北海道の農業高校を舞台に、酪農と青春を題材にこれまでにないエンタテインメントを確立した。単行本は1300万部突破の大ヒット、テレビアニメ化もされた話題作である。
本作の実写映画化に挑んだのが、『純喫茶磯辺』、『ばしゃ馬さんとビッグマウス』、『麦子さんと』などで注目を浴びる吉田恵輔監督である。本作では派手なアクションもラブストーリーもない、汗と涙と泥にまみれた酪農に挑む青春を、新感覚のエンタテイメントに仕上げた。
『銀の匙 Silver Spoon』に取り組んだ吉田監督に、映画のはじまりから現在までを伺った。
『銀の匙 Silver Spo』
2014年3月7日全国東宝系ロードショー
/http://www.ginsaji-movie.com
■ やりたいことや、空気感が近かった原作
-アニメ!アニメ!(以下AA)
『銀の匙』の映画を撮る話が、最初にあったのはいつ頃ですか?
-吉田恵輔監督(以下吉田)
2012年の末ぐらいだったと思います。クランクインが2013年8月で、そこから一年もなかったです。ちょうど『ばしゃ馬さんとビッグマウス』の撮影が終わるかぐらいの時でしたね。
-AA
『銀の匙』の話をもらった時の感想はどうでしたか? 監督はこれまで原作のある作品はなかったと思います。
-吉田
原作ものも話は頂いていたのです。縁がなかったんです。必ずしもオリジナルにこだわり続けている訳ではないですね。荒川弘先生のファンですので、マンガも知っていました。
内容に関しては100点です。あとは「俺にこれができるか」という不安でしかなかったです。逆にいま一番注目されているマンガなので、「俺でいいんですか」という気持ちです。
-AA
監督のいままでの作品と、『銀の匙』のテーストは似ていると思ったのですが。逆に「俺ならできる」という思いはありませんでしたか?
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内容については思いました。やりたいことや、空気感は近く、それを描くのは他の監督より俺だなと思っていました。ただ、自分自身は全国公開といったカラーでないと思っていたんです。そこだけですね。
面白い作品に出来るという根拠のない自信はあったんです。
■ 『銀の匙』は主人公の八軒の物語
-AA
原作を読まれていたということですが?
-吉田
『鋼の錬金術師』が好きだったので、荒川弘先生はすごい人だというのがありました。『銀の匙』も連載中から読んでいたので内容は分かっていました。
ただ話をいただいた時点では、原作は序盤なイメージがしました。その後、メインキャラクターのひとりである駒場が離農するといった大きな出来事が連載の中で起きました。
-AA
序盤かも知れないとありましたが、とはいえマンガであればかなりの厚さと量があります。これを一本の映画にまとめるのは、原作ものの常とはいえ大変な作業です。
-吉田
物語の見せ場はいろいろあります。子豚の“豚丼”のエピソードをひとつとってもですね。
この物語は主人公の八軒の物語なので、八軒がどう成長していくか、何を経験して、どう考え方が変わっていくかだと思います。
-AA
原作の魅力はどこにあったと思いますか。
-吉田
成長物語として読みましたが、同時にいままで描かれなかった酪農の現実をエンタテインメントも含めて描いていることです。
荒川先生は『鋼の錬金術師』をあれだけヒットさせているからですが、この企画を最初に立てたら普通は絶対に誰も手を上げないと思うんです。でもフタ開けるとエンタテインメントになって、累計発行部数1200万部になる。
八軒と他の人たちのセリフだったり、複線の回収のしかたがすごく秀逸だなと思います。
-AA
逆に映画にする時に、ラブロマンスでもなく、アクションでもない作品にメリハリをつけるのは難しくないですか?山場の作り方は意識されるのですか?
-吉田
最初に考えたのは、この映画をどう終わらせるかです。いわゆる映画的クライマックスは何かです。それを考えました。
マンガも読んでない人もいっぱい観にくるわけですから。映画としての終わりかたを考え、そこからさらに逆算する。途中で描きたいものはいっぱいありましたが、それを選択していく作業です。それは駒場と八軒、アキと八軒を描いていく作業です。