メーカー魂―
三起社の工場長石井さんを訪ねて(1)
■ 数井浩子(アニメーター・演出)
「アニメーターにとって大事なツールを5つ上げてください」
と聞かれたら、「動画机」「鉛筆」「鉛筆削り」「タップ」「動画用紙」と答える。「動画机」とはアニメ制作用の特注品で、学童用の学習机のように机に棚がセットになっている机だ。棚は細かく分かれていて、上がりカットや動画用紙や資料を置くようになっている。
この動画机を40年間作り続けてきたのが、「三起社(さんきしゃ)」という目黒のメーカーである。三起社の注文は、電話かFaxのみだが、電話がつながりにくいことでも有名だ。
しかし、出来上がった製品は毎回、工場長みずから配達し、組み立て、設置もしてくれる。時には机の薀蓄も語ってくれることもあるという。どうやら動画机への愛に溢れたアツいメーカーらしい。いったいどんな会社なのか。昼イチで電話をかけてみた。
■ 「工場は川崎なんですよ」―三起社への道は遠かった
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その後、タクシーで三起社に向かう。駅前の繁華街を抜け、住宅街を抜け、10分ほど走ると、グレーのトタン塀の並ぶ倉庫や町工場が見えてきた。タクシーがスピードを落とす。
細い路地に面した工場をひとつひとつ見ていくと、路地のつきあたりに間口二畳くらいの建物がある。よくみると、入口に「三起社」の金属の札。二階から三階へは外階段があり、かなり細長い建物である。机を作る工場にしては天井が高くないかしら? たまたま狭い土地だったのか? 三起社は謎だらけである。
扉が開く。「ようこそ、遠いところを!」石井昭(いしい・あきら)工場長がにこやかに迎えてくれた。
■ 三起社の工場はただの机制作工場ではなかった!
工場長の石井さんに案内され、作業所のなかに入る。一階と二階が制作スペースになっているようだ。30畳ほどの一階のスペースの半分を占めていたのは、年季の入った金属加工機材、そのまわりに金属やねじ、工具がきちんと整理され棚に収まっている。
二階に上がると、おなじみの動画机がバラバラの板の状態でサイズごとに並べられている。さらに階段を昇りながら上をみると、天井の一部はとりはずしてのできるビスで止めてある。吹き抜けにもできるようだ。
「あ、一階と二階はね、天井を外さないと作れない撮影台があるからね」。不思議そうな顔をしている私に、お茶をすすめながら石井さんはにこやかに三起社の歴史を話しはじめた。
お話は三階の事務所で伺った。事務所にある工場長の机は、なんと特別にカスタマイズされた動画机である。アニメーターよりも動画机を愛してことは間違いない。
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