そうした河森氏だけに第1部の上映作品『イーハトーブ幻想~KENjIの春』は、やや意外なラインナップかもしれない。1996年に河森正治氏が監督した作品だが、宮沢賢治の半生を描いた比較的な地味な内容だからである。しかし今回の第2部のトークと合わせると、この作品が河森氏のキャリアの中でも重要な位置を占めることがわかる。
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しかし、河森氏が「作品は内容を観てもらえればいい。背景になったバックボーンを紹介したい」と述べるように、焦点があてられたのは作品の映像というよりも、むしろ取材の写真である。
だから河森氏のトークも、作品の解説というよりも取材の際に感じたことや、河森氏の思考や考え方そのもの、そしてなぜそこから様々な作品は生まれてくるかである。映像による創作ノート紹介のような印象となった。
今回上映した『イーハトーブ幻想~KENjIの春』についても、実際の田んぼなどの写真などが多数紹介された。ロボット作品の印象が強い河森氏は、この作品を手がけた理由を、オファーがあった時期はメインの仕事が一息ついた頃だったためと言う。
ロボットものはやり尽した、ロボットものなら断ろうと思っていたと話す。そして、題材が宮沢賢治の一生だったので引き受けたと語る。この作品をきっかけに、その後の河森氏の作品は大きな変化を遂げたようだ。
スクリーンの取材の写真はどんどん変わり、後の『上海大竜』につながった中国、『エスカフローネ』につながったネパールに移る。さらにジャングルでは『地球少女アルジュナ』や『創聖のアクエリオン』といった作品につながっている。
最新作『マクロスF』も生態系への侵略戦争を描いたものだと語り、作品がこうした取材活動から生まれてきたことが分かる。
河森氏のトークは40分ほどに及んだが、非常に速い展開で進んだため、一回のトークとしては、かなりの充実の内容になった。
また、プログラムの最後には、現在、企画中のプロジェクトとして、『BASQUASH バ スカッシュ!』が紹介された。詳細は語られなかったが、河森氏の関る大型プロジェクトのようだ。
現在、非常に多くのプロジェクトを進めていると語った河森氏だが、『BASQUASH バ スカッシュ!』も含めて、2009年以降もさらに活躍の場を広げて行くことになりそうだ。
東京国際映画祭 公式サイト /http://www.tiff-jp.net/ja/
河森正治 オフィシャルサイト /http://www.satelight.co.jp/kawamori/