラ』が初の舞台化。本来のドラキュラのイメージとは違うドタバタコメディ、良質のエンターテイメント作品となった。

連載 高浩美のアニメ×ステージ/ミュージカル談義
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■しょっぱなから大笑い、ドタバタコメディ、キャスト、弾けまくり!
「皆で試行錯誤しながら作ってきて、本当に自身の持てる作品に仕上がっています」(橘ケンチ)

まずは早めに劇場に到着することをおすすめしたい。ロビーから客席に行く扉を開けると足元に枯葉が……進むと枯葉も多くなり、ホラー映画でよく観る柩も置いてある。始まる前から”ドラキュラの世界へようこそ”状態だ。
客席は、始まる前はたいがいは明るいのだが、なんだか薄暗い。足元を気にしながら席に着く。風の音やらふくろうの鳴く声やらで、背後からドラキュラが現れるのではないかという雰囲気。なかなか粋な計らいである。

そして大きな雷鳴が轟き、幕が開く。さっそくドラキュラ登場、ピアノの重層な調べにのって踊る、舞う。ここは流石の橘ケンチ、冒頭から魅せてくれる。モノトーンの衣装に身を包んだダンサー達が合流し、群舞。なかなかエンターテインメントな滑り出し。お決まりの血を吸うシーン、なんと”マネキン”、がっかりするドラキュラでのっけから笑いを誘う。楽しいオープニングである。

そして何故か”ホームドラマ”なシーン。娘・チョコラがTVを観ているが、その番組を観てる娘に対して小言を言うドラキュラ。娘に干渉しすぎの口うるさい父親ぶりとド派手なルックスのギャップが可笑しい。チョコラは神田愛莉が演じるが、なんだかそこらへんにいるちょっと小生意気な小学生な雰囲気でお父さんとよいコンビだ。
練馬区に引っ越しした理由は”美しい女の生き血が吸えるから”だそうだが、なんだかガセネタっぽくて笑える台詞だ。見た目はいかにも”私は恐いドラキュラです”感だが、根は優しく、人間との共存を説いている。そしてひょんなことからブロンダという押しの強い”ブルドーザー”のような女性につきまとわれ、逃げても逃げ切れない。とにかくしょっぱなから客席は大笑いだ。TVに出ている美女に会いにTV局へいくも本物のドラキュラだとは思ってもらえず、かなりナルシストな”ドラキュラ役者”にダメだしされる始末。このドラキュラ役者演じる根本正勝が弾けまくって面白すぎるくらいだ。

チョコラは学校に通い、ボーイフレンドも出来る。お父さんは心配でたまらないが、そのオタオタぶりがちょっと哀愁漂う。父親をうっとおしいと思う娘、決して父親が嫌いな訳ではない。そんな時に担任の先生の家庭訪問を受ける。その先生に胸キュンし、それが使用人にばれる下りは微笑ましい。
このドラキュラを退治しようとする宿敵・ヘルシング。演じる池田鉄洋、その”イッちゃってる”ぶりが可笑しく、姑息な悪だくみもばかばかしさ満点。

笑いあり、ちょっとホロリとくるところもあり、1幕もので物語はスピーディーに展開。橘ケンチ以下、皆、役柄を楽しんで演じているのが伝わる。クライマックスではドラキュラが娘のために捨て身になって戦うところは感涙。人間vsドラキュラという対立関係ではあるが、そうはなりたくないと願うドラキュラ伯爵。そして父と娘の関係性、父親は娘を想うが、どうしていいかわからない。
対する娘もお父さんは好きだけど、なかなか理解してもらえない。その距離感も上手く描かれており、そのもどかしさは共感出来るところだろう。クスリと笑えたり、あるいはナルホドな台詞が散りばめられ、脚本・演出の力量を感じる。今度は違うエピソードでまたドラキュラ親子たちに会ってみたいものだ。
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《高浩美》

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