この講演会は、同美術館で4月11日から開催中の「井上雄彦 最後のマンガ展 重版[熊本版]」の一環として行われている連続講演会の5回目に当たる。
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『バガボンド』を題材とした「井上雄彦 最後のマンガ展」は昨年、上野の森美術館で初開催された。熊本市現代美術館での開催については、熊本が宮本武蔵終焉の地であることや、作者の井上雄彦氏が漫画家デビュー前に熊本大学に在学していたことなどの縁から実現した。
講演会では、まず大正半ばから順に流れを追った。大正の剣劇の描かれた漫画は、勧善懲悪で子ども向けとして分かりやすいものだった。その反面、描写が残酷でもあったため、昭和10年の中島菊夫の『日の丸旗の助』以降の作品では、教育の観点により剣を振るわずに策を巡らせて戦うなどの考慮がなされた。
また、昭和13年に政府が出した「児童読物改善ニ関スル指示要綱」や、第二次世界大戦後のGHQ統治下でも表現に制限が課される例があった。そして昭和28年に学校教育で柔道、剣道、相撲が正課となると、それに反映されるように翌年から連載の始まった、武内つなよしの『赤胴鈴之助』でも人間味溢れる内容となる。
昭和34年からの白土三平の『忍者武芸帳』では、スペクタクル要素にも重点が置かれ、残酷な描写も現実的な意味合いで表された。
宮本氏は『バガボンド』にも、それらの傾向が踏まえられていると解説する。その一方で、作者の井上氏が古武術の研究で知られる甲野善紀氏と出会ったことの影響から、作品に身体性が現れるようになったと分析する。
「井上雄彦 最後のマンガ展」は、この熊本市現代美術館では6月14日まで開催される。来年、大阪と仙台での開催も決定しているが、熊本版でも新規に描き下ろされており、回を重ねるごとに重みの増した展示となっていくことだろう。
【真狩祐志】
熊本市現代美術館 /http://www.camk.or.jp/
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