一方監督は、若手のドキュメンタリー監督として注目を浴びる砂田麻美監督、そしてプロデューサーは本作が初の映画プロデュースとなる川上量生氏である。こちらも注目度が高い理由だ。
公開に先立つ11月15日の夜には、本作に関連した記念トークが新宿バルト9で行われた。川上量生氏に、さらにプロダクション I.Gの石井朋彦プロデューサー、スタジオ地図の齋藤優一郎プロデューサーが加わったクロストークである。
石井氏は2012年に神山健治監督の『009 RE:CYBORG』をプロデュースしたばかり、作品そのものと同時に、新たな技術の導入や意表を突いたプロモーションでも話題を呼んだ。齋藤優一郎氏は、細田監督と共にスタジオ地図を設立、『おおかみこどもの雨と雪』の大ヒットで脚光を浴びた。今後の活躍が期待されるプロデューサーが集まったかたちだ。
「『風立ちぬ』『かぐや姫の物語』以降の日本のアニメの未来」と題した刺激的なものだったが、実際には『風立ちぬ』、『かぐや姫の物語』、『夢と狂気の王国』の感想や宮崎駿・高畑勲両監督の人物像が中心となった。トークは1時間以上にもわたったが、過去への言及が多く、日本のアニメやスタジオジブリの今後について、正面を切って語る場面はあまりなかった。
そうした話を、最も期待されたていたのは、現スタジオジブリ所属の川上氏でも、かつて所属していた石井氏でもなく、齋藤氏だったかもしれない。川上氏がストレートに突っ込んだように、『おおかみこどもの雨と雪』への大きな支持はポストスタジオジブリを思い起こさせるからだ。
これに対して齋藤氏は、「スタジオのカラーも、作品も、時代も、一緒にやってくれる人も違う」と話す。「新しい人達と新しいチャレンジをしたい」という。
一方で、細田守監督作品の強さは、スタジオジブリ的なものを目指さないことに逆にあるのかもしれない。それがむしろ逆説的に、ポスト宮崎駿、ポスト高畑勲とみられる理由にあるのでないか。
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ポストスタジオジブリというと誤解を招くところもありそうだ。スタジオジブリはすでに今後のラインナップもある。11月23日には『かぐや姫の物語』が公開されるが、プロデューサーは若手の西村義明氏だ。
監督では、宮崎吾朗氏、米林宏昌氏が活躍を始めている。ポストスタジオジブリは、スタジオジブリという見方も出来る違いない。ただ、こうした状況への言及が少なかったのはやや残念だ。
逆に印象的だったのは、作品そのものへのトークが多かったことだ。『かぐや姫の物語』の革新性やみどころ、『夢と狂気の王国』の演出について興味深い話が続出した。プロデューサーは、そもそも映像作品が好きな人たちという当たり前の事実に気づかされる。
同時にそこにはプロデューサーらしい客観的な視点もある。石井氏は『夢と狂気の王国』について「いままでスタジオジブリのドキュメンタリーは全部観てきたが、そのどれとも違う。初めてスタジオジブリに来た人が感じるキラキラとした印象が描かれている」と評する。
一方で、あまりにも綺麗すぎるとも話す。実際にはもっと闇があるのでないかと。ものを作る人と真っ直ぐに対峙する場所であるスタジオは、プロデューサーにとっては夢というよりも狂気の側面がより強いのかもしれない。
今回の登壇者は、今後もアニメ業界で様々なかたちで関心を集めるに違いない。そうした過程を得て、彼らが5年後、10年後、20年後、どこにいるのか想像してみたくなった。
それがおそらく日本アニメの未来の姿のひとつになるのでないか。今後の日本のアニメの進む方向を夢想させる、そうした意味ではタイトルどおりのトークであった。
[数土直志]
『夢と狂気の王国』
/http://yumetokyoki.com/