コンテンツ制作の新たな可能性「クラウドファンディング」、国内4社が一堂に 黒川塾レポート | アニメ!アニメ!

コンテンツ制作の新たな可能性「クラウドファンディング」、国内4社が一堂に 黒川塾レポート

サイバーエージェント・ベースキャンプにて「黒川塾(八)」が行われた。毎月、恒例となっている黒川塾。これまではゲーム業界のキーマンを招き、様々な議論が行われてきましたが、今回のテーマは「クラウドファンディング」だ。

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サイバーエージェント・ベースキャンプにて「黒川塾(八)」が行われました。毎月、恒例となっている黒川塾。これまではゲーム業界のキーマンを招き、様々な議論が行われてきましたが、今回のテーマは「クラウドファンディング」です。

クラウドファンディングとは、何かを実現したい起案者がインターネットを通して個人から資金を調達する手法、及びサービスです。昨今では、アメリカのKickstarterが急激に成長して注目を集めており、その話題は日本にも多数伝えられております。今回の黒川塾では、国内のクラウドファンディング・サービスを運営する4社が一堂に会して、日本国内でのクラウドファンディングの将来について議論を行いました。

■国内外で著名な映画のプロジェクトが実現、MotionGallery大高健志氏

最初に紹介されたのはMotionGalleryを運営する大高健志氏。1983年、東京生まれの大高氏は、外資系コンサルティング会社でメディア業界の事業戦略立案、新規事業立ち上げなどに従事、その後、大学院に進学して映画製作を学んだそうです。大学院ではクリエイターを目指していましたが、映画製作の資金調達の苦労を知り、現在のMotionGalleryを立ち上げたそうです。

MotionGalleryのサービス面での特徴は、やはり映画のプロジェクトに強いという点です。イランの著名な映画監督のアッバス・キアロスタミ氏の映画製作、郵便局員と図書館司書の夫妻が世界屈指のアートコレクターとして活躍したドキュメンタリー映画「ハーブ&ドロシー」の続編など、世界的に話題を集める映画のプロジェクトがMotionGalleryにおいて資金調達を成功させています。

このようなクラウドファンディングにおいて成功するプロジェクトのモデルとして、大高氏は2つの事例を指摘しました。一つはカンヌ映画祭でパルムドール(最高賞)を受賞しながらも、国内での上映が危ぶまれた「パリ20区、僕たちのクラス」、もう一つは東日本大震災後に見直された自然エネルギーによる発電です。これらの事例はクラウドファンディングのサービスなどを利用したわけではありませんが、現状のビジネスのシステムでは回らないプロジェクトに、一般の「生活者」が参加することで実現可能になるという点で、共通点を持っていると大高氏は指摘しています。

またMotionGalleryも含め、今回集まった4社はすべてプロジェクト側が出資者に対して返済義務のない「誓約型」のクラウドファンディングです。これらの誓約型クラウドファンディングは、出資者に直接的な利益を還元するのではなく、何かの特典や報酬を与える形のものです。そのため従来のファンドなどと異なり、プロジェクトの起案者が自身のクリエイティビティを100%発揮できるのが、誓約型クラウドファンディングの特徴であると、大高氏は述べています。

さらにMotionGalleryは映画だけではなく、ゲームやアニメ、音楽といったクリエイティブなプロジェクトを幅広く支援していく予定だそうです。現状は映画に関心が高いユーザーが多いといいますが、それらの層が他のジャンルにも興味を持つように新しいファン層を作って行きたいと、大高氏は展望を述べています。またサービスの手数料が10%とクリエイターにやさしいのがMotionGalleryの特徴であるそうです。

■ユニークなプロジェクトが多い、CAMPFIRE石田光平氏

株式会社ハイパーインターネッツの代表取締役の石田光平氏は、現在、総支援流通額が約1億5000万円、総支援者数が約20000人と日本最大規模のクラウドファンディング・サービスであるCAMPFIREを運営しています。もともとゲーム会社において農業のオーナーになる『農力村』というユニークなサービスを運営していた石田氏は、似たようなビジネスをクリエイティブの領域でもできないかと思い、2011年1月に家入一真氏とCAMPFIREを立ち上げたそうです。

CAMPFIREの特徴は「クリエイティブ」と「日本」という点に特化しているところです。ゲームといったプロジェクトはもちろん、お笑い、ガジェットなどのプロジェクトが盛り上がっているそうです。具体的には、面白いが実用性が低い鼻型のコンセントタップ、メッセージが届くとスマートフォンから匂いが香る装置など、ユニークなアイデアが資金を集めているそうです。

石田氏は、そのようなクラウドファンディングを従来の資金調達の手法と比較して、個人が出資を行いつつも、低額から高額までスケールする手法として説明しました。これまでは法人が高額の出資を行なうヴェンチャーキャピタルやファンド型の投資、銀行が個人や自営業者に行なう少額の融資などは存在していましたが、クラウドファンディングは個人が少額から高額まで幅広い投資を行なう手法です。

実際に単に商品の製造だけではなく、ユーザーの声から開発された車椅子の「WHILL」や手書きで炎や煙のCGを制作できるアプリ「Sparta」などのプロジェクトでは、その後、法人化されており、ベンチャー企業のスタートアップとしてもクラウドファンディングは利用されているそうです。

■社会問題の解決のために、READYFOR?米良はるか氏

三番目に紹介された米良はるか氏は、今回のゲストでは最年少の87年生まれですが、慶応大学を卒業後、スタンフォード大学に留学、2011年に国内初のクラウドファンディング・サービスのREADYFOR?を立ち上げました。また世界経済フォーラムにおいて2011年のグローバル・シェイパーズに選出、日本人史上最年少でダボス会議に参加したそうです。

READYFOR?の特徴は、他のサービスと比べて、社会問題を解決するようなプロジェクトが集まっていることだといいます。もちろん音楽や映画などのクリエイティブなプロジェクトもありますが、そういったプロジェクトにおいても、「音楽業界どうなっていくのか」、「映画業界はどうなっていくのか」という関心からプロジェクトを起案する人が多いそうです。

具体的には、「福井人」という地域密着型のガイドマップの制作プロジェクトでは、地域の方に支援をしてもらい地元の書店で流通することで、地域のコミュニティの活性化につながっているそうです。また震災の被害にあった陸前高田の図書館に本を贈ろうというプロジェクトには、862人という多くの出資者が集まり、少額ながらも800万円というREADYFOR?で最高額の資金調達に成功したそうです。

これらのプロジェクトでは、支援者の名前をガイドマップや本に記載することで、支援者がプロジェクトに参加した感覚を持ってもらうことにつながり、単なる商品といった報酬ではないリターンがあるのが特徴だと、米良氏は指摘しています。FacebookやmixiといったSNSで支援者が自分の支援を報告したり、プロジェクトのページに情熱的なコメントを残したり、社会貢献につながるプロジェクトならではの支援者の思いの強さがあるといいます。

そもそも米良氏がREADYFOR?を立ち上げるきっかけとなったのは、パラリンピックのスキー種目で活躍する荒井英樹監督との出会いにあったそうです。荒井監督は多くの優勝者を輩出しながらも、渡航費などのコスト面で活動が困難になっていく状況があったそうで、2009年に学生であった米良氏はインターネットで寄付のサイトを作ったそうです。しかしながら、単なる寄付のサイトで資金調達を行なうのは難しく、いかにして支援者を集めるか、いかにして楽しみつつ出資してもらえるかなどを考えた結果が現在のREADYFOR?につながっているそうです。

そのため、READYFOR?ではエシカルなプロダクトや社会起業家のスタートアップがプロジェクトとして注目を集めていますが、今後はクリエイティブなジャンルでも個人の思いを実現して、気軽にチャレンジができるような環境を作っていければと、米良氏は展望を述べています。

■アニメーションに特化したクラウドファンディング、Anipipo平皓瑛氏

最後に紹介されたグーパ株式会社代表取締役社長兼CEOの平皓瑛氏は、アニメーションに特化したクラウドファンディング・サービス「Anipipo」を目下、準備中です。1985年生まれの平氏は、小学校から高校卒業までシリコンバレーに在住した経験を持ち、アメリカでピクサーやジブリなどのアニメーションを見て育ったそうです。その後、東京工芸大学にてアニメーションを学び、一時期はクリエイターを目指していましたが、アニメーション業界の現状を知り、Anipipoを立ち上げに至ったそうです。

平氏が知ったアニメーション業界の状況とは、世界的に認知度の高い日本のアニメーションですが、実際の現場では20代の離職率が80%、平均年収が100万円という過酷な労働環境のことです。実際にアニメーション会社に就職しようとした平氏は、大学の教授から最初の月収は6万円程度だと言われて躊躇したといいます。このような業界の状況を打破するために、クラウドファンディングが利用できると平氏は考えています。

Anipipoは5月にベータ版をローンチする予定ですが、目下、決済サービスのためにPayPalと交渉中。というのも、クラウドファンディングのサービスが増えてきたため、PayPalは決済の信頼性のために審査を以前以上に厳密に行なっているそうです。

Anipipo以前にクラウドファンディングで資金調達に成功したアニメーションのプロジェクトとしては、日本のProduction I.Gの『キックハート』という事例があります。湯浅政明氏が原作と監督、押井守氏が監修を担当するこのプロジェクトは、20万ドルという資金調達に成功して話題を集めました。また映画監督のデヴィット・フィンチャーの新作アニメーション映画「The Goon」も40万ドルの資金調達に成功しています。

このようにアニメーションはグローバルな市場をターゲットとしたメディアであるため、Anipipoは現在、東京とバンコクの2拠点でサービスの準備をしており、900名の事前登録者数の半分は国外の人だそうです。また、単なる資金調達のプラットフォームだけではなく、流通や海外展開の窓口としての役割も果たす予定であり、プロジェクトのページはAnipipo側が英語化するといった試みが他のサービスとは異なる特徴です。さらにアニメーションそのものだけではなく、関連した商品のマーチャンダイズやイベントなども行なっていく予定です。

■クラウドファンディングを取り巻く日本と海外の違い

以上、日本でクラウドファンディングを運営する4社の紹介がなされ、黒川氏はエンターテイメント産業に従事した自身の経験から、クリエイティブなプロジェクトの資金調達の難しさについて触れました。従来の資金調達では、利益率や事業計画などコスト面での制約が厳しく、クリエイターが十分な力を発揮できるプロジェクトは少なかったといいます。しかしながら、クラウドファンディングを通して個人のユーザーに直接、企画の魅力を伝えて、少額の出資を広く求めることで、クリエイターの自由度が高くなると、黒川氏はクラウドファンディングを肯定的に捉えています。

とはいえ、Kickstarterを中心とした海外のクラウドファンディングでは、ゲームのプロジェクトを中心に100万ドルを超える資金調達が成功しており、日本ではその規模はまだまだ小さいと言えます。そのため、黒川氏はゲストに日本と海外のクラウドファンディングを取り巻く状況の違いについて質問を投げかけました。

CAMPFIREを運営する石田氏は、OUYAやOculus Riftといったゲームに関連するプロジェクトに関しては、一般の支援者だけではなく、エンジェル投資家が多額のお金を投資している点を指摘しました。そのため、海外のクラウドファンディングでは資金調達よりも、マーケティング的な側面の方が大きいのではないかと、石田氏は見ています。

実際に有力な投資家や影響力のある人物が出資を行なうと、一気にクラウドファンディングで資金が集まることが多いと、Anipipoの平氏は述べています。そのため、資金調達に成功するためにはキーマンとなる人物からの支援が非常に重要だそうです。

また、READYFOR?の米良氏は、単に起案者のSNSのフォロワーが多い、人気が高いといったことだけではなく、プロジェクトを実行するために本当に適切な人なのか、そのプロジェクトを実現する情熱を持っているのかといった点が重要であると指摘しました。大高氏はこれに同意しつつも、情熱と同時に周囲の人間を巻き込んでいく力が重要であり、Kickstarterなどではプロジェクトの起案者同士が支援しているのが非常に興味深いと語っています。

■起案者と支援者のコミュニケーションの重要性

黒川氏は以上の議論を踏まえ、今年のGDCにおけるクラウドファンディング関連のセッションについて報告しました。そのセッションでは、クラウドファンディングを利用する際のポイントとして、正しいゴールを設定する、どこを目指すかを明確にする、ファンを大事にするといった点が指摘されました。また実際にKickstarterで資金調達に挑戦した人からは、資金調達のキャンペーン期間中は出資者の要望にリアルタイムに応えていくため、オンラインゲームの運営のような忙しさだったといいます。そこで黒川氏は、そのようなユーザーとのコミュニケーションをいかに行なうかについて、ゲストに質問を投げかけました。

READYFOR?の米良氏は、プロジェクトの広報の窓口がFacebookのコメントなどで出資者とコミュニケーションを盛んに行なうことで、プロジェクトへの信頼感が増すと述べています。他方、CAMPFIREの石田氏はポジティブな応援コメントだけではなく、ネガティブなフィードバックに対応することもより良いプロジェクトの実現のためには重要であると指摘しています。

平氏もそれに同意して、海外のクラウドファンディングでは出資者の辛辣なコメントも多く、そこでのコミュニケーションによってより良いプロジェクトが実現することがあるといいます。しかしながら、日本では「言わずに感じる」という文化的側面があるため、「みんなハッピーだと思っていたが、フタを開けると残念」といった可能性が強く、起案者と支援者のコミュニケーションの重要性を強調しました。

さらにコミュニケーションの重要性という点で、大高氏は結局、プロジェクトに対する熱意や情熱とは「コミュニケーションの量」であるという指摘をしました。そしてコミュニケーションは、オンライン上だけではなく、オフラインでも行なう必要があり、それがプロジェクトの進捗報告として見えることで、出資者との信頼関係が生まれると主張しました。

黒川氏は最後に本日集まったサービスの比較表を提示して、ゲストはそれぞれ抱負を述べました。大高氏は、現在は企業がクリエイティブな挑戦を行なうのが難しいため、その隙間を埋めるためにクラウドファンディングは有用なサービスであると指摘しています。石田氏は、従来のファンドでは実現不可能なユニークなプロジェクトを応援して、世の中をもっと面白くしたいと述べています。米良氏は様々なテクノロジーによって誰でも新しいことに挑戦しやすい世の中になったため、そのようなチャレンジを後押ししていきたいと展望を語りました。平氏は単なる資金調達ではなく、クリエイターとファンのコミュニケーションを活性化させ、アニメーション業界自体が盛り上がり、クラウドファンディング自体も健全なものとして成長することに尽力したいと述べました。

コンテンツ制作の新たな可能性「クラウドファンディング」、国内4社が一堂に・・・黒川塾(八)レポート

《今井晋》

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