インタビュー後編では、シリーズ構成の岡田麿里にとっての「ホラー」の原体験や、この作品ならではの制作過程、佐藤順一監督とのやりとりを伺いながら、これから少年少女たちが向かっていく先を語ってもらった。
[取材・構成:上田繭子]
『M3~ソノ黒キ鋼~』
/http://m3-project.com/
―アニメ!アニメ!(以下、AA)
岡田さんにとって、都市伝説やホラーの原風景みたいなものはあるのでしょうか。
―岡田麿里(以下、岡田)
ギリシャ神話のオルフェウスの話で、亡くなった奥さんを冥界に連れ戻しにいって「地上に着くまで、決して振り返ってはいけない」と言われたのに、振り返ってしまう、というのがありますよね。日本のイザナミとイザナギもそうですが、私のなかのホラーって「最後の最後に自分でダメにしてしまう」という恐怖なんです。結局は自分が怖いというか、「憎むべきは自分」というか。そういう気持ちを、なぜか分らないですが小さい頃からずっと持っています。
―AA
すごく納得できる気がします。『M3~ソノ黒キ鋼~』で、エミルが追い込まれるのもそういう種類の恐怖ですよね。
―岡田
自分自身が生み出したものに、身を滅ぼされる。あのあたりのシーンを書いていて「これ、分かるなぁ」と思いました。私、お化け屋敷が大嫌いなんですよ。特に作りが雑なものほど怖くて(笑)。「あの辺で何か来る」と想像がつくから逆に怖くて、前に歩けなくなってしまう。お化けというのもほとんどは、思い込みで見えるものですよね。でも、そう思い込まされる状況の怖さというのもあって。エミルの場合も、最終的にジャッジするのは自分だけど、その自分が間違ってしまうんです。
―AA
エミルは佐藤さんお気に入りのキャラだそうですね。
―岡田
「エミルが可哀想なんだけど、なんとかしてよ」と相談されたことがあって、「こういうこと言うんだな」と、ちょっと微笑ましかったです。あのサトジュンは白かったですね(笑)。
エミルは一番先に、わかりやすく不幸を背負わされる女の子。エミルの心の叫びを書いているところでは、佐藤さんが「幸せにならなきゃ、割に合わない」という方向にしたい、とおっしゃって。それまで私は「のしあがって見返してやる」と書いていたんですけど(笑)。
―AA
そっちのほうが岡田さんっぽい気がしますね(笑)。
―岡田
バカにしてきた奴は足蹴にしてやりたい、みたいな(笑)。でも、佐藤さんはそういう考え方をするんだ、と分って面白かったです。私よりも建設的だなと(笑)。
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―AA
物語のヒロインは、ササメなんですよね。
―岡田
そうですね。ササメは1話には出てこなくて、本格的に登場する話数を担当しているのが大西(信介)さんです。もちろん「こういう子です」という発注メモはお渡ししているのですが、思っていた以上にいい子っぽくなっていて驚きました(笑)。
話の内容は自分で考えたはずなのに、キャラはその子が発した言葉によって変わっていくものなので、初めてササメを自分で書いた時は「この子のこと、私は何を知ってるんだろう」と不思議な気分になりました。ただ、おかげでどういうキャラクターなのか、逆によく分かるようになったんですけどね。
もともと、ササメは心が美しくて、アカシを分かってくれる、癒しになる人で、ヒロインらしいヒロインというイメージ。そんなササメにアカシが惹かれていくことで、少しずつ影響を受けていきます。
―AA
女性キャラでいえば、マアムの根暗っぽいところもいいですね。
―岡田
ライヴ感を重視した作品づくりとはいっても、全体として「静かに流れているこの作品らしさ」のようなものを多少は決めておきたくて。それがマアムで、個人的にはヒロインらしい女の子だと思ってます。彼女にはナレーションを担当してもらっているのですが、その内容が彼女の書いている小説と少しずつ重ね合わされていきます。
8人の少年少女は、口に出さなくても気持ちが通じ合ってしまという描写があって、それがこれから物語の軸になっていくなかで、マアムが敢えて気持ちを文字にして、相手に届くようにしているのは、どうしてなのか。人と人が通じ合うことが良いことなのか、悪いことなのか。それは、戦闘における設定としてだけでなく、これから物語が進んでいくなかで1つのテーマにもなっていきます。
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