七色の声を持つ男 山寺宏一が苦戦? 「シュガー・ラッシュ」“声”の秘密
山寺宏一さんは、数多くのキャラクターに命を吹き込んできた。その山寺さんが驚いたというのが「シュガー・ラッシュ」のラルフだ。「最初に観て『“これ”がディズニー映画の主役なの?』って思いましたよ」。
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「だって、ほかの作品を例に出して悪いけど『ジャイアンやゴリライモが主役って言われても…』って思うでしょ(笑)? いくらディズニーとはいえ、お客さんのハートをこれで掴めるの? って心配になりましたよ」と山寺さんはラルフ、そして作品そのものに対する偽らざる第一印象を明かす。
だが、そんな危惧は全くの杞憂に終わった。「そう思ってた僕自身が作品を観たらガッチリハートを掴まれましたからね(笑)」。これは、とりもなおさず、映画公開時に劇場に足を運んだ観客の大多数の感想でもある。最もディズニーの主役らしからぬ“悪役”を主人公に据えた『シュガー・ラッシュ』がなぜ「ディズニー作品有数の感動作!」との評価を受けるようになったのか? ブルーレイ&DVD発売を記念してラルフの日本語吹替えを務めた山寺さんに話を聞いた。
物語の舞台は様々なゲームが並び、子どもたちで賑わうゲームセンターの“内部”、つまりゲームの世界。30年にわたって愛され続けてきたあるゲームの悪役を務めてきたラルフだったが、人々に嫌われる悪役ではなく自分もヒーローになりたい! という思いを胸に自分のゲームの外の世界へと旅立つのだが…。
クッパ(「スーパーマリオブラザーズ」)にザンギエフ(「ストリート・ファイター」)にグズタ(「パックマン」)など、誰もが一度は見たことがある人気ゲームのキャラクターたちが意外なところで登場するのを始め、様々な仕掛けで楽しませてくれる本作だが、感動の“源”となるのはやはり、異色の主人公・ラルフの存在。山寺さんはラルフの魅力、物語の見どころをこう語る。
「ラルフは悪役を演じているんですよね。短気な荒くれ者ではあるけど、寂しがり屋でナイーブ。僕らと変わらないごく普通の感性を持ってるんです。そんな彼が『オレもヒーローになれるはず!』と飛び出すんだけど、いろんな出会いや経験を通じて『ヒーローとは何なのか?』と学んでいく。そこがいいんですよね」。
特に山寺さんが「さすがはディズニー!」と絶賛するのは、冒頭のラルフの独白。
「一見、悪人に見えて実はその心の内は…という物語と聞くと、最初はエラそうなところから入って、徐々に弱いところを見せるという構成になりそうだけど、いきなりラルフの独白で彼の弱さを見せちゃう。そこでグーッと引き込まれるんです。そこからいろんな人と出会いを経て変わっていくのを見せるというところは、本当に素晴らしいと思います」。
この冒頭シーンは、山寺さんがラルフの声を作り込み、自分のものとする上でも重要なシーンとなったという。“七色の声を持つ男”とまで称される声優界の第一人者である山寺さんだが、いったいどのようにキャラクターを作り上げていくのか? プロの仕事の一端を明かしてくれた。
「基本的には今回のような仕事の場合、すでに映像もオリジナルの音声も存在しているので一から作る必要がなく、日本語版として当てはめていくという作業です。では自分が持っている声の幅の中でどんな声の持ち主にするのか? 最初は悪役であることを意識し過ぎてたんです。見た目のゴツさ、テキパキというよりももっそりとした感じをイメージして喋ってみたんですが、吹替え版の監督から『もう少しナチュラルに。あまり愚鈍な感じを出し過ぎずに』と指示されて、少しずつ調整していきました。そのさじ加減は本当に難しかったです。特に最初の独白シーンでラルフとしての基本線を固めて、あとはシーンによって強弱を出していくんですが、最初の部分だけで全体の4分の1くらいの時間を費やしましたね」。
本作は劇場公開時は吹替え版のみで上映された。今回発売されたブルーレイ&DVDでは当然、オリジナルの英語版を観ることもできるが、2つを見比べてみるのも面白い。山寺さんを始めとする吹替え版の声優陣がいかに素晴らしいか、職人芸とも言えるスキルの高さを感じられるはずだ。
「どちらが優れているなんて言うつもりも必要もないですが、やはりこれだけの緻密な映像であり、本当にいろんな細かい仕掛けや隠し技があちこちにありますからね。それをふんだんに楽しんでもらうという点では吹替えの方が情報量的に楽というのは前提としてあります。もちろん、キャラクターにピッタリの声じゃなきゃせっかくの映像や物語が台無しになるけど、今回の声優陣は見事にハマってると思います。特にヒロインのヴァネロペを担当した諸星すみれちゃんは中学生なんですが、作っていないリアルなそのままの感じと達者な技術を兼ね備えていて素晴らしい! オリジナル版のヴァネロペもメリハリが効いた良い声ですが、吹替え版は日本の観客がヴァネロペをより身近に感じられて、思い入れを込めやすくなっていると思います」。
主人公だけではなく、悪役やほかの脇役など“役割”の重要性。それは劇中のゲームの話だけでなく、現実の仕事にも置き換えられる。声優という仕事もまさに様々な役割によって成り立っている。山寺さんも「いまでは僕もやりがいのある役をいただけるようになりましたが、若い頃、仕事を始めたばかりの頃は“その他大勢”ばかり。いい役なんて回ってこなくて『ちくしょう! メインの役をやらせろ!』って思ってましたよ」と明かす。
そうした小さな役を積み重ねながら着実にステップアップを果たし、いまではファンの信頼はもちろん、TV番組などでのアンケートで同業の声優陣からも“No.1声優”と称賛されるまでになった。そんな状況にも当人は「偉大な先輩方と才能豊かな若手の間で板挟みですよ(笑)」とおどけるばかり。
「TVで同業者のみなさんから1位に選んでいただいたときはね、本当に『もう死んでもいい』って思いましたよ。それくらい嬉しかったです。でもね、未だに名吹替え作品と呼ばれる作品の多くは先輩方がやって来た作品ばかりで、まだまだ僕には追いつけない。僕より上の世代は本当に名優がゴロゴロいて、映画がつまらなくても、吹き替えの力で面白くしたって伝説がいっぱいありますから(笑)。かと思えば、『キャーッ』と騒がれるスター性を持ったいまの若い世代というのも本当に素晴らしい。そう考えるとどんなに褒められても油断できないし、そんな状態がまたオレを発奮させるんですよね」。
声優としての理想は、誰が声を当てているのかなど気にせずに観客に作品を楽しんでもらうこと。「でも後から誰なのかが気になって調べたら『あ、山ちゃんか』というのがいいですね」と笑う。
オリジナルを大切にするというのは日本の観客の映画の楽しみ方として誇るべきところだが、日本の声優のスキルの高さもまた同様に誇るべき文化である。ディズニー・アニメーションという最高の素材でその素晴らしさをぜひ体感してほしい。
<ブルーレイ&DVD情報>
【発売中】
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価格:6,090円(税込)
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【発売日:8月21日(水)】
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価格:3,360円(税込)
“七色の声を持つ男”山寺宏一が苦戦? 『シュガー・ラッシュ』“声”の秘密
《photo / text:Naoki Kurozu》
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